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1.英霊召喚『覇王』


 奪うことでしか、人は生きられません。

 例えば、食べ物。

 植物、動物、生きとしいけるものをいただくことでしか人は生きられないのです。

 幸せな食卓の影で確実に奪われているものたちがいます。

 つまり、この世に完全な善良さなんて存在しないのです。

 きっとみんな、だれかにとっての悪役。

 正義なんてものは、幻想なのです。

 奪って、奪って、奪い尽くして幸せを噛み締めたあとで、誰もが死という報いを受ける。

 そのようになっています。

 それが、この世の理であり、当たり前の残酷さ。

 ……だったのに、幸せになりたいという純粋な願いによって、それが壊されてしまいました。

 誰かが正さないといけません。

 幸せを壊してでも。


 その誰かとは、勇者なのか。

 それとも、あるいは……。



◇◆◇



「もう……ダメです。姫様」


 私の唯一の護衛――勇者イシアスが、弱々しく泣き言を漏らしました。

 眼前には、白い宝石のように冷たく輝くスケルトンの大群。スケルトンは剣を手にして、ゆっくりと歩み寄ってきます。

 もうすでに城の中まで入り込まれており、状況は最悪。

 私達には、もうあとがありません。


「勇者しっかりしてください! ここには戦える者はあなたしかいないのです!」


 私は、勇者を奮い立たせるように叱咤します。


「そ、そんなぁ」


 返してくる言葉は少しだけ情けないですが、勇者は必死で戦ってくれています。

 勇者とは聖剣に選ばれ、王女専属の守護人のことをそう呼びます。つまりは、私こと王女ニルナの専属の騎士のことです。


 イシアスは訓練では優秀でした。

 ただ、戦争は長く起こっていないため実践はほとんど経験していません。

 それでも、こうして戦えているだけ上等と言えるでしょう。


 それにしてもどうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

 ここは、兄様が逃げ場所として用意してくれた旧城。

 私は、後ろで震えているお父様とお母様をちらりと見ながら言いました。


「私達家族が、ここにいることは誰にも知られていないはずなのに……」


 脳裏に浮かぶのは、先日お兄様が、つらそうに語ったあの言葉。


『もしかしたらセレネアが魔女かもしれない』


 ほとんど確証にちかい証拠を見つけながらも、信じたくないお兄様。

 それでも、為すべきことを決意しながら、私に優しく言いました。


『ニルナに、なにかあってはいけないから』


 そういって、大昔に使われなくなった旧城に逃げるように私に指示していました。


『王就任式から3日たっても私が現れなければ、私は死んだと思いなさい』


 兄様はそう言っていました。

 もう5日も経っています。

 そして現れたのは、兄様ではなくて、スケルトン達。


 状況は絶望的です。


 勇者が、スケルトンの剣を弾いて、斬りつけます。

 しかし、相手は骨だけの存在。剣はただ骨を切り裂くだけです。

 ガタガタガタと砕けて倒れたスケルトンも、他の敵を相手をしている間に元通りになってしまいます。


「くそう。何度倒しても、蘇る。どうなっているんだ」


 勇者は戦えてはいます。

 仮に敵が普通の人であったのであれば、倒してしまえているはずでした。

 ですが、敵は命の尽きた亡霊が宿ったただの骨です。


 勇者がスケルトンの首を切り落とします。

 一瞬、動きが止まるものの、骸骨は自らの頭を拾い上げ、復活してしまいます。

 動きこそそれほど速くありませんが、何度もよみがえる不死性と口から噴き出している冷たい風が気力をなくさせるには十分です。


 もう勇者の心がほとんど折れかけているのが、剣の振り方から伝わってきます。

 

「投降しましょう姫様」

 勇者がそう提案してきます。


 ですが、投降して何が得られるというのでしょうか。


 お姉様が魔女であったのならば、女学生を本当に殺していたとのことです。

 慈悲などないでしょう。

 自死した方がまだましかもしれません。


 そもそもスケルトンが知性を持って動いているとも思えません。

 果たして、魔女のところに連れていくまで、命があるのかどうかもわかりません。


 私は勇者の言うことに返すこともできず、うろつきました。


「誰か……誰か……」


 お父様とお母様は、お互い抱き合うように震えているだけです。

 若かりし頃は、強かったお父様も、年のせいで戦うことはできません。

 私は、何とか知恵を絞ろうとします。

 

「確かお兄様が、この城には英霊召喚の秘術があると……」


 そんなことを言っていた気がします。

 どのようにするのか。

 何を使うのか。

 ちゃんと覚えていません。

 あんなに普段優しいお姉様が、悪い人であるなんて信じていませんでした。

 杞憂で終わるものだと思っていました。

 こんなことになるのなら、

 もっと真面目にお兄様の言うことを聞いておけばよかったのに……。

 

「なにか……どこかに……」


 とはいえ、追い詰められてもう探すことができるのは、王座ぐらいしかありません。

 私は必死で王座を探りました。

 王座の裏になにか突起のようなものがありました。

 私はその突起を引っ張ってみます。

 

 ガコンッ


 音がしてなにやら小さい箱が出てきました。箱をあけるとそこには


「ペンダント?」


 翡翠色の宝石が埋め込まれ、革製の丈夫な首紐がついています。

 私は、急いでペンダントを身につけ、祈りを捧げました。


「英霊様、助けてください!」


 そのときです。


 ペンダントが光り輝き、一筋の光線となり、勇者の聖剣に吸い込まれていきました。


「な、なんだ」

 聖剣を持っている勇者がうろたえます。


 次の瞬間、聖剣から光り輝く赤い靄のようなものが現れ、勇者を包み込んでいきます。


「うわぁあああああああ」

 勇者が叫び声をあげました。


 靄は意思を持っているように、勇者の中に入り込んでいきます。


英霊召還『覇王(ソウ)


 目をつぶる勇者に一瞬、百獣の王のような金色の髪を持つ大男の仮初の姿が重なります。

 勇者の瞳が見開かれると、太陽のような輝きを持つ真紅へと変わります。


「はっはっは、久しぶりの現世だ!」


 勇者は手を広げ高笑いをしました。

 手に持つ聖剣を豪快に振り回すと、肩に担ぐように構え、スケルトンたちを挑発します。


「俺様に滅ぼしてほしいのは、おまえらか」


 敵を見つけると、いつもの勇者では考えられないような野獣のような表情を見せました。

 剣を高く掲げると魔力が高鳴り、あたりが震撼しました。


魔力解放『滅びの宴(ラグナロク)


 世界を滅ぼすかのような魔力が勇者から放たれます。


 近づいて来ていたスケルトンたちが、魔力の波動だけで吹き飛ばされました。

 今まで感じたことのない暴力的な魔力です。


「きゃああああ」


 私は、思わず悲鳴をあげてしまいました。


「さあ、行くぞ!」


 英霊は聖剣を正眼に構えて、魔力を注ぎ込みます。


聖剣変形「大狼の牙(フェンリルファング)


 聖剣に埋め込まれたエンブレムが黒く光り輝きます。

 聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、刃が細かく割れて、両刃の鋸のような形状に変化しました。


「なんですかそれは!?」


 私は思わず聞いてしまいます。


「チェーンソードだ」

 英霊は律儀に、私の質問に答えてくれました。


 聖剣が変化するなんてみたことありません。

 聖剣の刃はまるで狼のようなうなり声をあげて回転します。

 回転鋸。

 そうとしか表現できません。

 もはやそれは剣――ソードなのでしょうか。


 ギュルルルル。


 英霊の魔力に呼応するように、聖剣の刃が回転します。

 英霊が憑依した勇者は、自ら踏み込みスケルトンに突撃します。

 聖剣を振りかざし、スケルトンの鋼鉄の剣ごと破壊します。


 メキャキャキャキャ。


 痛みを感じないはずのスケルトンが、あまりの衝撃に悶絶します。

 もはや複雑骨折といえるほど、骨をあちこち折られたスケルトンは簡単に復活する事ができません。


 ただ蠢いていて、完全に沈黙したわけでもありませんでした。


「スケルトンはこうやって倒すんだよ」


 英霊は再び聖剣を振りかざします。

 聖剣に埋め込まれたエンブレムが今度は別の色――雷のような黄色に光り輝きます。


聖剣変形「朋友の鉄槌(ミョルニル)


 再度、聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、今度は凝縮するように密度を上げて大きな、槌へと姿を変えました。

 英霊は大きく振りかぶると、スケルトンに槌を振り下ろします。

 ドーンと地響きが広がり、城の床にヒビが入ります。

 勇者が聖剣を持ち上げると、猛烈な一撃を受けたスケルトンは粉々にされていました。

 回復しようにも、少しの風でバラバラにとばされていきます。 

 骨がちらちらと舞い上がり、まるでダイヤモンドダストのようです。

 あんなに多かったスケルトン達は、一体一体確実に粉砕されていくと、あっという間に倒されてしまいました。

 英霊は聖剣を担ぐように持っていました。


「なんですかそれは……」

 私は思わずまた聞いてしまいます。


「ハンマーソードだ」

 英霊は律儀に答えてくれました。 


 ハンマーであることはわかります。

 ソード要素はもうどこにもありません。


「ははは」

 私は乾いた笑いを浮かべました。


 もう滅茶苦茶です。

 無茶苦茶ですが、強いのは間違いありません。

 この人ならば、確かに魔女にも対抗できるに違いありません。


「さてと、仕上げだな」


 聖剣を元の形に戻します。


「えっ?」


 英霊は振り向くと私に向かって剣を向けました。

覇王ソウイメージソング。


『英霊召喚! 覇王ソウ』 

https://youtu.be/Q5MuQ83sP3s

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