24.棺桶
「この棺桶はソウのものですか?」
私は首をかしげて、ソウに聞きました。
装備が置かれていた部屋は完全に宝物庫でしたが、棺桶の傍は、豪華な机、座り心地がよさそうなソファー、一級品のデザインのキャビネットと高級品が並んでいるものの何故か生活感が若干あります。
その真ん中に漆の塗られた立派な棺桶が置かれているので変な感じです。
まだ宝石類の中心に棺桶が置かれている方が違和感がありません。
「俺様とヨウキは粉風葬、棺桶はないぞ。大体一つだけしかないだろ。数が合わないだろう」
粉風葬、骨を完全に砕き、風に舞わせる葬送方法。
亡者が跋扈していた時代では一般的な方法とのことでした。
ソウ達が提言していたのですから、自分たちがその方法を取るのは当然のように思えます。
ソウが言う通り粉風葬でなかったと仮定しても、
ソウとヨウキ女王おばあ様の分、棺桶は二つあるはずです。
夫婦とはいえ、棺桶一つに遺体を二つ入れることはないでしょう。
「そうですよね。では、この棺桶は一体……」
私はポンと手を打ちました。
「あ、わかりました。ソウの息子ですね」
「あいつらの墓は、普通に城のそばだ。お前行ったことないのか?」
「ああ、そうですよね」
ソウの息子は、つまり私の国の初代国王ということです。
私が普段お参りに行くお墓です。
たしかに、城の傍にあります。
「では、いったい誰のでしょうか」
「まあ、見てろ」
ガンッ!
ソウは、置いてあった棺桶をけたぐります。
「ちょっとソウ!?」
あまりの横暴に私は声を上げました。
死体であっても不当に扱うのはよくありません。
どんな身分の死体であっても、適切な尊厳を保つため、敬意を払い取り扱うべきです。
「おい。起きろ寝ぼすけ!」
ゴンッ!ガンッ!
私が非難する前に、ソウは棺桶を再度けります。
棺桶が横倒しになり、中身が飛び出してきました。
てっきりミイラになった遺体が転がり出てくるものだと思っていたら、中から女の子が転がり出てきました。
「えぇえええええ! どちら様ですか!?」
女の子は、茶色の長い髪に真っ白な綺麗な肌をしていました。
ゴシックな黒の服を着ています。
一番印象的なのは、艶のあるマントでしょう。
それに普通に生きているように見えます。
「言っただろ。墓守がいるって」
「いやいや、墓守は、お墓を守る人のことであって、棺桶に入っている人のことではありません」
女の子は頭をおさえながら立ち上がります。
「あたたた。棺桶を蹴るとは何たる無礼なんじゃ」
普通に生きています!
「妾を誰と心得る?」
女の子は、キッっとにらみつけてきました。
「お前は俺様を誰と心得ているんだ?」
ソウは、女の子以上の威圧感でにらみ返します。
あまりの凶悪さに、女の子はひるみます。
「おいニルナ聖剣かしてみろ」
「えっ? あ、はい」
私は慌てて、ソウに聖剣を渡しました。
ソウは聖剣を掲げます。
聖剣変形「邪神の封印剣」
聖剣に埋め込まれたエンブレムが禍々しく光り輝きます。
聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、ほとんど形を変えずに聖剣から邪悪な波動があふれ出しました。
初めて見る聖剣の形状ですが、私にはわかります。
この剣の効果は、魂の破壊。
私のグングニルと同じ効果です。
ただし、グングニルと違い、どこが『聖』剣なのかわからないほど、暗黒の力を帯びています。
ソウは、聖剣の先端を女の子に突きつけました。
「ひぃいいいい、レーヴァティン⁉」
剣をみた女の子は悲鳴を上げて、震えあがります。
「その剣を持っているということは、あなたは、あなた様はもしかして、もしかすると……ソウ?」
「その通りだ」
「まさか本当に復活して」
「言っただろう。魔女が復活することがあれば、俺様も復活すると」
「妾はなにもしてないもん。ずっとここでおとなしく寝てただけだもん」
「だから、俺様は怒ってるんだろうが! 聖剣を抜いた奴がいたら、監視しとけと言ったよな? こいつが自分から王家に行ったからよかったようなものの、所有者不明になっていたらどうするつもりだったんだ。ニルナ、お前の前に勇者が現れてからどのくらいたつんだ?」
私はおぼろげな記憶から勇者が現れた年をを思い返します。
「五年ほどでしょうか」
「まさかお前は五年もなにもせずに寝こけてたんじゃないだろうな?」
視線を逸らします。
「た、確か、王族の誰かには伝えたような?」
「誰ですか? 王族の名前なら全部わかります」
「それは、その……」
「妾が嘘ついたことなんて……」
「ああ? また腕切り落とされたいのか?」
「ありました。すみませんでした! もういやなのじゃ。腕復活するのに100年はかかったんじゃぞ」
「じゃあ、素直に言え」
「ずっと寝こけていたのじゃ……」
「しかも、ヴァンパイアが魔女の手下になって暴れまわってるぞ。どうなってるんだ」
「ヴァンパイアすべてを、妾が全部把握しているわけではないのじゃ……」
「監督不行き届きということでいいな」
「はい……。間違いないのじゃ……」
ようやく私は目の前の方の種族の見当がつきました。
「ん? つまりこの方はヴァンパイアですか?」
「そうだ。こいつの名はルーン。種族は、ヴァンパイアロードエルフだ」
「ロードエルフ?」
「ヴァンパイアの始祖で元古代種エルフだ」
なんだか少し尖った変な形の耳をしています。
確かに伝説で語られるエルフの特徴です。
「属性欲張りすぎなのでは?」
私は思ったことをそのまま口に出しました。
ヴァンパイアだけでも特殊な存在なのに、それにエルフとは。
てんこ盛りすぎです。
「誰なんじゃ、この小娘は?」
「俺様の子孫だが? おい、ニルナ、この間手に入れた形状を見せてやれ」
「はい」
私は聖剣を受け取ると魔力を注ぎます。
聖剣変形「最高神の槍」
聖剣に埋め込まれたエンブレムが煌々と輝きます。
聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、槍へと形状が変化します。
私はグングニルを掲げて見せました。
「効果を、そいつに教えてやれ」
「この聖剣形状の効果は、魂の破壊と絶対必中です」
絶対必中ですが、当てる為には条件があります。
遮蔽物がないことです。
また、手を離してしばらくすると通常形状に戻るためあまり離れすぎていてもダメです。
世界の裏側まで、追尾して当たるわけではありません。
「こいつの得意魔法は霧化だ」
「ああ、それなら絶対当たります」
霧が遮蔽物になることはありません。
適当に投げても魂の中枢に当たることでしょう。
相手が霧なら振り回すだけで魂が削れていくので、楽勝です。
私は事実を答えただけですが、ルーンさんは、恐怖のあまり、口から泡を吹いています。
「魔女に味方した、お前を生かしといてやったんだ。もう、十二分に生きただろう。そろそろ灰になってもいいんじゃないか」
「妾はのんびりゆったりと生を謳歌したいだけじゃもん」
「お前なら、蝙蝠一匹聖剣抜いた奴に飛ばせるだけだろう。住処を提供してやってるんだぞ、なんでそんなこともやらない」
「ちょっと気を抜いていただけなのじゃ……。その悪気はないのじゃ……」
ルーンさんの言い訳が空しく響きます。
「あれ? そういえば、ここは聖域なんですよね。瘴気がないのにヴァンパイアは生きていけるのですか?」
「正しくは瘴気もだ。ヴァンパイアは亡者だが、瘴気から生まれたわけではない。本来は魔力をエネルギーにする種族。この聖域は魔力も多い。ここから外にでなければ、ヴァンパイアはずっといきていられる」
「同じ亡者というくくりであっても、ゾンビやスケルトンとは違うということですね」
「ああ、それに、こいつらヴァンパイアは瘴気もエネルギーにしているということは、瘴気の探査機として優秀なんだ。つまり、生者と死人の区別がつく。しかも、こいつは始祖。他のヴァンパイアに操られる可能性はない。こいつ自身は信用ならないがな」
「嘘つく可能性があるということですか」
「そうなるな。もし誤った情報を伝えてきたら、すぐさまグングニルを投げつけろ」
「わかりました!」
「なんて無慈悲に素直な娘なんじゃ……」
「ははは」
こういうやり取りをしっかり目の前でやることが大事なのでしょう。
こうしておけば、私とソウどちらが聖剣を握っていても、簡単に裏切ることはできないと思います。
悪い人には見えませんが、出会ってすぐなので、100%信頼できるかと言われると私も疑問です。
もしもなにかあればグングニルを投げつけるという言葉に嘘はありません。
本気は本気です。
「ルーンさん、協力お願いできますか?」
「拒否権はないんじゃろう?」
私はグングニルをちらつかせながら言います。
「そうなりますね」
断られたら、命令するだけです。
魔女を倒すためには、何としてでも――脅してでも、ルーンさんの協力が必要です。
「魔女を倒すまでじゃぞ?」
「はい! お願いします」
私はバングルとルーンさんを交互に見ます。
『役立つもの』
役立つ物と役立つ者それぞれ確かにソウの墓にありました。
「ソウ、これで、魔女を倒す準備は全部ですか?」
死人の探査機であるルーンさん。
魔女の攻撃を防ぐバングル。
魔女を討伐するための聖剣。
すべてがそろったように感じます。
「そのつもりだったが、もう一つだけ手に入れたいものがある」
「それはなんですか?」
「もう一本の聖剣だ」




