30.魔導戦車
魔導戦車の操作は簡単でした。
2つのレバーは、それぞれ左右のキャタピラに連動していて、前に倒しながら、魔力を注げば前に、後ろに倒しながら魔力を注げば、後ろに回ります。
つまり、2つのレバーを前に倒せば、前に進み、後ろに倒せば後ろに進みます。右を前、左を後ろに倒せば、左に曲がり、左を前右を後ろにすれば、右に回ります。
速度調整は、魔力量次第です。
速度を抑えれば、魔力使用量は回復力以下におさえることができます。
第二都市をすぎたあたりから、亡者の群れを見るようになりました。
ひっきりなしと言えるほど、亡者達はやってきます。
ガコガコ、ガシャン。
戦車を止めてあたりをうかがいます。
「亡者は、あの岩陰におるのじゃ」
ルーンさんが、斜め前の岩陰を指差しました。
「種類はなんだ?」
屋根の上にいるウーツ様が聞いてきます。
「スケルトンじゃな」
「ふむ」
頷くと、ウーツ様は刺してある聖剣に手をかけます。
聖剣変形「英雄の棍棒」
ウーツ様はすぐさまカタパルト型に聖剣を変形させます。
聖剣を刺していた台が動くようになっていますので、ウーツ様が自ら狙いを定めて発射します。
隕石のように降り注ぐ魔法の岩石がスケルトン達を粉々にしていきます。
粉々になったスケルトンをさらにキャタピラで踏み潰して、粉砕しながら進んでいきます。
私はソウが渡してくれた地図を見ます。
どのように進めばいいか書き込んであるため迷うこともありません。
いままで必死に剣で戦ってきたのがなんだったのかというぐらい楽勝です。
ウーツ様に至っては優雅にグラスを傾けています。
「一方的な蹂躙ですね。これは」
私は、一旦止まって、ソウの指示通り少し来た道を戻りながら、言います。
「一方的、ニルナはそう感じるのか?」
「? ええ、そうですよね」
ものすごく余裕がありそうなウーツ様に聞かれて私は戸惑いました。
地図にしばらく待機とかかれている場所に来るとウーツ様はあらためて声をかけてきました。
「ニルナ、魔法を使い戦う場合重要なことはなにかわかるか?」
「魔法を覚えることですよね?」
「それは、魔法使いになるために必要なこと。戦う前にすることだ」
「確かに」
ということは、魔法の威力をあげるとか、そういうことでもないのでしょう。
私は考えてみましたが、私の頭の中には解答はなさそうです。
「すみません。わかりません」
「位置取りだ」
ウーツ様は端的に言いました。
「位置取りですか?」
「そうだ。それで魔法での戦いのすべてが決まる」
確かに、移動できる戦車。
操作プラス燃料としての私。
探索に特化したルーンさん。
すべてがあるからこそ、敵を倒すことができる抜群の場所に移動して、砲台としてのウーツ様が真価を発揮し敵を殲滅することができます。
「お前が持っている地図の指示こそがなにより重要ということだ」
「地図ですか?」
「今どうしてここに止まっているかわかるか?」
「休憩ですよね」
「違う。みてみろ」
前をみるといつの間にか亡者の群れが迫ってきています。
今度はゾンビです。
さっき進んでいた道からだけでなく別の道からもです。
「魔女と亡者は、すべて潰してくれる」
ウーツ様は、冷たく凍えるような声を亡者に向けました。
聖剣変形「太陽の弓」
聖剣がバリスタに変形すると、炎の魔法が充填されます。
ゾンビ達は、瞬時に炎の中に消失していきます。
ウーツ様は、倒し終わると少し目を伏せました。
いつもはすぐソウに代わっていたので、気づきませんでしたが、少し思いつめているように見えます。
魔王と聞いたときはあんなに似合うと思ったのに、今は少し心がにじんで見えるようです。
ウーツ様はいつもの顔に戻ると、私を向きました。
「先ほどのつづきだったな。これでわかったであろう」
「敵をおびき出すため……ですね」
「そうだ。クリアリングという。亡者はそれほど知能的に動いているわけではない。ただ我の攻撃は基本前方にしかできないから、挟み撃ちに弱い。おびき出して殲滅してから進む必要がある」
「ああ、それで、こんな変な動きしていたんですね」
まっすぐ進めば最短なのに、蛇行したり、引き返したり細かい指示がたくさんありました。
よくわからないまま書いてある通り、やっていただけですが、本当は意味があったようです。
ソウは、たしかにウーツ様に代わるタイミングは、前方にしか敵がいないようにしていたようにしていた気がします。
第二都市の殲滅を行うときは『場所がいい』なんて言っていました。
「我ではこうはいかない。結局、戦いはソウがプロフェッショナルだ。あやつは海賊、海の上では単に剣の腕前だけ強ければ敵を倒せるようなものではない。波を読み、風を感じ、見えない敵を予測し、船を進め敵を追い詰める。我にはできない芸当だな」
少し自虐的に聞こえます。
「ウーツ様だって万の敵を倒したって」
「万の兵を倒せる魔法を一人で使うよりも、万の兵をおびき出し、絶好のポジションから魔法を放つことの方が難しい」
「ウーツ様はどうやって、おびき出したんですか」
「リークされた」
「リーク?」
「匿名で敵軍が攻めてきていると連絡が入り、疑心暗鬼のまま指定場所にいってみたところ情報通りだった。さらには場所も完璧。ただ魔法を放てばいいという状況だった。我は魔法を使い敵を倒した。そのあとだ。我が魔王として畏怖されるようになったのは」
ウーツ様は不本意そうに言います。
「本来『魔王』という名は、魔法使いの最高位は賢者と呼ばれていたのにだ」
そういえば、ウーツ様を初めて召喚したとき頭の中に流れてきたイメージは『賢王』でした。魔王ではありません。
「誰かが、我を恐ろしい魔王として仕立て上げた。結局リークしてきた人物も魔王に仕立て上げた人物もわからずじまい。ただ誰かは、見当はついておる」
「誰でしょうか」
「当時、わが国の東に位置して、我を魔王に仕立て上げ、西の諸国をふるえ上げさせて得した国の王といえば……」
私は今まで教えてもらった祖先達から一人の名が頭に思い浮かびます。
「ヨウキおばあ様?」
「その通りだ。しかもあやつは、いつの間にか最強の海賊と結婚し、東の海の守りも完璧にしていた。ソウの強さは圧倒的。我は、ヨウキに逆らう選択肢はなかった」
「逆らうってまるで、戦いも視野にいれていたみたいに……」
「敵対していたわけではないがな。別の国だったのだ。当然、考えてはおかなければなるまい。考えたすえ、勝てる見込みはなかった。今回の件だってそうだ。魔法については……英霊召喚の秘術、我が行ったが、魔女の対策として、聖剣も、装備も、そこのヴァンパイアすら仲間にしておいたのもソウだ」
ルーンさんはぷいとそっぽを向きました。
殺すことができるソウとは、親しく話すのに、ウーツ様とは親し気ではありません。
「ヨウキはウーツ殿に無血開城させたも当然だろう」
そんな皮肉もいいます。
「ルーンさん。そんな言い方。初代国王は恋愛結婚だと聞いていますし、サンライズとムーンヴァ―ナはどちらが上とか下とかはないはずです」
「ソウ、あやつは、我のことを相棒だと言ってくれる。我もそう思っておる」
「ソウは、役割があると言っていました。ウーツ様は殲滅で、ソウは討伐するのが役目だと」
ソウがウーツ様のことを話すときは、どこか誇らしげで、自分のことを話すようです。
ウーツ様も頷きます。
「ああ、その通りだ。だが、もしも、我とソウが敵同士で一対一で戦ったとしたらどうだろうか。我は、剣は使えない、我が聖剣形状をいくら剣だと言い張ってもさすがに無理があるであろう」
「ですよね」
ウーツ様はわかって言っていたんですか。
滑稽でも、剣だと言いたくなるのは、剣を使いたかったから……。
「我は、剣が使えないが、ソウは、魔法が使えない……わけではない」
たった一つだけ使える魔法があります。
「あやつが使える魔法パリィ、あの魔法は敵を吹き飛ばすなどの副次的な効果もあるが、本来の用途は」
その効果は、ウーツ様と戦ったと仮定した場合に、勝敗を分けるもので、
それは……
「魔法の無効化だ」




