5.女王と王妃
僕は王妃様をニルナ様の元に連れて行った。
ニルナ様は、朗らかに王妃様を迎え入れます。
「お姉様は、川を泳いで、私に会いに来てくれたんですね。ありがとうございます」
「そういうわけでは……いや、あっているような」
「せっかく女王に就任したのに、近隣諸国の王達は誰も挨拶に来てくれなかったんですよ。あんなに仲良くしていたのに! お姉様が一番のりですよ。嬉しいなぁ」
本当に心底、嬉しそうに言います。
「王は一緒に泳いでこなかったんですか?今サンヴァーラの川はゾンビがいて、あんまりおすすめの移動手段じゃないですよ」
「ニルナ様、ニルナ様」
僕は、慌てて、ニルナ様に声をかけた。
「フィルク、どうしましたか?」
「王妃様は好きで泳いで来たわけではないですよ」
「そうなんですか?」
「ニルナ様だって、歩いて隣国まで行かないでしょ?」
「歩いて行ってもいいですよ。急ぐなら、走るか馬車を使います」
そうでした。
この人ほっとくと、一日中素振りしてるような体力馬鹿でした。
それに自分基準で考えるようなので、話がかみ合わないこともしばしば。
僕らが馬鹿みたいな話をしていると、王妃様は泣き崩れています。
「ワタクシはどんな許されないことをしたというのでしょうか」
ニルナ様は、首をかしげます。
「よく分かりませんが、私たちは許しを乞う側ではなく、許しを与える側の人間です。相手が気に食わなければ、許さなければいいだけです」
えええええ。
そんな暴論、泣き崩れている人に言いますか、普通?
「そうではなく、ワタクシは、運命の糸に捕らわれたままなのです」
「なるほど。任せてください! よく分かりませんが、とにかく糸をきればいいんですよね。剣にしますか?斧にしますか?武器ならいっぱいありますよ」
「い、いえそういうことではなくて……」
「???」
ニルナ様は、不思議そうな顔をしています。
「ニルナ様、比喩表現ですよ」
「ああ、比喩ですね。わかっていましたとも。なんで縄じゃないんだろうなんて思っていませんよ」
絶対わかってなかったじゃないですか。
「糸なら、素手で引きちぎれますからね」
「糸を素手で?」
王妃様は、首を傾げています。
普通の人は、糸でも素手で引きちぎれないからですよね。
僕は、わかる。
「結局、どうしたんですか?」
今までの流れでなにもわかっていない!?
「ワタクシ、王に処刑を言い渡されてしまいました」
「処刑ですか」
「はい。その通りです」
「どうして、その場で王を殺さなかったのですか?」
ニルナ様は不思議そうに聞きます。
「はっ? えっ? 王を殺す? か、仮にですよあなたが愛する人に裏切られたらどうしますか?」
「殺しましたが」
「殺しましたが? うん? 過去形? そういえばあなたがいつも引き連れていた勇者とその子は違いますね」
「ええ、勇者は殺しましたから、裏切られたので」
「「!!!」」
王妃様と一緒に僕も驚いた。
確かにニルナ様には、いつも勇者がついていたという話は聞いたことがあった。
てっきりゾンビとの戦いで死んでしまったとばかり、まさか殺していたとは……。
王妃様は動揺で手足がふるえています。
「あ、あなたはまだ結婚していないから、わからないのかもしれませんね。そうですね。例えば、父親が裏切り、自分の前に立ちふさがったらどうしますか?」
「殺しましたが」
「殺しましたが? やっぱり過去形? どういうことなのでしょうか???」
「どういうこと、とは?」
やっぱりニルナ様は不思議そうに聞き返します。
「あなた親殺ししたということなのですよ!」
王妃様は、叫ぶように言いました。
「はい! おじい様に、攻撃されたら身内も殺せと教わりましたから!」
ニルナ様も負けじと元気に言います。
「そんな! 身内から処刑を言い渡されたら、あなたはどうするというのですか?」
「その場で、殺し合いですね。ほら見てくださいよ」
ニルナ様は、立ち上がって両手を広げました。
「な、何を?」
「結果、私しかいません!」
王妃様は、絶句してしまいました。
僕も何言っていいかわかりません。
ゾンビの所為ではなかったのか?
王族の諍いの所為でこうなったと……。
詳しくは絶対聞きたくない。
それにしても、一族全員、短気すぎる。
それに、ニルナ様は他の国の王族もそうだと思っていますね。
間違いない。
ニルナ様は、王妃様に紙を渡しました。
「あなたをひどい目に合わせた人を全員、ここに名前を書いてもらってサインもらってもいいですか?」
「えっ、あっ、はい……」
王妃様は、朦朧とした意識のまま、名前を書いていきます。
「良かった、良かった。なんだか間者がいっぱい送られてくるから、誰の刺客か聞き出したかったんですけど、癖で首刎ねちゃって、敵が誰かわかんなかったんですよ」
「癖で首をハネる?」
物騒な言葉で王妃様は、さらにふらふらになりました。
「お姉様は、私を女王と認めてくれて、私の味方だから、お姉様の敵が私の敵ですね。簡単、簡単」
敵を倒すことより、敵がだれか見極める方が難しいとでもいう感じです。
「お姉様は、王妃ですからね」
「今はちがうかもしれませんが……」
「大丈夫ですよ。私はあなたの結婚式に、列席してますし、サンヴァ―ラ王国はあなたを王妃として認めます。あなたを、証拠もなしに、貶めるなど許しはしません」
「わかってくださいますか」
「つまり王がいなくなれば、あなたは女王ということですよね」
「えっ?」
「完全になめていますよねサンヴァ―ラ国のこと。こっちは亡者の相手で大変だったというのに労いの訪問もしてこない。それどころか、間者も一杯おくりつけてきます。腹立っていたんですよね。お姉様のお墨付きももらったので、ようやく動けます」
ニルナ様は、満足げに王妃様からもらった紙を眺めます。
「うんうん。では、ちょっと行ってきますね」
「どこに行くんですか?」
ニルナ様は、満面の笑みで言いました。
「隣国を滅ぼしに行く、準備ですよ!」




