表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/90

4.検死と王妃

フィルク回

「また増えちゃたよ。どうしよう」

 

 あんまり死体が多すぎて、まともに埋葬もできていない。


 城の者以外入れない裏庭に、適当に山積みにしててもニルナ様は何も言わない。


 それどころか何も気にせず、隣でいつも素振りしている。


 死体置き場で毎日、僕を見かけると不思議そうに、こう言うのだ。


『どうかしましたか?』 


 どうかしてるのは、あなたの方だ!


 言いたい。

 言えない。


「はぁ」


 ため息しか出てこない。


 仕方なしに、僕は死体と向き合った。


「死因は斬首と」


 別に検死というほどでもない、だれでも見ればわかる。

 肌も綺麗で、特に毒とかの傾向もない。


「うっわ、すっごい断面」


 鏡面かというぐらい、綺麗な断面をしている。

 なんだか、そのままくっつければ生き返りそうだ。


「ははは、はぁ。笑えないよな。この間までは普通に生き返ってたんだから」


 ゾンビの方が、まだ死んだばかりの死体よりも見慣れているから平気かもしれない。

 

 ……いや、やっぱりどっちもいやだ。


「はぁ」


 僕は、呼吸のついでにため息をつきながら、死体の目を開いて見せる。


「あーやっぱり、この茶色の瞳は、アステーリ国の特徴だな」


 この国は、西側は青、東側は赤い瞳の人が多い。

 僕は、青い瞳をしている。

 他の色がいないわけではないけど、茶色は珍しい。


「やっぱり間者か」


 完全にこの国狙われている。

 亡者――ゾンビやスケルトンが溢れて、国が滅びかけたのは、周知の事実。

 亡者はほとんど(多分ニルナ様が倒して)いなくなったが、国力はものすごく低下してしまった。

 亡者、騒動が収まった今がチャンス。

 侵攻するため、ちょっと様子見に、間者をいっぱい出しているのだろう。


「魔王の伝説も、もう効果はないのか。王族もニルナ様しかいないからな」


 この国の王は魔王と呼ばれていた時期がある。


「ニルナ様もしっかり血引き継いでるよな。怖すぎるし、でも、僕しか怖いなんて感情抱いてないからなぁ」


 集団幻覚にでも、かかってるのかと思うほど、

 ニルナ様可愛い!

 ニルナ様可憐!

 ニルナ様美しい!

 ニルナ様健気!

 称える声しか聞こえてこない。

 城勤めになるまでは、僕だってそう思っていたわけだけど。


 僕は死体を麻袋につめて、抱えて城に帰っている途中で、知らない男に声をかけられた。


「おーい。君、城勤めだろう。こっちもきてくれ、川でも死体が上がってるぞ」


「あ、はーい」


 今度は水死体かぁ。

 醜くていやなんだよな。

 男でも女でもブクブクに膨れ上がって、見れたもんじゃない。


 川はまだ別の注意が必要だ。


 陸から逃れて、生き延びたゾンビがまだいるかもしれない。

 ゾンビが、生き延びるって変な表現だけど。


 木に引っかかったようになっていた女の死体は、ドレスを着ていた。

 どっかの貴族だろうか?


 僕は、顔を確認してみる。 


「あ、意外と綺麗……いや、めっちゃ綺麗」


 見とれてしまうほど、綺麗な顔立ちだ。


 まだ、死んで間もないのか、水膨れしていない。

 僕は、手をとって、脈をとってみる。


 トクトクトク。


 僅かだが反応があった。


「脈ある!」


 僕は慌てて、ドレスを脱がして、気道を確保し、口から息を吹き込む。


「ふー」


 僕は、胸に手を置き、力を込めた。


 1、2、3、……。


 止まりかけてる心臓を無理やり動かしもう一度脈をはかる。


「まだ弱い、もう一度だ」


 僕は何度か、繰り返した。


 再度脈をはかってみると。


 ドクンドクンドクン。


 呼吸も落ち着き、脈も回復した。


「あー良かった」


 ここ一ヶ月で死体を調べるために、馬鹿みたいに調べた医療技術が、初めてまともに役になった。


「あ、やっべ、ドレス脱がして、人工呼吸しちゃったけど、訴えられないよな」


 どうみても、どっかの貴族以上の人だ。


「うーん。でも、この国に貴族はもういないんだけど、他国かな」


 生きているのであれば、閉じている目を開いて、瞳の色を確認するわけにはいかない。

 とりあえず、破いてしまったドレスのかわりに僕の上着をかける。


 とりあえず城に連れ帰りたいが、死体の入った麻袋を放置するわけにもいかないので、僕は目を覚ますまで待つことにした。


 数時間後。


「んんん」


 ようやく女の人が目を覚ました。


「ここは?」


 女の人は、慌てたように、辺りを確認する。


「サンヴァーラ王都の郊外ですよ」


 僕が答えてあげた。


「あなたは?」


「僕はフィルク、しがない城勤めです。すみません。あなたはどちら様ですか?」


「ワタクシは、アステーリ国の王妃ゼノヴィアです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ