表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/90

2.僕の日常

 城壁に転がっていた死体をとりあえず安置所に移すという嫌な日課を終えて、朝の食堂に向かう。


「どんな日課なんだろう……」


 毎日毎日、城壁の周りをぐるりとすると、黒焦げの死体におはようございます。

 そのあと近所の食堂で朝ご飯を食べてから、検死を行うのが毎日の日課。


「ヤバすぎる」


 しかも、今日の遺体は、小柄の女の子だった。

 いつも以上に気分が悪い。


「男女平等にしないと……いや、そんな問題じゃないんだよな」

 

 綺麗な女王様と偶然出会い、雇われてラッキーなんて思うもんではなかった。

 なんで僕なんか雇ったんだろう。

 

「こなせてるわけだから、雇って当たりってことかな。勘弁してほしい」


 一か月も同じことを繰り返していたら、朝食はちゃんと喉を通るようになってきた。

 うーむ。

 人間の慣れって、恐ろしい。

 

「そのうち、何も感じなくなるんだろうなぁ」


 悲しく思いながら、パンとハムエッグを食べる。

 おいしんだよな。

 最初の頃は、味もしなかったのに……。


「城勤めがこんなところで食べてていいのかよ」


 店長が話しかけてくれた。

 城の一番近くの定食屋で、年が近くて気が合った。


「僕なんか、下っ端だから、城勤めでもたいしたことないんだよ」


 今、僕の懐には、王代行権利書があるってことは、誰にも言えない。

 誰かに知られたらと思うと、身の危険を感じる。


「偉くなって、幼なじみを迎えに行くんだって息巻いてたじゃないか」


「ははは……」


 むしろ、偉くなりすぎて動揺している。

 この王代行権利書があれば、いきなり目の前の人間を処刑したりもできる。


「それに、また首が落ちた死体が転がってたらしいぞ」


 きっとその辺の人間の首を落とすようなことをしたとしても、罪にはならない。


「王都軍に伝えておいてくれ」


 僕の気も知らずに、店長はそんなことを言う。


「だから、王都軍なんてどこにもいないんだって」


「また城には、ニルナ様しかいないとか言うんじゃないだろうな」


「だから、本当にそうなんだって」


「だったらなんだお前は、王都を占拠していた、あの万を超える亡者の群をニルナ様一人で倒したと言うのかよ」


「だから、そうとしか考えられなくて」


 どれだけくまなく探しても、あの馬鹿でかい城には、ニルナ様しかいなかった。


「あんなにおしとやかで、綺麗な王女様が、今は女王様なんだぞ。誰もいなくなってしまって、健気に俺たちのために女王をやってくださってるのに……。とにかく戦える訳ないだろう」


 わかるさ。僕だって、城に出入りするまでは、そう思っていた。

 信じられなくて、何度、城の中を隅々まで探したことか。


「でも、ほらニルナ様はいつも聖剣を持ってるだろ」


「そりゃお前、大好きだった勇者様の形見だぞ。肌身はなさず持ってるに決まってるだろ」


 ニルナ様は、自分の勇者が大好きだったのは、有名な話だ。

 いつも楽しそうに従えていたのに、今はその勇者の剣を腰にぶら下げている。

 みんな察して、くわしく話を聞いたりしない。

 自分で使っているなんて、思いもしないだろう。


「馬鹿なこと言ってないで、王都軍に伝えてくれ」


「……はい」


 僕はいろんなことに諦めて、そう答えた。

 ニルナ様の部下として、評判を下げるようなことをするべきではないから。


 店長は、忙しそうに厨房に戻っていってしまった。


 王都軍がいないのだから、遺体は、僕が片付けるしかない。


 財務大臣ってお金だけ扱っていればいいんじゃないのか?

 なんで死体を扱わなければならないんだ。


 そういえば、昨日の夕方、ニルナ様は楽しそうに聖剣ブンブン振り回しながら、お散歩に出かけていた。


 僕には、今日転がっている首がとれた死体と、ニルナ様の因果関係なんてこれっぽっちも思いつかない。

 思いつかない。思いつか……。


「……闇討ちしにきた相手を、闇討ちする女王様ってどうなんだ」


 帰ってきたニルナ様から、渡された聖剣には血がべっとり。

 いい運動したといわんばかりいい笑顔の、顔は血まみれ。

 城の廊下は、血のりがべたべた。

 掃除するのは、当然僕で、

 お風呂から上がってきたニルナ様は、

 今日はよく寝れそうだという。

 そして、朝一。


『調べといてくださいね』


 何をなんてニルナ様は言わない。

 昨日の自分を見ていれば、わかるだろう言わんばかりだ。

 そして、一か月もしたら、それなりにそんな生活に慣れてきた自分がいる。 

 なのに……。


『失敗したらどうなるかわかっていますね?』


『あなたが望むなら結婚してあげてもいいですよ?』


 慣れてきたと思ったら、さらに僕を混乱させる言葉群。

 偉くなりたいとは思っていだけど、まさか選択肢が、王様か処刑かしかないとは思っていなかった。


 そんなことを言いつつ、

 城に女を連れ込んでもいいなんて。

 その程度の不貞はどうでもいいということなのか。

 それで忠誠心を見極めようとしているのか。

 むしろ連れ込むぐらいのことをできる度胸があるかどうかを確認しているのかもしれない。


「どういうつもりなのか、全然わからない……」


 黄金色の髪、美しい肢体、黄昏色をした瞳。

 血まみれでも、恐ろしく可愛い笑顔。


 恐怖と魅力でニルナ様のことを、四六時中考えてしまい。

 ふとした瞬間、ゼロ距離での触れ合いを思い出してしまう。


 魅力が怒涛のように押し寄せてきて、毒のように心をしめる。


 絶対に他の人を好きにならないと思うほど、儚い花のように可愛い幼なじみが霞んできてしまうほどに。


 好きになってしまえば破滅だろう。


 わかっているのに、抗えそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ