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エピローグ『英霊様は勇者の体を乗っ取りました』

 世界を救った私は自分の城の玉座に座っています。

 ただし、小さくなって膝を抱えた座り方です。


 これから行わなければいけないことの、目安はあります。

 ルーンさんを探し出して、亡者や死人を一掃してしまうことです。

 まあ、それは今の私の力をもってすれば、そんなに問題ではありません。

 それよりも考えなければいけないことがあります。


「どうしましょう」


 もはや女王にして勇者といっても過言ではない私ですが、

 勇者の力量は身につけましたが肝心の女王としての力量が何一つありません。 

 

 女王としての力量とは、つまり政治です。


「お兄様が死んでいるのは知っていましたが、貴族も一人残らず死んでいるとは思ってはいませんでしたよ」


 まさかここまで酷いことになっているとは思いませんでした。

 魔女の討伐をきき、少しずつですが王都に人が戻りつつありますが、傷がひどすぎて皆すぐには立ち直れそうにありません。

 パワーでゴリ押しする問題は何でも解決できそうですが、人の心に寄り添うような繊細な問題はどうやって解決したらいいのか見当もつきません。


「誰か私に政治を教えてください!」


 そう唱えた瞬間私のペンダントが光輝きました。

 光は私が持っている聖剣に吸い込まれていきます。


「えぇえええ⁉ もしかしてこれって」


 私の体を聖剣からあふれた靄のようなものが包み込みます。

 自分の体の自由が全くきかなくなってしまいました。


「オーホッホッホ、その願い聞き届けましたわ」


 私は玉座の上に立って高笑い。

 なんだか既視感のある笑い方のテンションです。

 男女の違いはありますが、どことなく、ソウに似ている気がします。


『あのーすみません。どちら様でしょうか?』


 私は念じて私の体を乗っ取った英霊に質問します。


「ワタクシは、ソウの妻にしてサンライズ王国最後の女王ヨウキでしてよ!」 


『やっぱりー!』


 満を持して天真爛漫ヨウキおばあ様の登場です。

 どうして今更おばあ様が来たのでしょうか。


「ソウがニルナは政治が心配だから、魔女を倒した後はよろしく頼むと言っていましたわ」


 ソウは何でもお見通しですね。


 というかおばあ様もペンダントに封印されていたなんてソウは一言も教えてくれませんでした。

 確かにペンダントに魂は複数入るといっていました。

 ソウとウーツ様、二人だけとは一言もいっていません。

 英霊は、聖剣の所有者に宿ります。

 勇者が死んだ今、聖剣は完全に私の物。

 そのため、私が憑りつかれたのでしょう。


 そういえば憑依条件に、同性というのもありましたね。

 私でなければ、ヨウキおばあ様は出てこれなかったのも納得です。

 

『おばあ様もしかして、いままでのやりとりペンダントの中で全部聞いていましたか』


「はい。もちろんでしてよ」


 おばあ様は、私の顔を使いにっこり微笑みます。

 あんなに言いたい放題だったのに、そんな素敵な笑顔を作れるなんて、すごすぎます。


 というか怖いという話は何だったのでしょうか。

 ものすごく朗らかで話しやすそうな人です。

 本当に、ヨウキおばあ様でしょうか。

 信じられないのですが。


 確かソウの話では、ヨウキおばあ様は政治が得意という話でした。


『では質問いいですか?』


「もちろんですわ」


『パンがなければ?』


「小麦を作ればいいじゃない」


『お金がなければ?』


「職を増やして経済をまわしましょう」


 答えがあっているかわかりませんが、頼りになる気がします。


『これからどうすればいいですか?』


「政治の基本は、演説とコミュニケーションですわ」


『え、演説⁉』


「みんなの前でお話しして、みんなの困っていることを聞き出してよくしていくのが政治でしてよ」


『で、でも私人前で話すのはちょっと』


「さあ、行きましょう。腕が鳴りますわね」


 私の体は私の意思に反して力強く前に進んでいきます。


『ちょっとまって、まだ心の準備が』


「思ったら即日ですわよ」


『普通は吉日ですよ⁉』


 ヨウキおばあ様は私の話を聞いてくれません。

 聞いてくれなさは、ソウ以上かもしれません。


「こんなところで縮こまっていても政治はできませんわ」


 確かにそうです。

 とりあえず前に向かって突き進んでいくのが私だったはずです。

 政治のプロのおばあ様が一緒なら安心です。

 とりあえず、中から見て学んでいきましょう。


「ソウのパワーに、ウーツの魔力を持った体を好きにできるなんて、なんて幸福なんでしょう」

 おばあ様がにやりと笑います。


 ん? 

 ちょっと待ってください。

 おばあ様、今一瞬すごく悪い顔をしていたような?


 ものすごい不安が心に押し寄せてきます。


『やっぱり、おばあ様、体返してもらっていいですか?』


「遠慮しないでくださいな」


『遠慮とかではなくて』 

 

 どうにか体の主導権を取り戻さないと……。

 でも、勇者がソウとウーツ様から体を取り戻せたことなんてあったでしょうか……。


『おばあ様、もしかして、私の体もう返さないとかじゃないですよね?』


「まさか、そんな可愛い子孫の体を乗っ取ったりなんて……しませんわ」


 なんか一瞬間があった気が……気のせいですよね?


「とにかく一緒にがんばりましょうね」


『は、はい!』


「世界征服を!」


『はっ? え? えぇえええええええええ』


 今、世界征服って言いませんでしたか? 


「では、出発ですわ!」


 ズンズン、ヨウキおばあ様は私の体で進んでいきます。


『待って、待ってったら、私の体乗っ取らないでぇえええー!』


 私の体は英霊おばあ様に乗っ取られ、明日に向かって無理やり歩いていくのでした。



 英霊様は勇者の体を乗っ取りました。


 第一章完。

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