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39.ゾンビ化

 勇者の魂に、魔女の魔力が絡みつくのを感じました。


「何を……」


 私は、勇者に向かって、パリィを放ちました。

 魔法なら解除できたはずです。


「無駄よ。今更魔法を防いだところで遅いわ」


 感知できませんが、なんだか嫌なものが勇者の体を取り纏っている気がします。


「瘴気ですか」

 

 勇者が、苦しい表情で、胸をおさえます。


「勇者、しっかりしてください」


 全身から血を噴き出しながら、無理やり動こうとします。

 唇からはうめき声が漏れ、痛みに耐えることができない様子です。

 すでに瀕死だった勇者の顔色がさらに悪くなり、瞳から輝きを失っていきます。


「うぅう」

 苦しそうな声で勇者が呻きながら、私に手を伸ばしてきます。

 私は慌てて、勇者から距離を取りました。


 敵意があるというより、本能で襲い掛かってきたように感じました。

 勇者は立ち上がりましたが、歩き方は不安定で、紐でつられたマリオネットのようです。

 シュウシュウと音を立てて、勇者の体が徐々に回復していきます。

 回復魔法。

 それは、禁忌。

 つまり、勇者の体が亡者になり果てたことを意味します。


「私の勇者になんてことをするんですか」


 勇者の全身から冷たい冷気を感じます。

 虚ろな瞳は、何の影も映していません。


「あぁああ」

 声を出し、動いているのにまるで生気も意思も感じません。


「これが、あなたに用意した本当の絶望です」


 魔女の声が響きます。

 絶望の雨のように。


 勇者はゾンビになってしまいました。


「どうして」

 私は魔女に問います。


 確かに私は、勇者を殺すつもりで戦いました。

 もう勝負はついていました。

 無理に命を奪う必要はなかったはずです。


「どうして、勇者を殺したんですか」

 

 魔女は、私の不幸が蜜の味といわんばかりに、笑みを深くします。


「何を言っているのでしょう。これであの子も私と同じ存在になれたのですよ」


 つまり、私とは違う存在になってしまったということです。

 死んだ命は元にはもどりません。


「なんてことをしてくれたんですか!」


 悲しみを飛び越えて、血が沸騰するほどの怒りを感じます。

 一度目とか、二度目とかどうでもいいです。


「あなただけは絶対に許しません」


「ふふふ、たった一人でなにができると」


「誰も信用できない世界にしたのはあなたでしょう」 


「ソウの魔力も切れましたわ。あの男もなんの役にも立ちませんでしたね」


 勇者との戦いに時間をかけすぎました。

 冥界の扉が再び開いています。

 亡者が、再び無限にわき、世界を埋め尽くしていきます。


 だとしても、ソウを侮辱することは私が許しません。


「ソウは戦うために、仲間以外はすべて用意してくれましたよ」


 聖剣、防具、そして、戦い方まで、すべてはこの何も信じられない世界で唯一信じられる自分の身一つで戦うために。


「フフフ、あなたも私と同じように不幸になればいいのよ」


 絶望の闇に覆い尽くされそうです。


「あっはっはっは」

 私はソウのように笑います。


 闇が深ければ深いほど、心の幽かな光が明るく見えます。

 

「どんな強大な魔法であろうと、どんな破滅の絶望であろうと、私はくじけたりしません」


 私の祖先はみんなめちゃくちゃです。

 頭のネジが何本もなくて、脳がぐるぐる回っているんじゃないかと思うほどです。

 それでも、魔女以外に言えることは、形はどうあれ、みな私の幸せを願ってました。


 この旅では意外な自分にであいました。

 思った以上に怒りっぽくて、力で望まぬ現実を無理やり変えようとする自分。

 間違いなく私にも魔女の血か流れています。


 でもいいんです。


「私は毒リンゴはそもそも食べず、継母にいびられたらいびり返し、王子はむしろ助けてあげて、攫おうとする魔王は返り討ちにするそんな姫を目指しているのですから」


 聖剣を構えます。


「私は、海賊王と魔王と女王、そして魔女の子孫」


 この体に流れる血は極悪。


 誰よりも、『悪』の血を受け継ぐ者。


「世界を救うのは、名前も知らない誰かなどではありません」 


 私は宣言します。


「世界を救うのは私。女王ニルナ・サンヴァーラです!」

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