37.答え合わせ
「勇者? どうして……」
私は信じられない思いで、鍔迫り合いしている相手を見つめます。
「完全に不意を突いたのに……やりますね。姫様」
私は、勇者を弾き飛ばしました。
「なぜですか。勇者」
元々勇者は優秀です。
さらにソウが勇者の体を酷使していました。
相当鍛えられています。
ただ魔力は私の方が圧倒的に上です。
やれるはずです……。
そのはずなのに、気持ちが抜けていくようです。
「さあ、イシアスその娘をやってしまいなさい」
「はい。お母様」
「長年連れ添った勇者が、本当は敵なのですよ。私が用意した飛びっきりの絶望を味わいなさい。ふふふふふ」
魔女が私の顔を見て、楽しそうに笑います。
きっと私は随分、間抜けな顔をしていることでしょう。
私は、攻撃してきた相手の顔をみます。
現実から目を背ければ、きっと相手は私に剣を突き立てるでしょう。
私に対して敵意を向けているのはどう見ても勇者です。
勇者が私に攻撃してきたのは、完全に死角に入ったタイミングでした。
ソウに言われた通り、フレイソードにしていなければ対応できませんでした。
ソウには、真後ろからの不意打ちにもフレイソードなら対応できると伝えたことがあります。
きっとソウは勇者が敵だとわかっていたということです。
「どうして、ソウは勇者が敵だと教えてくれなくて……」
違います。
ソウは初めて召喚した時、私にすべて教えてくれていました。
私は初めて会った時の言葉をひとつひとつ思い出します。
『不甲斐ない子孫のために昼寝していた』
『大切なお前の体』
『子孫繁栄が大切』
不甲斐ない子孫とは私のこと。
初めの頃は、わかりませんでしたが、今ならわかります。
ソウは私の幸せを願っていました。
『大好きな勇者』
それに、私以上に私の気持ちを理解しています。
『こんな勇者はポイ捨てした方がいい』
『味方が誰一人いなくても、生き抜ける強さを身につけろ』
勇者が敵であると示唆し、
私を鍛えてくれたのです。
私は……、勇者が敵だと思いも……しな……
「いえ……本当は、私だってわかっていたんです」
答えは知っていました。
答え合わせをしていなかっただけで……。
あの頃の私とは違います。
ソウとウーツ様が、冥界に戻れば、『私は一人になってしまう』と、私は無意識にそう答えていました。
ちょっと考えればすぐに分かります。
勇者と二人で逃げ延びた旧城に置かれていた死人復活の秘術。
その秘術は誰が置いたのか。
お兄様が私を逃がす直前、いろいろ準備をするために旧城を訪れていました。
お兄様が、あんなにあからさまにおかれた禁術の本を、見過ごすわけがありません。
お兄様の後に訪問したのは、私と勇者だけ。
つまり、容疑者は一人しかいません。
犯人は勇者以外にありえない。
気づかないふりをしていただけで、そんなことは初めからわかっていたのです。
「今こそあなたを育てた恩義を返しなさい」
魔女が勇者に言います。
魔女が勇者を育てた理由。
かつて自分を殺した聖剣を押さえておきたかったのでしょう。
聖剣は、魔女が手に入れられないようにソウの墓、つまり聖域に保管されていました。
そのあとは手に入れた聖剣を利用し、王族に取り入り、魔女がことを起こすタイミングを待っていた。
そういうことです。
そういえば、初めて旧城でスケルトンに襲われていたとき、勇者は私に降伏を促していました。
生きたまま、魔女の前に連れて行き、お兄様のように何かに利用するつもりだったのでしょう。
あの頃の私はなんの脅威でもありませんでしたし、
自分は必ず助かる見込みだったのですから。
考えれば、考えるほど、勇者が魔女の手下としか思えなくなってきます。
「勇者」
私は絞り出すように、声を出しました。
「なんですか? 姫様」
「いままで英霊であるソウとウーツに体をかしていただきありがとうございました」
「敵である僕に、お礼なんて」
ソウとウーツ様が勇者の体を乗っ取った件については、魔女も勇者も想定外だったはずです。
魔女が死んだ後に開発した魔法だとウーツ様は言っていました。
「それ以前に、お金を払っているとはいえ、私のいろんなわがままに付き合ってくれたことに感謝しています」
脳裏に今までの思い出が過ぎていきます。
くだらない私の話に付き合わせるのはいつものこと。
お腹すいたと無理やり、おやつを作らせたこともありました。
城を勝手に抜け出した時、困った顔をしてついてきて、帰ってきたら、私と一緒に、レジナルドに説教されたりしていました。
いつだって、私のわがままに付き合ってくれました。
一緒に笑ってくれたのが、すべて偽りだったなんて……。
涙がこぼれてきます。
「魔女があなたの母親なのはわかりました」
お母さんが大事というのは、私だってわかります。
「それであなたはどちらを選ぶのですか?」
「ふふふ、そんなのワタクシにきまっているでしょう」
魔女が口出ししてきました。
本当に腹立たしい人です。
私と勇者が話しているというのに。
「魔女あなたには聞いていません。答えなさい勇者」
ほんの少しだけ期待を込めて、言いました。
もしかしたら、私を選んでくれるのではないかと
「魔女と私どっちが大事なのですか?」
「お母様に決まっている」
勇者の回答に、希望が砕けていく、音が聞こえました。
敵を見定めろとソウはいいました。
大切な人と戦うこともあるだろうと。
見定めたのなら、躊躇するなと。
どんな者であれ攻撃してくるものは敵。
たとえ、それが私の好きな人であったとしてもです。
『答えなさい』
それが私から勇者への最後の命令となりました。
今まで勇者に素直な気持ちを伝えたことはありませんでした。
だけど、今なら言えます。
「勇者大好きですよ。だけど、あなたは私の敵なんですね」
私は、涙で視界を滲ませながらも、しっかり前を見つめ言いました。
「ならば、私はあなたを倒します」




