8.竜神教
私達は、旅行プラン通り、お目当ての教会を訪れました。
ちょっと距離感を間違えて、夜になってしまいましたが、むしろよかったかもしれません。
教会は、外壁をすべて黒に塗りつぶし、闇に紛れ込ませるような雰囲気が素敵です。
ろうそくの明かりが、看板だけを照らしています。
「竜神教と書いてあるわよ」
「ドラゴンですか!私、会ったことないんですよ」
竜という言葉に、心を躍らせます。
一度は戦ってみたいと思っていました。
「ドラゴンもほとんど滅んでしまったからの」
ルーンさんが懐かしそうに言います。
「私の国でも、ソウが倒したリヴァイアサンを最後に竜種は滅んでしまったといいます」
「もう野生であうのは無理じゃろうな。あとは、竜界から召喚じゃな」
「竜界ですか。なるほど。冥界がありますから、竜界もありますよね。英霊召喚ができるのですから、ドラゴンもできるかもしれませんね。これは期待大です。さっそく入ってみましょう!」
私達は、中にはいると、神父がお祈りを捧げていたので、席につきました。
台の上にロープでまかれた男の人が、寝かされています。
もごもごしています。落ちそうで危ないので、しっかり固定されているのでしょう。
他にも、何十人もの人間が縄で縛られています。
なるほど。
宗教とは、こういう感じなのですね。
勉強になります。
神父が、私達を見て、儀式を中断します。
「お前たちなんでこんなところにいるんだ?」
「教会ときいたので、礼拝ですよ。他国の社会見学なので、どうぞ続けてください」
「えっ? あ、はい」
神父が腑に落ちない顔をしています。
私達以外に参拝客はいません。
もう夜おそいので、普段の参拝時間ではないのかもしれません。
「まだですかね」
「もうそろそろじゃの」
「こんなダークな雰囲気もいいわね。」
椅子に座ると、まるで劇でもみるように、クミースが飲み物を配ってくれます。
縛られている人の一人が、猿ぐつわを外して叫びました。
「た、助けてください」
「助ける? もしかして、困ってる感じですか?」
「み、見てわかりませんか?」
「そういう宗教なのかなって、私の国には国教がなくて」
「わたしたち、この人たちに生贄にされそうなんです」
「生贄ですか。あなた、出身地はどこですか?」
「アステーリ王国です」
「そうなんですか。私、サンヴァーラの女王なので、自国民は助けますが、よその国の方はちょっと助けていいか、わかりません。自分で頑張ってください」
「そ、そんな」
「移住予定で、女王である私に忠誠を誓うとかなら話は別なのですが」
「い、移住予定です! 忠誠を誓います!」
「本当ですか? 人がいなくなってしまった村とかもあって移住者募集中だったんですよ」
そうなれば話は違います。
困っている自国民は助けなければいけません。
さっそく神父に交渉する事にします。
「すみません。神父様、私の国移住予定の方は生贄から除いてもらっていいですか。移住予定の方は手をあげてください」
ほとんど全員が、もごもごしながら、手をあげようとしてくれます。
「うわぁ。嬉しいなぁ。こんなに人が来てくれるなんて」
私は立ち上がると剣に魔力を込めました。
聖剣変形「運命の剣」
聖剣を変形させます。
神父は何か言おうとしていましたが、自国民を助けることは、なによりも優先するべきです。
シュパパパパ。
パラパラパラ。
縛られていたロープが、バラバラになりました。
「やはり、我らを邪魔するか! 行け」
シュッと、影から三人の人物が飛び出してきました。
黒ずくめで、顔には仮面をつけています。
鋭くとがったナイフで、連携しながら、私の心臓を狙ってきます。
「練度も申し分ないですね」
ただし、私に勝てるほどではありません。
聖剣変形「勝利の剣」
素早く変形させると、武器を弾き飛ばしました。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴン。
切るのは、なんか違うと思って、とりあえず、剣の腹で叩きつけました。
三人は、気絶しました。
手加減も少しできるようになったようです。
「こうも簡単に……なぜ我らの邪魔をする」
「邪魔したつもりは、ありません。一応確認しますが、どんなことをしようとしていたのですか?」
「ドラゴンを召喚しようとしている」
なるほど。
私の考えは間違っていなかったようです。
「なんのために?」
「そ、それは、かっこいいから」
「それだけのために?」
「もちろんだ。虐げられてきた我らは、カッコいいドラゴンと共に、世界に革命を起こす! これは万人には理解されるようなことでは……」
私は、神父の言葉にうなずきました。
「わかります! そのドラゴン召喚したくなる気持ち」
「えっ。わかってくれるのか」
「でも、あの人たちは、何のために?」
「竜界を開くためには人の生贄が必要だ」
「死体じゃダメですか?」
「人なら死体でも大丈夫だが……」
「では、採用します!」
「はっ? 何に?」
「国教にです!」
「国教? えっ? えっ? えっ?」
神父が狼狽しています。
きっと嬉しいのでしょう。
「ちょうど処分に困った死体がいっぱいあったんですよ。良かった、良かった」
私の城には、処分したい死体がいっぱいあります。
処分してくれる上に、ドラゴンにも会えるなんて、なんてお得なんでしょう。
国教にするよりほかありません。
「なにいっとるんじゃ、ニルナや。こやつら国教にして大丈夫か」
ルーンさんがなぜか心配しています。
「専門家が近くにいてくれるなら、安心です。ドラゴンで革命といっていたので、飼いならせますよ。倒すよりドラゴンペットにする方が楽しいじゃないですか。楽しみだなぁ。ドラゴン。あっそうだ、小屋用意するように言っとかないと、餌もいりますよね。毎日、牛一匹ぐらいですかね」
「本当に言ってるのか?」
神父が疑わしい目を向けてきます。
「はい! でも、私が生贄にしていいって言った人しか生贄にしてはダメですよ」
「ドラゴンは神なんだぞ」
「はい! でも、神より女王の方が偉いですよね?」
「そ、それは……」
「だって神であるドラゴンをペットにするんですよ。そういうことですよね!」
「そ、そうなのか?」
「ドラゴン召喚してくれるんですよね? 私のために」
「あなたのため???」
「今更、できないなんていいませんよね? 虚偽罪は……」
聖剣変形「雷神の槌」
私が壁をトールハンマーで叩くと、
教会の壁がパラパラ崩れます。
「あなたをドラゴンの生贄にしますよ?」
私はにっこり笑って言いました。
神父は慌てて首肯します。
「できます! できます! できますから」
助けた人たちは、
「なにがどういうことなんだ」
と、首を傾げています。
「あの私達は、どうやってあなたの城まで行けばいいんでしょうか?」
新国民の一人がきいてきました。
「大丈夫です。この人達が守ってくれます!私の国教なので、国民を守る義務がありますから!」
私はドラゴンを召喚しようとしていた人たちを指さしました。
「確かに????」
生贄になりかけてた人たちは、納得いかないといった顔で納得しています。
「できますね?」
私は、神父に確認します。
「はい!もちろんです!あれ? どういうことなんだ????」
私はバッチリな指示を出しましたが、
みんな、頭の上にクエッションマークを浮かべています。
どうしたんでしょうか?
変ですね。
なにかおかしなことがあるのでしょうか?
◇ ◇ ◇
私は、魔導戦車を運転しながら、二人に話しかけました。
「国の復興も順調ですね!」
「なんじゃろうか。国の復興がというより、ニルナが魔王になっていくのが順調な気がするのは、気のせいじゃろうか」
「誰も死なず、みんな望みが叶いました。私は、国教と労働力を手に入れましたし、ウィンウィンですよね。世界は平和です」
「言葉にするとそうじゃな。なんか変な気がするんじゃが」
「ルーン。ニルナが、敵も味方にしていくのはいつものことよ」
クミースが肯定してくれます。
さすが私の一番の理解者です。
ルーンさんが腕を組んで悩んでいますが、途中で諦めました
「そうじゃな。妾も元々敵じゃしな。考えすぎじゃな。誰か他のしっかりした奴が考えてくれるじゃろ」




