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15.仮初の日常1

 

 室内の設備が整ったキッチンではなく、外での料理です。

 結局、料理といってもいつものように焼くだけです。

 ただし、食材はよりどりみどり、肉だけでなく、魚介類や野菜、果物まであります。

 庭で食材を焼きながら、ご飯も飯盒というもので、ソウが炊いてくれています。


「こっちも終わったわよ」


「ありがとうございます」


 どうしても、ベッドで寝たいため、布団などはクミースにしっかり洗ってもらい見える範囲に干してもらいました。風に揺れています。

 まだ日が高いのですぐ乾くでしょう。


「ベッドは寝る直前に毒針などが仕掛けられてないか確認してやる」


「そこまでしなくちゃダメなの?」

 クミースがうんざりしています。


「念のためだ」

 

 ソウは、いつ襲われてもいいように警戒しています。

 それでも、いつもよりは気が抜けているのではないでしょうか。

 聖剣はすぐ手の届くところに置いているもののゆったりと座って作業しています。

 レジナルドは、家の鍵をあけると、馬車の調達の交渉の続きに出かけて行きました。

 警戒するべき人物がちかくにいないので、東屋でのんびりとご飯を食べることができました。


 食べ終わると、私はお兄様にもらった護身刀で、果物を剥きます。

 当たり前ですが、聖剣を包丁としては使いにくいです。

 その点、護身刀は、女性向けで、小ぶりなので、包丁としてちょうどよく、手になじみます。

 ただ本来はこちらも武器です。

 王家の紋が入っている由緒あるものをこんな使い方して、ご先祖様に怒られてしまいそうです。

 緊急事態なので、ご先祖様も許してくれるとは思いますが……。

 ソウに剥いたばかりの果物を渡しながら、聞きます。


「ヴァンパイアについて教えてもらっていいですか」


 ソウは口に果物を放り込みながら答えてくれます。


「動く死体、生ける屍、いろいろ言い方があるが、人の魔力を血液を通して吸収する一族のことだ」


「一族? ゾンビやスケルトンのように、瘴気から生まれたのではないのですか?」


「少し違うな。奴らは、魔女が、死者甦生の儀式を行い世の中に瘴気を溢れさせる以前から存在していた。もともとはひっそりと生きていたようだが、奴らは瘴気をエネルギーにすることができるので、魔女と手を組んだ。しかも厄介なことに感染型の亡者だ」


「感染型?」


「噛まれた状態で死んでしまった場合、感染し噛まれた人間もヴァンパイアになることがある。厄介なのが、生前の記憶と魂を持ったままということだろう」


「それなら、亡者になったとしても、怖がる必要はないのでは? 心は元のままということですよね」


「ヴァンパイアになった場合、噛まれたヴァンパイアに絶対服従なんだよ」


「親玉は、二度と魔女には組しないと約束させたが、随分過去の話だから、もう一度確認させる必要があるだろう」


「その親玉を説得すれば、解決ですか?」


「いや、絶対服従なのは、噛まれたヴァンパイアにだけ。主が死んでしまえば、自由になる」


「ヴァンパイアは、だまし討ちさせるには、使い勝手がいい。魔女なら、いの一番に仲間に引き入れるだろう」


「だまし討ち……」


「狙って感染させることができるわけではないはずだから、随分被害者が出ているだろう」


「正面から私たちを倒しにくればいいのに」


「一度負けているからな、使える手はなんでも使ってくるだろう。ただこっちには俺様達がいるんだ。以前使われた手なら、読めている。そうでなくても基本的に差し伸べられた手は全部疑ってかかれば問題ない」


「あたしは?」

 クミースが聞いてきます。


「今のところ、怪しいところはないな」


「ふーん。疑ってはいるんだ」

 クミースは少し不服そうです。


「お前とは偶然会ったし、普段武器も持っていない。保護してやってる俺様達を殺すメリットもない。基本疑う要素はないな。ただヴァンパイアに噛まれて突然敵になる可能性はあるんだ。今まで味方だったということが、今味方かどうかの保証にはならないということだ」


「それならしかたないわね」

 クミースは納得したようでした。


「仲間であっても、極力間合いには入らないようにすることだな。親しき仲にも礼儀ありだ」


「悲しすぎませんか?」


「なら騙されて死んでも、相手を恨まないことだ」


「今度は、心が広すぎます」


 極端なんですよ。

 ソウの言い方はいつだって。


 ソウは、私やクミースの間合いには平気で入っています。

 つまり、騙されて死んでも構わないとおもっているのでしょうか。

 まあ、元々死んでる亡霊なのですから、気にしていないのかもしれません。


 とはいえ、後悔なく生きるためにはそのくらい思い切りが必要なのかもしれません。

 私なりの後悔しない生き方を見つけられるのでしょうか。

 そんなことを考えながら、もう二度と食べられなくても後悔しないように、甘酸っぱい果物を口いっぱいに頬張り続けました。

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