34.剣聖
お父様をソウに任せて、私は初代国王に対面します。
「では改めて、私は、ハイラ・サンヴァ―ラ、サンヴァ―ラ王国の初代国王だ」
「ええ、存じております。私はニルナ・サンヴァ―ラ、現存するあなた様のただ一人の子孫です」
「わかっていると思うが、意思はあるものの、魔女に操られている。子孫とはいえ、手加減できそうにない」
「大丈夫ですよ。手合わせお願いします」
祖先だということは、理解できています。
ただお父様と違い思うところは特にありません。
ただ強いということが分かれば十分。
剣聖と言われた腕前、お手並み拝見です。
まずは様子見でしょうか。
ならば、
聖剣変形「勝利の剣」
私は、護身刀をウィ―ザルソードからフレイソードに変形させます。
「いきます」
私は、みずから踏み込み、間合いを詰めます。
ガキン。
私の踏み込みに合わせて初代国王は剣を振ってきます。
私は剣戟をフレイソードで受け止めます。
体格さがありますが、魔力を全身に流し込み押し負けないようにします。
「父上が使う形状とは違うのだな」
「ええ、私のは間違いなく剣ですよ。私はソウと違って、剣じゃないものを剣なんていったりしません」
私も剣以外の形状であるミョルニルやグングニルも使うことができます。
ただ私が学びたいのは剣聖の剣術です。
わざわざ他の形状で戦うのはもったいなさすぎます。
私は、自分から何度も打ち込みました。
さすがに剣聖とよばれただけあり、すべてさばかれてしまいます。
私は、しっかり踏み込みや体の動かし方、剣の振り方などを観察します。
「なるほど、そういう剣筋ですか」
フレイソードの自動攻撃を追い抜いて振るいます。
初めの頃は余裕でさばいていた初代国王ですが、徐々に余裕がなくなっていきます。
受けだけでは、まずいと思ったのか、初代国王が攻勢に転じます。
閃くような速さで剣が繰り出されます。
ガキン!
私は、聖剣で防戦します。
「いいですね!」
攻撃を受けるたびに、頭が理解するよりも早く体が剣術を覚えていきます。
フレイソードが、能力の限界を超えて赫赫と輝きます。
今までと逆に、私の動きから、剣の方が学んでいるようです。
私と初代国王の剣が触れた瞬間、魔力がはじけて衝撃破が発生しました。
「ははは、やはり戦いはこのくらいなければ!」
衝撃破をパリィで相殺しながら私は高笑いがとまりません。
自分が強くなっていっている実感がたまらなく楽しいです。
「父上、この娘、母上並みにヤバいぞ」
そんな私をみて初代国王が狼狽したようにいいます。
「俺様とヨウキの子供はお前しかいないんだ。お前の子孫はヨウキの子孫だろうが」
ソウはお父様の攻撃を軽くいなしながら答えます。
「ヤバいなんて、酷いですね。あなたの技を真似しているだけなのに」
海賊王、魔王、女王、魔女に剣聖も追加です。
「私には間違いなくあなたの血も流れていますよ」
血に眠る、剣技が呼び起こされていくようです。
「ここからが本番です」
私は、聖剣に再度魔力を込めます。
聖剣変形「運命の剣」
体が風のように軽くなります。
初代国王は、突然のスピードの変化に追いついてこれません。
完全に技はトレースしスピードは上回ります。
流れるような剣筋は、初代国王を切り刻みます。
初代国王の全身から血のような砂が噴き出します。
剣を杖のようにし、膝をつきました。
「くっ」
すぐに初代国王の傷が消えていきます。
お父様とちがい、致命傷は避けられてしまいましたが、生身の体であれば、勝負ありです。
このまま、腕か足を一本切り落として縛り上げれば、終わりですが、これで勝負をやめてしまう方がもったいないでしょう。
私は、再びフレイソードに戻します。
「魔女に私を殺すように言われてるんですよね。私にしっかり見せてくださいよ。飛ぶ斬撃」
「いいだろう」
初代国王は、剣を握りしめながら再度立ち上がります。
ピリリとした空気が流れます。
初代国王は、弧を描くような構えをとりました。
鋭く研ぎ澄まされた魔力が、剣に充填されます。
私がパリィを放とうとした瞬間、バングルに魔力が吸い込まれました。
聖装変形「戦乙女の盾」
左腕に装着された盾がパリィを増幅し私に斬撃が当たる瞬間にはじきます。
「すっかり忘れていました」
バングルも変形するんでしたね。
効果はパリィの効果範囲の増幅のようでした。
「父上と同じ魔法か」
「そうですよ」
パリィは、最強のアンチ魔法です。
これがある限り私は、どんな魔法も怖くありません。
少し想定外で動揺しましたが、初代国王が放つときの魔力の流れをしっかり見ることができました。
「なるほど、そんな感じで魔力を流すんですね」
あの時は単なる木刀だったので、魔力をいつもの癖でそのまま流し込んでいたので暴発したようなものだったのでしょう。
ということは、変形に必要な量以上に流し込んで、剣の中に滞留させて方向性を持たせてやる必要があるようです。
「結構わかってきましたよ。あと百発は見せてもらっていいですか」
「ひ、百だと」
「なんですか。ソウは私には千回は素振りさせますよ」
私は、ハイラおじい様の親であるソウに文句を言います。
「ソウ、ハイラおじい様は百程度で挫折していまいます。どうなってますか?」
「そんなわけないだろう。なあ。バカ息子。魔女に殺すように言われてるんだろ。攻撃してやれ」
「わ、わかりましたよ。魔女に攻撃するように言われ苦悩していた私はなんんだったのかと思いたくなりますね」
初代国王は、再度弧を描くような構えを取りながら、最大限剣に魔力を込めます。
私も鏡写しのように、弧を描くように構えをとります。
魔力は変形に使う分にさらに追加します。
魔力の動かし方、剣速、すべてを完全に真似していきます。
初代国王の剣から斬撃が飛ぶと同時に私の剣からも斬撃が飛び出します。
ズガガガガガガーン。
空中で激しく魔法がはじけます。
今度はパリィではなく、同じ魔法での相殺です。
「できました!」
「私が十年かかった技を、一度見ただけで……」
「では、またお願いします」
「まだやるのか?」
「今度は魔法なしで、はじく練習をしないと」
「正気か?」
「何言ってるんですか? ウーツ様は、一時間私に魔法を連発していましたよ?」
「義父上⁉ 父上達はこの娘を一体どんな鍛え方をしたんだ」
「仕方ないだろう。時間がなかったんだ」
「そういう問題では、ないでしょう」
「ウーツ様にはまだじっくり魔法習ってないんですよ」
「君はどれだけ強くなるつもりなんだ」
どれだけ?
できそうなことは、すべて身につけておきたい。
そんな気分です。
とにかく今は、飛ぶ斬撃ですね。
「もう一度お願いします」
「もうどうなっても知らんぞ」
初代国王はまた弧を描くような構えをとり、剣に魔力を流し込みます。
今度は飛んできた斬撃を綺麗になぞるように斬りつけました。
初代国王の足元の地面がえぐれます。
「なっ」
初代国王は跳ね返ってきた斬撃に目をむきます。
飛んでいようが、斬撃は斬撃です。
しっかり見ることができれば、普通の剣と同じようにいなすことができました。
これで完璧に飛ぶ斬撃をものにしたと言ってもいいのではないでしょうか。
「私の斬撃が、パリィ以外で防がれただと⁉」
何を驚いているのでしょうか。
ソウだってそのくらいできたはずです。
港町では、私の飛ぶ斬撃をパリィを使うことなくはじいていました。
私は、ソウを見ます。
ソウはいつの間にかお父様を縛り上げて組み敷いていました。
ソウは、私の視線に気づくと唇に人差し指を当てました。
「そういうことですか」
ソウはハイラ初代国王に、単純な剣術では敵わないと思わせていただけということです。
楽しそうに戦っていたはずです。
全然本気ではなくて、本当に稽古をつけていただけということなのですから。
私は、呆けている初代国王に素早く近寄り、片足を切り落とし、バランスをくずして倒れたところで、肩に剣を刺しみうごきできなくします。
ソウが、その間にハイラ初代国王を縛り上げます。
「父上に勝てるとは思っていなかったが、子孫がこれほど強いとは」
「魔女の奴は少しでも怪我させたらいいとかそんな算段なんだろうが、当てが外れたな」
「しかも戦いの中で強くなるとは」
「ニルナは戦闘技術の吸収力については、歴代王族一だぞ」
私は褒められて、鼻高々です。
ただ調子に乗ってはダメでしょう。
ソウは一番強いと言っているわけではありません。
私もまだ、ソウに勝てる気はしません。
ソウの強さはまだ全容が見えていませんが、いつか必ず
私が越えてみせますから。




