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28.血統

 私たちは、ドワーフの家を目指していました。


「ひからびそうなのじゃー」

 ずーずー真っ赤なジュースを飲みながらルーンさんが言います。


「干からびるとは?」


 ルーンさんはさっきから飲み物は大量に飲んでいるのに変な話です。


「そろそろ魔力もらえんかの?]

 ルーンさんがソウにねだっています。


「魔力? 魔力とは、受け渡しできるようなものなのでしょうか」


「人は無理だな。ただヴァンパイアは、定期的に魔力を外部から摂取しないと、まあ、死ぬ」

 ソウが答えてくれました。


「大変じゃないですか」


「聖域は魔力が漂っているからのお。生きてくぐらいなら、事足りるんじゃが、時間がたってきたから飲み物でごまかせなくなってきたのじゃ」


 ただでさえ白かった肌は青白く浮き上がり、血管が透けて見えるほどに薄くなっています。

 伝承のように日差しを浴びて、灰になったりはしないようですが、メラニンの発生しない肌は普通に辛そうです。


「魔力をあげるには、かませないといけないんですか?」


 さすがにそれはちょっと嫌です。


「あたしはいやよ。かまれるぐらいなら干からびなさいよ」

 クミースも気持ちは同じようです。


「血も涙もないひどいやつじゃの」


「血がないんだから、噛んでも仕方ないでしょ」


「誰がうまいこと言えといったのじゃ……。こっちは本当に切実なんじゃぞ」


 クミースとルーンさんは、ギャーギャー言い争いを始めますが、やっぱりルーンさんは少し元気がないようです。


「ソウなにか方法はありませんか?」


「俺様達は魔力を外に放出できるだろう。ルーンの口に魔力を直接放り込んでやればいい」


「それでいいんですね。それならおやすいごようです」


 本当の本当に干からびそうになったら、ソウも魔力をあげたのでしょうが、弱っているルーンさんを見るのは不憫なので私があげることにしました。


「うれしいのう。久しぶりの人の魔力じゃ」


 私は手のひらに、魔力を集めてお団子状にします。

 目には見えませんがしっかり感じられるようになってきました。


「ルーンさん。口をあけてください」


「あーん」


 赤子のように可愛らしく開いた口に私は魔力を放り込みます。


「なんて甘美でクリーミーな旨さなのじゃ。まるで生前に食べた濃厚なチョコレートケーキのようじゃな。口の中に広がるスイートネスで幸福感がいっぱいなのじゃ」


 美食家みたいなことを言っています。

 パティシエにでもなった気分です。


「血を通して、風味を味わいながら飲むのもいいんじゃがのう。純粋な魔力も格別じゃのう。もう少しもらえんか?」


 随分気に入ってくれたようです。


「全然かまいませんよ」


 最近は魔力が使えば使うほど湧き上がってくるように感じています。

 少し消費したいぐらいでしたのでちょうどいいです。


「また口あけてもらえませんか」


「よろしく頼むのじゃ」

 笑顔で嬉しそうに口を開けます。


 そんなに気に入ったのなら沢山あげましょうか。

 流し込んであげた方がいいかもしれません。

 私はパリィ十回分ぐらいの魔力を掌に集めて、ルーンさんの口におしこみました。

 そのまま魔力をさらに発生させ続けます。


「もごごご」


 ルーンさんは陸にあがった魚のように、口をパクパクさせます。


「ん? まだ足りませんか?」


 私は、ルーンさんの口にさらに魔力を流し込みんでいきます。


「むぐぐぐ」


 なんだか面白い顔をしています。

 どうしたんでしょうか。


「ニルナ、ちょっとやばいんじゃないの」


 クミースが私をルーンさんから引き離します。

 やばいとはなんのことでしょうか。

 私は、魔力の供給を停めました。


「や、やめい。妾をはじけとばす気か」


 見るとルーンさんのお腹は妊婦のように膨れています。


「ちょっと多かったですか」


「ちょっとなんてもんじゃないぞ。なんて量なのじゃ」


 うーむ。加減が全然わかりません。

 ルーンさんははちきれそうなお腹をさすっています。


「おおお、気持ちが悪い。魔力酔いなんて人生で二回目じゃぞ」


 吐くような動作をしますが、魔力は形がありません。

 何もでてきません。

 ルーンさんは涙目になっています。


「魔王の子孫は、魔力も桁違いじゃのう」


 ルーンさんが、おかしなことをいいます。


「魔王の子孫? なんのことですか」


「なんじゃ聞いとらんのか」


 ルーンさんはソウをみました。

 私もつられてソウを見て説明を求めます。


「魔王とは、魔法帝の別称だろう。最強の魔法使いに送られる称号だ」


「ああ、悪魔の王とか魔族の王とかいう意味ではないのですね」


 ふむ。魔法帝ですか。

 最強の魔法使いと聞いて私は一人の人物が頭に浮かびました。


「つまり、魔王とは……」


「相棒に決まってるだろう」


 ぐらりとめまいを感じました。


 ウーツ様が魔王なんて、そんな、そんなことって……。


 あ……。

 全然違和感ありません。

 むしろ納得ですね……。


 小さいころ、私が言うことを聞かないと悪い魔王がやってきてさらっちゃうわよ。とお母様に言われた覚えがあります。

 なんだかお父様が変な顔をしていたのは、そういうことでしたか。

 自分の祖先に魔王がいればあんな顔にもなります

 お母様は普通の貴族出身、お父様はお母様にそんなことまで教えていなかったのでしょう。


 それに、ウーツ様は別に悪くはないでしょう。


「魔王が魔法帝という意味なら、怖い意味はないですよね」


「まあ、そうだな。ただ魔法が強いって意味だからな」


 私はホッと胸をなでおろしました。


「どのくらい強かったのでしょうか」


「敵国が攻めて来たとき、ひとりで万の敵を倒したとか言っていたな」


「一人で万!? 万とは100の100倍のことですよね」


「何をお前はそんな当たり前のことをいっているんだ?」


「万? えぇ。万?」


 私はうわごとのように繰り返します。


 ただ想像できないわけではありません。

 いつも、数え切れないほどの亡者を瞬く間に倒してしまうウーツ様のことです。

 あれが普通の兵隊だったとしても結果は変わらないでしょう。


 隣国との関係は良好……。

 そう思っていましたが単にいまだに恐れられているだけなのではないでしょうか。


「ははははは」


 乾いた笑いしか出てきません。

 私は自分の祖先にうすら寒いものを感じるのでした。


◇ ◇ ◇ 


 ドワーフの家は、港町が見渡せる丘の上にありました。

 頑丈な石造りの家です。

 屋根にある煙突からはモクモクと煙が出ています。

 随分立派な家です。


 中に入ると、店のようになっていて、武器や装備品が所狭しと並んでいます。

 一番前に大量に並んでいるのは、包丁です。

 クミースは手に取ってまじまじと見てみます。

 木こりの娘なだけあって、刃物に興味があるようです。


「料理人以外がここまで来るのは珍しい」


 店番をしていたのは、子供ぐらいの大きさしかない人物です。

 ただし、腕は太く筋肉質で、口には立派なひげを生やしています。


「思ったより、元気そうだな」


 ソウが声をかけます。

 

「なんだお前さんは、なれなれしいな。どこかであったか?」


 ソウは勇者に憑りついているだけなのでドワーフはわからないようです。


「む?」


 ドワーフは、ソウではなく、ルーンさんを見つけると、顔をしかめました。 


「腹黒エルフめ。まだ生きておったか」


「お互い様じゃのう」

 ルーンさんはカッカッカと笑います。


「お前さんに売るものはない」


「妾は、ただの付き添いじゃ」


 仲が悪いのか良いのか……。

 悪いよりの会話をしています。


「妾と呑気にはなししていていいのかの。まだこやつが誰かわからんのか?」


「こんな若造、ワシはしらんぞ」


「俺様は知らなくても、こいつは知っているだろう」


 ソウは私の腰から聖剣を引き抜きました。

 そのままドワーフに渡します。


「こ、こいつは、ワシの聖剣か」


 ドワーフが触れると聖剣が光り輝きます。


聖剣変形「鍛冶神の槌(ヘパイストスハンマー)


 ドワーフの魔力を受けて、エンブレムが鉛色に光り輝きます。

 いつものように聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、小ぶりの鍛冶に使うハンマーに変形しました。


「まさにワシの聖剣じゃ」


 ハンマーに変形させて聖剣だと認識するなんて、変な確認方法です。


「あんたは?」


 ドワーフが私に聞いてきます。


「私は、ニルナ・サンヴァ―ラこの国の王女です」


 ドワーフは頷きました。


「ワシはボーレン。腹黒エルフと王女がいて聖剣がここにあるということは、お前さんは……」


 ボーレンは勇者を見ました。


「ソウだ」


 ボーレンは、ため息をつきました。


「つまり、魔女が復活したのか」


「話がはやくて助かるな」


「ウーツ国王もいるのか?」


「ああ、この体を共有している」


「はあ、もう復活したのか、おぬしらが死んでから二百年もたっていないというのに」


 ソウが顎に手をあて考えます。

「そんなものなのか。時間経過はどうもよくわからんな」 


 二百年ですか。

 昔は昔ですが、大昔というほどでもありません。


「まあ、そんなことより、どうしても聖剣がもう一本いる。ないか?」


「ワシが生涯作ったのは、それ一本のみ。あとはウーツ国王に献上した魔法性能に特化した魔杖ぐらいか。魔杖はどうしたんじゃ?」


「あれは冥界の扉の封印に使っていたんだ。冥界が開いているということは、壊れたか、魔女が持っているかどちらかだろう」


「聖剣一本ではどうにかならんのか?」


「聖剣を別の形状にする時どうしても、タイムラグが発生する。魔女を倒す為には、まわりの亡者を一掃する殲滅形状と魔女を殺す討伐形状を同時に存在する必要がある。どうしても欲しい。どうにか手当してくれ」


「だからないといっているだろう」


「よし。じゃあ、もう一本作れ」


「お主は簡単に言うが、あれ一本作るのに何年かかったと思っておる。それにもうそんな体力もない。おまえさんらより寿命は長いが、老いないわけじゃない。ヴァンパイアに成り果てたそこのエルフと違ってな」


 ルーンさんを揶揄するようにいいますが、ルーンさんはどこ吹く風です。


「弟子は?」


「弟子はおったよ。出て行ってしまったがの」


「どうしてですか?」


「普通に結婚だよ。それに平和な世の中が続いて、武器の需要はあまりなかったからの、木こりでもやりながら趣味の木彫りでもやるといって仲良くなったおなごと出て行った。いまはどうしてるか。腕はよかったんだがの人間は人生を捧げなければ、聖剣は作りきれん」


 弟子は普通の人だったのでしょう。

 聖剣を作るには、何十年も必要なのかもしれません。

 ドワーフほどの寿命が必要なのでしょう。


「そういえば、弟子は一本、討伐形状になら変形できる聖剣なら完成させていたな。若かりし頃の、アナッタ王に送ったはずだ」


「アナッタ王?」


「ニルナ、それはいつの王だ」


「私のお父様の名です」


「ということはあるとしたら王都か……。魔女が聖剣が近くにあると気づいていないことを祈るばかりだな。通常時は、どういった形状なんだ?」


「弟子は女性でも持てる形状の聖剣にしていたはずだ。王家の紋章もいれていたという」


 ん? 女性向けで王家の紋章の入った剣?

 どこかで見たことがあるような。

 見たことあるというか。

 私は荷物の中から護身刀を取り出します。


「もしかして、聖剣とはこれのことでしょうか」


 取り出した護身刀をボーレンに見せます。


「まさしくそれじゃ」


 私は、魔力を注いでみます。

 カシャンカシャンと音を立てて変形しようとします。

 間違いなく聖剣です。


「本当に、お前の兄は用意周到だな」


「お兄様……」


 お兄様は、武芸や魔法の才能があるわけではありませんでした。

 ちゃんと希望をつなげてくれました。

 偉大な王の素質です。


「よし。じゃあ、ここは用済みだな」


「まったく、何て言い草だ。本当に相変わらずだな。大体おぬしは、聖剣を盗んだことを謝ったことなからろうが」


「盗んだ⁉」


「こやつは元海賊だからな」


「海賊⁉」


「その盗んだ聖剣で、この町を守るためリヴァイアサンを討伐しとらんだったら、ワシは絶対許しとらん」


「リヴァイアサン⁉ 海賊王が倒したという伝説の怪物ですか」


「海の覇王、海賊王とはこやつのことだからな」

 

 とんでもありません。

 私は海賊の子孫ということです。


「ということは、私は、魔王と、魔女と海賊王の子孫ということに?」


「ルーン以上にわけわからないわね」

 クミースが笑いながら言います。


 ヴァンパイアロードエルフ以上にわけわからんと言われてしまいました。

 私自身が、一番衝撃を受けています。


「そんな海賊とおばあ様はどうして結婚したのでしょうか」


「俺は海賊だからなヨウキを誘拐したに決まってるだろう」


「な、なぜ」


「美人だったからな」


「そんな理由で」


「海賊が女をさらう理由が他にあるか」


「そうかもしれませんが……、そうなると、祖先でヨウキおばあ様が一番まともですね」


「ん? 海賊に自ら誘拐されて結婚するやつがまともなのか?」

 ソウがそんなことをいいます。


「自ら誘拐⁉」


「実際、ソウに誘拐させたのはヨウキの策略だったのだ」

 ボーレンさんが補足説明してくれます。


「おばあ様⁉」


「誘拐したらヨウキのやつ結婚したら、私も国も半分といわずすべてあげますというからな。もらってやったのよ。王女と海賊王は結ばれ、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」


「そんなめでたしめでたしがありますか! 世の中のおとぎ話にあやまってくださいよ」


 さらった人物と結婚して幸せになるお姫様とか聞いたことありません。


「ソウは、貴族やら、他の海賊から、奪いまくっておったが、殺したりはせんかったからのう。それに、庶民に、宝をばらまいておったから人気だったのじゃ。ヨウキもそれはもうファンでのう。ヨウキのやつ、うまいこと気が引けたと、ものすごく喜んでおったのう」


「まんまとヨウキにしてやられたな。結婚したら、自由に暴れまわっているようで、全部ヨウキの望むようになっていたし、いつのまにか俺様の子分たちは、海軍ということになり、国の後ろ盾つきで好きに暴れた結果他の海賊はいなくなってしまったからな」 


「あはは」


「クミース笑い事じゃありませんよ。私は王族と海賊の子孫というわけがわからない存在になってしまったのですよ」


「ニルナ、何言ってるのよ。あんただって誘拐されて、仲間ふやしてたじゃない」


「そんなこと……そんなこと……あれ?」

 

 心当たりはあります。

 さっきまで一緒にいたレザとその仲間達です。

 確かレザたちを仲間にしたとき、ソウが変なことを言っていました。


『誘拐されて、部下増やすのは、血筋なのか』


 血筋――ヨウキおばあ様のことを指していたのでしょう。


「ヨウキおばあ様もつよかったんでしょうか」


「あいつは戦闘力皆無だ」


 戦闘力皆無でそんなこと成し遂げる方がよっぽど、頭のねじが飛んでいます。

 どういう神経をしているのでしょうか。

 ヨウキおばあ様が一番おかしな可能性もあります。


「戦い方はソウそっくり、魔力はウーツ、性格はヨウキじゃの」

 全員を知るルーンさんが私のことをそう評価しました。


「ニルナ死人召喚もやっちゃってるんでしょ。全員の血筋しっかり受け継いでるのウケるんだけど、あはは」

 クミースが爆笑していました。


 一体私の体を流れる血はどうなっているのでしょうか。

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