11.盗賊団3
「なにするんだ!」
私の剣をリクルが受け止めます。
そして彼を見て確信しました。
「あなたですね。死人は」
セイラかリクルの二択になれば、どちらが死人の可能性が高いかは明らかです。
セイラの服は、さすがに一度死ぬほどダメージを受けたにしてはきれいすぎます。
それに対してリクルの装備は、ボロボロ。
胸の部分が、砕けていて、まるで主を守れなかったようです。
死者蘇生は、あくまで死者のみです。
身につけていたものを復元してくれるわけではありません。
そして、なによりちゃんとセイラを守ろうとする男らしさ。
「かっこいいですよね。本当に……」
ただ、それだけでは戦いは生き残れないのです。
ソウは、強大な魔力と馬鹿力で戦っているようにも見えますが、私に的確にアドバイスできるように、剣の振り方一つを取ってみても、洗練されています。
それに比べて、リクルの剣は稚拙と言わざるを得ません。
多分、誰にも習っていなかったのでしょう。
女の私と、鍔迫り合いが互角なのが、なによりの証拠です。
ソウに習ったのは、まだ数日ですが、死ぬ目にあいながら、行った戦いは、通常の訓練の数年分にあたります。
私は、大きく振りかぶり、剣の重量も利用した上段斬りを放ちました。
元から、ぼろかった剣は、はじけ飛び、リクルがひるんだすきに私は刺突を繰り出しました。
もともと開いていた鎧の穴めがけて。
鎧はするりと聖剣を受け入れます。
ざああああ。
鎧を残してリクルは砂になっていきます。
やはりリクルが死人でした。
「いやー」
セイラが駆け寄ってきます。
頬を伝う涙も見えます。
同情しますが、セイラの嘆きに付き合っている暇はありません。
今は戦闘中。
私は急いで、スケルトンに向き直りました。
少なくとも、これで新たにスケルトンが湧いてくることはなくなったはずです。
ここからが本番です。
「いきます!」
私の頭に、以前使った風のように軽い剣のイメージが流れ込んできます。
聖剣変形「運命の剣」
聖剣に埋め込まれたエンブレムが空色に光り輝きます。
聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、鳥の羽のように軽い片刃の剣になりました。
自分の意思で完璧に発動させることができました。
「できた! これならば」
私は、剣が軽くなると、体も風のように軽くなったような気がしました。
レザとマリーに集まっているスケルトンの群れに突撃します。
素早く踏み込むと、スケルトンの迫る凶刃を受けます。
ビシッ。
「えっ?」
受けた瞬間に剣全体に嫌な音が走りました。
パリーン。
聖剣が砕けて壊れてしまいました。
砕けた破片は、聖剣本体に吸収されていきます。
カシャン。
音を立てて、元の形状に戻ってしまいます。
「脆すぎます」
無限に振ることができるほど、軽く鋭い剣は、防御向きではありません。
武器を持たないゾンビに対しては圧倒的に有利ですが、剣を持つスケルトンに対してはそういうわけにはいきません。
「これは絶体絶命のピンチですね」
ソウがいつか来てくれる……。
そんな希望的観測、するわけありません。
「ソウは来ません」
いつでも誰かがなんとかしてくれるなんてただの幻想です。
どんな時でも頼りにしていいのは自分。
死ぬ覚悟が出来ていないのなら、
醜くとも、限界まであがくだけです。
ただ三人は砕けた私の剣を見て、絶望していました。
「もう無理よ」
「勝てっこない……」
「だれか助けて」
三者三様の嘆きが聞こえてきます。
「嘆いている暇があるのなら、戦いなさい」
人に言い聞かせながら、自分に言い聞かせます。
きっとソウならそういうはずです。
今できる自分の全力でもって敵を倒すのみ。
聖剣の形状は一つしかありません。
今はまだ。
ならば新たな、形状を手に入れるしかないでしょう。
ただ、ソウと同じようなハンマーは今の私には重すぎて振ることができないでしょう。
死人がいなくなったおかげで、スケルトンの回復は遅くなっています。
ならば、全部ではなく関節を中心に砕くだけです。
確実に、剣をはじき、確実に当てる。
私はそれだけに集中しました。
スケルトンの剣速はそこまでありません。
力もありません。
ガンッ。
石の剣を受け止めて、はじきバランスが崩れたところでスケルトンの肩を砕きます。
「大丈夫。できる。よく見て、対処して」
気力で、攻撃をはじきます。
今望むべきは、確実に敵の武器をはじくそんな剣。
私のイメージが魔力になって、聖剣に注がれます。
「聖剣よ。私の想いに応えて!」
カッ、と聖剣に埋め込まれたエンブレムが赫赫に光り輝きます。
聖剣全体に幾何学的な紋様が浮かび上がると、燃えているかのような両刃の剣になりました。
しかし、剣は私の望みを追い越すように暴れ出します。
ぐーんとひとりでに、襲い来る石剣を弾き飛ばしました。
「――っ!」
あまりの速さに私は剣を手放してしまいます。
カラカラ……カシャン。
地面に転がった瞬間、聖剣は元の姿に戻ってしまいました。
「私の方が、剣についていけていませんね」
悔しさを押し殺し、私は慌てて剣を拾い上げます。
そして、深く息を吸い込むと、再び魔力を流し込みました。
「――もう一度!」
私の心に折れることのない決意が宿ります。
聖剣変形「勝利の剣」




