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20.王墓

 私たちは、レジナルドが手配していてくれた馬車で移動していました。

 罠などもなく、王族の私が乗るにふさわしい高級で丈夫なものです。


「レジナルド、しっかり仕事はしてくれていたんですね」


 馬車を操るソウが少しだけ私を見ました。


「主に命じられていたのは、お前の殺害だけだったんだろうな」


「レジナルドは、いやいや実行していたということですか?」


 そうだったらいいなという願いを込めて聞きます。


「いや、ヴァンパイアの命令はそんな生半可なものではない。命じられた内容は、本心からそうしたいと思うはずだ。それでも、執事としてもプライドは残っていたんだろう」


 レジナルドは、どんなこともそつなくこなしていました。

 確かにそれがかっこよかったのです。

 思い出すと、すぐ泣きたくなります。

 

 こんな思いも、いずれ色褪せていくのでしょうか。


◇ ◇ ◇


 第二都市から馬車で数時間、ソウの墓があるという湖にきました。


 湖の真ん中にひっそりとある小さな島にお墓はあるとのこと。

 島に行くための船がとめてありました。

 少し壊れていましたが、ソウが手直しするとすぐに3人乗るには問題ない状態になりました。


「船も直せるんですね」


「ああ、海でよく船に乗っていたからな」


「海ですか」


 第二都市で魚介類が手には入っていたということは海が近いということ。

 いつかゆっくりと行ってみたいものです。


「それにしても、ソウのお墓意外と近くにあったのですね」


 もっとずっと遠くにあるものだと思っていました。

 思ったよりあっさり着いて少し拍子抜けです。


「そりゃな。墓は住んでた場所の近くに建てるものだろう」


 その言い方は、この近くに住んでいた家があるようです。


「ソウは生前どこに住んでいたんですか?」


「最後は第二都市だ」


「そうなんですか。でしたら、生前の家とか見てきたらよかったのに」


「意外とまだ綺麗だったぞ」


「確認してたんですか。教えてくれたらよかったのに」


 なんだか少しソウが変な顔をしました。

 通りにでもあったのでしょうか。

 ソウの家見てみたかったです。


 どこにあったのか聞こうとすると、ソウとクミースは直った船に乗り込んでいました。

 私も慌てて乗り込みます。

 

「私が漕ぐわ」

 クミースが自分からオールを持ちます。


「なんだ殊勝だな」


「このくらいわね。でも、絶対戦わないから。怖いし、痛いの嫌だし」


「なら逃げ足だけは、鍛えておけよ」


「はーい」


 ソウとクミースは以前より自然に会話しています。


 うーむ。


 なんだか私より、優しい気がするのは気のせいでしょうか。


 ……。

 そんなことを気にするとは、まるで私が嫉妬しているようです。

 きっとソウの体が、勇者のものだからでしょうか。

 ……。

 それでは、私が勇者のことを好きみたいです。

 私は首を振って別のことを考えます。


「私たちが王墓に向かったことは、魔女にもバレているのでしょうか?」


「そうだな。だが第二都市は攻め落とせていないし、この湖周辺には、魔女は近づけない」


「どうしてですか?」


「魔女は自分自身で蘇らせた死人であり、ここが聖域だからだ」


「聖域?」


「瘴気を浄化し、死人を灰に戻す」


 確かに、ここの空気はものすごく澄んでいて、気力が満ちていくようです。


 瘴気がないということは、死人だけでなく、亡者も発生しないということでしょう。

 水の中を覗いてみても、いきなりゾンビが水中から手を伸ばしてきて、引きずり込む……といった心配もないように感じました。


 第二都市の近くとはいえ、少し辺鄙なところに墓を建てたのも納得です。

 

「魔女に聖剣を盗られないようにするにはここがよかった。結局はこいつに盗まれたわけだが」


 ソウが自分自身を指さします。


「こいつとは、勇者のことですか?」


「そうだ。とはいえ、半分は狙い通りだな。引き抜くやつの肉体が相応しければ聖剣が引き抜ける仕組みになっていた。こいつは体力、運動能力には申し分ないな」


 勇者は訓練でもトップクラスの成績ではありました。


「精神はどうでもいいのでしょうか?」


 勇者は強くはあったのですか、

 正直いうと、勇者は勇敢な心の持ち主というには少し足りない気がしていました。


「魔力は俺様の精神から生み出される。それに善人か悪人かなんて魔法では判別できないし、どうせ乗っ取るしな」


「そ……うですね」


 身も蓋もありません。

 それはつまり、聖剣という名の(トラップ)でしかありません。

 ソウ、ウーツの支配力は圧倒的です。

 勇者に自由意志はありません。

 ひっきりなしに亡者が襲ってくるため、ソウは勇者に初めのころ以外一切支配権を返したことはありません。

 乗っ取っていると言った方がいいでしょう。


「安心しろ、世界が平和になれば返してやる」


 私の気持ちを読んでかソウが言います。


「それはそうなんでしょうけど」


「少なくとも、俺様の墓を荒らしているんだ。文句を言われる筋合いはない」


「確かに」


 それは少しだけ正論に思えました。

 ただ勇者は、聖剣を偶然手に入れたと言っていました。

 墓を荒らしたという認識はなかったと思います。


「本当は墓守もいたはずなんだが」


 もうソウが死んで随分経っていると思います。

 墓守もいなくなってしまったのでしょう。

 墓守がいなくなっているのであれば、勇者に非はないように思えます。

 とりあえず墓につけばわかることでしょう。


 クミースは、特に急ぐことなくゆっくりこいでくれています。

 船は狭くて、修行もやりようがなくて、のんびりできます。

 湖面には、空の青と湖畔に広がる森の緑が混ざっています。

 湖の水面には、たまに小さな波紋が広がり、鳥たちが水辺で餌を探している姿が見受けられます。

 心地よい風も吹いていて、穏やかでいい気分です。

 

「暇そうだな」


 自然の美しさや静寂な雰囲気を満喫しながらあくびをしていると、ソウが目ざとく言ってきました。


「そ、そんなことありません」

 

 私は慌てて、口をおさえます。


「よしなら、俺様の肩でも揉め」


 なにがよしならなのでしょうか。

 私の話は一切聞いていません。


「なんでそうなるんですか」


「恩は体で払うんだろ」


 肩揉みぐらいではらえるなら確かにいいですが……。

 しぶしぶ私はソウの後ろに回って肩をもみはじめます。

 特に固いところなどありません。


「全然凝っていませんよ」


「いいんだよ。別に」


 ソウは意外と満足そうです。

 握力でも鍛えろということなんでしょう。


「まったく私は、ソウの孫娘というわけではありませんのに」


 私は愚痴をいいます。


「はあ、本当に勘が悪いやつだな」


 ソウが呆れています。


「そうだな。そろそろ俺様と相棒のファミリーネームを教えてやろう」


「はあ?」


 唐突に何を言うのでしょうか。

 ファミリーネームなんて、特に知らなくても困りませんのに。


 ソウは咳払いして、言いました。


「俺の名は、ソウ・サンライズ」


 一拍おいた後でさらに言います。


「そして相棒の名はウーツ・ムーンヴァ―ナだ」

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