23.王墓4
私たちは、船をとめると、それほど大きくはない島の中心部に向かいます。
「相棒の奴、少し話すぎだな」
島に上陸しながら、ソウは言います。
不満そうでした。
「経緯は教えてやったが、お前が半人前なことにはかわりない。修行は今まで通り続けるからな」
私は、ソウに視線でうながされて、聖剣で素振りを始めます。
「そんなことはわかっています」
過去の出来事がわかりましたが、やるべきことが変わるわけではありません。
「要は全部王族の所為ってことでしょ?」
クミースがわざと嫌な言い方をします。
責めている感じはしません。
ただ確認しておきたいということなのでしょう。
「まあ、そういうことだな」
ソウは肯定しますが、悪びれたところはありません。
「だから、子孫であるこいつが全責任を持って魔女を倒すんだよ」
「ははは、そういうことになるのですね……」
乾いた笑いしか出てきません。
責任重大です。
もちろん、ソウとウーツ様も手伝ってくれるのでしょうが……。
ウーツ様は、私に対してすまなそうな雰囲気を感じました。
ソウは今も一切それがありません。
もう、本当に酷いんですから……。
ですが、よく考えると、ソウ自身は、魔女の血を引いているわけではありません。
「以前、魔女、おばあ様を倒したころは、もうソウとウーツ様の子供は結婚していたのですか?」
私は気になってソウに聞きました
「あ? 違うな。むしろ魔女を一緒に倒すことで相棒と接点ができた。討伐後は、よく社交パーティーなんかを開くようになった。それであいつらは結婚することになったんだ」
やっぱり思った通りです。
ソウが魔女を討伐したときは、ソウと魔女に接点はなにもなかったということです。
ウーツ様から魔女討伐の協力要請の打診があり、一緒に討伐を行ったということでしょう。
元々隣国で、放っておくと自分の国にも被害が出るかもしれないとはいえ、よその国の問題です。
必ずしもソウが手伝わなくてはいけないわけではなかったと思います。
結局、ソウは雰囲気とは裏腹に随分お人よしなのでしょう。
そんな人が自分の祖先というのはうれしく思います。
よく考えると私は、そんな人をずっと呼び捨てで呼んでいました。
「これからはなんと呼べばいいんですか?」
「今まで通り呼び捨てでいい。今更だろうからな。本当は俺様だけ呼び捨てなのは納得いかないが」
「すみません」
私は家族も様付けで呼びます。
家族はみな王族で、私が一番下だからです。
本来ソウも様付けするのが自然なはずなのですが……。
ソウ様。
やっぱりなんだか違和感があります。
初めが肝心ということなのでしょう。
いろんなことを知った今は、一番親しみがこもっている。
そういうことにしておきましょう。
◇ ◇ ◇
「見えてきたぞ」
島の中心の少し小高いところに台座がありました。
私たちは台座の上まで歩を進めます。
台座に宝石などの装飾はなにもありませんが、上面は平らで、周囲には古代の文字や神秘的な模様が彫り込まれています。
その中に一際目立つエンブレムが二つありました。
太陽と月の印象を受ける模様は混ぜると私の服にも書かれている王家の紋章に似ています。
きっと、元々の二つの王家の紋章なのでしょう。
そして台座の中央には、私の持つ聖剣の刀身が刺さるぐらいの穴が開いています。
きっとここが聖剣が刺さっていた場所なのだと思います。
「聖剣をそこに刺してみろ」
「はい」
私は言われたように聖剣を刺します。
穴は聖剣の刀身にピッタリで、奥に当たるとカチっと音をたててロックされました。
「抜いてみろ」
「はい」
私はまた言われた通り、聖剣を抜こうと力を入れました。
ちょうどその時、風が吹き抜けます。
ほんの少し聖剣に魔力が吸われる気がしました。
スポーン。
さっきのロックはなんだったのかというぐらいあっさり聖剣が抜けました。
私は聖剣を頭上に掲げて、観察してみます。
美しい刀身。
魔力を帯びると、様々な効果を発揮する形状変化を起こす伝説の武器。
太陽の光をあびるとキラキラ光り輝いています。
ただし、いつもと変わりありません。
「?」
てっきり新しい力が目覚めたりするのかと思いましたが、特に何も起こりません。
聖剣もかわったところはありません。
「もう扱い自体は、できるからな。抜けて当然か」
「なんのことですか?」
「前教えただろう。肉体が相応しくなければ、聖剣は抜けないと。台座の方に魔法がかけてある」
「そういえばそうでしたね」
つまり試験だったということでしょう。
結果は合格。
それなりには成長しているということです。
私は顔には出さずに喜びました。
「何、にやついているんだ」
失礼。
思いっきり顔にでていたようです。
「ふむ。聖剣抜けたとしても、引き抜くとき、台座に魔力が相当量もっていかれて、数日苦しいはずだがたいしたことなさそうだな」
「……終わった後で言うのやめてもらえませんか」
ソウは相変わらずです。
修行の一環だったということなのでしょう。
では、ソウが言っていた『役立つもの』とはいったいなんのことなのでしょうか。
確かここにくればわかるという話でしたが、ここには他になにもありません。
私が周囲を眺めていると、
「よし。墓に行くか」
改めてソウが言います。
ん? どういうことでしょうか?
「ここが墓じゃないわけ?」
同じように疑問に思ったクミースが質問します。
「この島全体が墓といえば墓だが、ここは聖剣の台座、本当の墓の中心は別のところだ」
「中心はここではないのですか」
勇者が聖剣しかなかったと言っていた意味がようやくわかりました。
◇ ◇ ◇
また少し歩くと、今度は木立に囲まれたところにやってきました。
「ここだ」
ソウが指さした先に祠がありました。
「ああ、なるほど」
聖剣と違って、こちらはしっかり探さなければ見つかりません。
聖剣というわかりやすいお宝が堂々と刺さっていたら、普通、皆頑張って聖剣を持って帰ろうとするでしょう。
そして、動けなくなるほど、魔力を抜かれてしまえば、諦めて帰るというもの。
聖剣の先端を折って持って帰ろうとしても、この聖剣は自動修復機能もあります。
よく考えてあるものです。
祠の扉をソウが触れます。
聖剣が変形するように、門に幾何学的な紋様が浮かび上がると、扉が開いていきます。
中には、きらびやかな装飾品が大量にありました。
ダイヤモンド、エメラルド、ルビーなどの貴重な宝石。
金や銀で作られた王冠や王笏、首飾り、腕輪、指輪などの宝飾品が部屋一面にきれいに飾られています。
彫刻などには、どれも、太陽を象徴する意匠がみられました。
「盗っちゃおうかな」
クミースが悪そうな顔をしています。
「欲しければ、好きなだけもっていってもいいぞ」
ソウは太っ腹です。
「本当に?」
クミースは疑い深い目で、ソウを見ました。
「重くて、亡者から逃げ切れなくなっても俺様は知らん」
「……。一つくらいなら」
「記念にはいいんじゃないか。ただどこかにうっぱらったりするなよ。金持ちだと思われると盗賊などに狙われるぞ」
「くぅ」
ソウがクミースの考えを読んで先回りします。
宝石の類はたくさんありますが、そのままお金として使える硬貨のようなものはありません。
「世の中が平和になったらまたこようかしら」
「どうせ、許可された奴の魔力がなければ、祠の扉は開かない。お前ひとりで来たとしても、扉は絶対開かないぞ」
「えー」
クミースは、できるだけ小さくて価値が高そうな物を物色し始めました。
「お姫様は選ばないわけ?」
「私は……」
お宝を目の前に、楽しそうなクミースを見ていると、城の宝物庫にもっといっぱいあるとは言えませんでした。
「お前には、こっちだ」
防具立てに装備が飾ってありました。
太陽のシンボルが大胆に刻まれた金属製の胸当ての付いた真紅のドレス型の防具。
装備者の魔法コントロールを補助するエーテルクリスタルの頭飾り。
同じくエーテルクリスタルのついている首輪。
全部で一体となっており、とても神秘的です。
「俺様の嫁の装備、つまり女物だ。お前が使うといい」
ソウが防具立てから外し、私に渡してきます。
ソウが目をそらしているうちに、私は防具を身につけました。
機能性と美しさどちらもかねそろえた装備。
軽く、重さはほとんど気になりません。
私が王冠のようなティアラを頭に装着すると、防具が私のお気に入りの真紅のドレスに変わりました。
「ソウ!? 防具がドレスに変わりましたよ!」
驚きのあまり、大声でソウの名を呼んでしまいました。
ソウは、呆れた顔で私の顔を見て、ため息をつきました。
「いつも変形する聖剣を扱ってるのに、なにいってやがる」
「そ、そういえば、そうですね……」
「ドレスは、魔力を流し込めば、ドレス型のフルメイルアーマーに変わる優れものだ。ティアラも敵の攻撃を感知し、自動でヘルムに変形する。同様に防具も軽量化の魔法がかかっている多少魔力を吸われるが、魔力の多いお前なら気にならないだろう」
ティアラにはフレイソード、防具にはウィーザルソードと似たような魔法が込められているようです。
「こんなにいいもの、私が使用していいんでしょうか」
こんな高級な魔導武具、まだ自分には不相応に思えます。
「いいんだよ。使ってくれれば、嫁も喜ぶ」
それから、ソウは私に、金のバングルを渡してきました。
「こっちもお前が身につけているといい。こっちのバングルは、聖剣と同じタイプの変形する防具だ。魔女の即死効果のあるデスサイズを防げる形状もあるから使いこなせるようになるといい」
「魔女はそんな攻撃をしてくるのですか」
ならば、このアイテムは必須でしょう。
ソウがわざわざここまで取りに来たのもわかります。
バングルは私の手首には、大きめでしたが、魔力を注ぐと私に最適化されて、ちょうどいい大きさに変形しました。
普段は手首にはめておけば邪魔にならないのは便利です。
ただ、
「こちらはソウの装備ではないのでしょうか? 身につけなくていいのですか」
「ああ、どうせ俺様たちはすでに死んでいるからな。即死攻撃は効かない。この勇者が身につけている装備もそれなりにいいものだ必要ないだろう」
ソウは自分が身につけている鎧を指さします。
私が、勇者のために各地から集めた装備です。
ソウがいいものだというということは、ちゃんとした装備だったということでしょう。
「ではありがたくいただきますね」
おばあ様の装備を身につけていると思うと身が引き締まる思いでした。
歴史と伝統が私の中に流れ込んできて、継承されていくようです。
「お姫様は、そんな高そうで目立つもの全身装備していいわけ?」
ポケットを少しだけ膨らましたクミースが私の姿を見て不平を言います。
「どうせこいつは、なにもしなくてもなにかしらに襲われるからな」
ソウが身もふたもないことをいいました。
「ははは、まあ、そうですよね」
腹はくくっています。
襲いかかってきたものは、もう片っ端から倒していく所存です。
「ソウが言っていた『役立つもの』とは、このバングルのことだったのですね」
ソウが頷きます。
「一つはそうだな」
「一つはということは、まだあるのですか?」
「もう一つはこっちだ」
ソウが指さす先に棺桶が一つありました。




