11-2.迎撃剣フレイソード
バトル挿入歌『迎撃剣! フレイソード』
https://youtube.com/shorts/Sg_shqxHoI0?si=aYSfdqpjouO0L_su
追い詰められてなお、胸に宿ったのは《諦め》ではありません。
――絶対離さない。決して負けはしない。
その覚悟の誓いと共に、私は伝説の聖剣を握りしめます。
聖剣変形「勝利の剣」
聖剣に埋め込まれたエンブレムが再び赫赫と光り輝きます。
聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、燃えているかのような両刃の剣になりました。
まるで握る手の中で、剣自身が勝利を誓っているかのようです。
「今こそ、反撃の時!」
地を揺るがす骨の軋みと共に、スケルトン達が群れをなして襲い掛かってきました。
空洞の眼窩からは死の闇が覗き、無数の石剣が一斉に振り下ろされます。
次の瞬間、剣が意思をもったかのように『ぐん』と動き、襲い来る刃を迎撃しました。
刃が激突し、爆ぜる火花が嵐のごとき閃光を放ちました。
魂を震え上がらせるスケルトンの攻撃を防ぎます。
同時に私の関節が悲鳴をあげます。
「つっ」
剣の動きについていければ――私の体が痛むことはありません。
これが私の未熟さの証です。
剣の動きを先読みして、体を動かすしかありません。
ただ、先読みするだけでは足りないのです。
そのためには、私自身が──敵をどう倒すのが最適なのか、瞬時に設計しなければなりません。
賢き者のための剣。愚か者は、その刃に身を滅ぼされるだけです。
今は不格好でも、食いついていくしかありません。
掌の中で、剣がピクリと動きます。
視界の外から迫っていたスケルトンの刃を弾き返します。
「――この剣に死角はありません」
魂を砕くほどの怒涛の攻撃を、フレイソードは容易く防ぎます。赤く脈打つ刃は、まるで私の心臓と共鳴するかのように鼓動していました。
「くぅう」
体の中の魔力を剣は根こそぎ持って行きます。
心が真っ白になってしまいそうな喪失感。
私は歯を食いしばり、握る手に血が滲むほど力を込めました。
辺りを見ると、骨、骨、骨、骨......。
見渡す限りを覆いつくす、千を超えるとも思えるスケルトン達に埋め尽くされていました。
後ろを見ると、魂が抜け落ちてしまったかのようなセイラ。
あまりの敵の多さに戦意が消失しかけているマリーとレザ。
守るべきものがある限り、私もこの剣も折れはしません。
「勝利を刻め!フレイソード」
骨の軍勢が悲鳴のような軋みを響かせ、次々と火花の中に崩れ落ちていきます。
「今こそみせましょう。私の覚悟を」
敵を見定めて、剣を振り上げました。
「はぁああああ」
私は声を張り上げて、スケルトンに剣を振るい続けました。
◇ ◇ ◇
ヒーローは遅れてやってくると言いますが、遅れてやってきたものがヒーローというわけではありません。
「スケルトンも倒せるようになったか」
スケルトンをどうにか殲滅したころに、ソウはやってきました。
嫌がらせみたいなタイミングです。
まるで助ける気はないと言わんばかりでした。
「お姫様、一人でやっちゃったの?」
辺り一面、砕けた骨だらけの大地を見渡しながら、クミースが聞いてきます。
「ええ、もちろんです」
私は答えながらも、もう動かない、スケルトンの頭を踏み抜きました。
逞しくはなってきているのではないでしょうか。
限界を超えて動き続けたおかげで、もはや体は無限に動けるような気さえしています。
ガンガンガン。
腹いせにスケルトンを念入りに砕きます。
体はたくましくなってきていますが、その分、心は随分やさぐれています。
「盗賊団はどうしたの?」
クミースが質問してきました。
「そこにいますよ」
三人はへたり込んでいました。
結局三人は、あまり役にたちませんでした。
人のこと言える立場ではありませんが、冒険者になるには、技量が全然足りていません。
未熟です。
本人たちも、理解しているのでしょう。
ただ未熟なことを知るための対価として、友達の命というのは重すぎます。
泣いているセイラにとっては、リクルは恋人同然でしょう。
すぐに立ち直れと言うのは、酷な気がします。
「あなた達、もう自分の里に帰りなさい。故郷はあるのでしょう?」
「あるよ。だけど……」
レザが答えます。
ただうなだれています。
見得を切って、意気揚々と出てきたのでしょう。
故郷に錦を飾るどころか、なにもできないまま、仲間の一人を失ってしまっています。
あまりに惨めです。
私はため息をつきました。
「これをあげます」
私は、ポケットに入っていたものを渡しました。
「これは?」
「王家の従者の証です」
きらりと光る王家のメダルです。
ただのお守り代わりに持っていた物ですが、彼らにとってはお守り以上に価値があるでしょう。
代表してセイラの手に無理やり握らせました。
「ただし、死人蘇生を行ったら剥奪します。一度目の間違いは許します。二度目はありません」
誰かの真似をして、私は言います。
セイラにメダルを握らせたのは、一番心に留めておいてほしいという思惑もありました。
「故郷のみんなに聞かれたら何といえばいいか」
「王女を亡者から助けたとでも言えばいいでしょう」
「助けてもらったのは、私たちの方なのよ」
マリーがいいます。
「ならば、これからお願いします。亡者や死人がいたら退治してください。今あげれるものはそれだけですが、亡者を滅ぼしつくしたら、もっとちゃんとした褒美をあげますから。わかりましたか?」
「「「はい」」」
三人は泣きながら返事をしました。
「はあ? 盗賊でしょう。許しちゃうの?」
クミースが呆れています。
「今は私の部下です」
しかも、私自ら採用した直属です。
「誘拐されて、部下増やすのは、血筋なのか」
ソウは意味の分からないことを言います。
「血筋?」
「勝手に誘拐されて、勝手に自分で解決したんだ。お前の好きにするといいさ」
私の疑問には答えずソウはそんなことをいいました。
「勝手にしますとも」
来るかどうかわからないヒーローを待つぐらいなら、私自身がヒーローになるだけです。
メダルを大切に眺めている三人を見ます。
私は、誰かに居場所を与えられるようなそんなヒーローになりたいと思うのでした。




