10.盗賊団2
私の言葉に、四人ともぽかんとしました。
「生者だけって、どういう意味かな?」
「確かに死んでたら褒美はもらえないわよね」
「それはそうだよな」
「よく考えたら、当たり前だよね」
四人とも勝手に納得してしまいます。
「いえ、そういう意味ではなくて、あなた方四人の中に『死人』がいます」
引き寄せられているだけでなく、襲われているということは、
死人、蘇生者、生者それぞれいるということ。
蘇生者は一人なのは確定でしょう。
仮に蘇生者が二人だと残りの二人は死人ということになり、亡者に襲われません。
ただ死人二人生者一人か生者二人死人一人かがわかりません。
「死人とは、一度死んで蘇ったもののことです。存在するだけで、瘴気を生み出し、ゾンビやスケルトンのような亡者を生み出します」
死人は見た目ではわかりません。
ただ一つだけいえることがあります。
「あなた方少なくとも一人は、真実を知っているのでしょう? 誰が死人か教えなさい」
蘇生者と死人は、認識阻害が働いているはずですが、生者――四人の中の少なくとも一人は、それを知っているはずです。
「はあ? なんのことだよ。俺たちの中に死人なんているわけないだろう」
リクルの言葉に他の三人も頷きます。
当然しらを切ってくるとは思っていました。
ならば、証拠を探すしかないでしょう。
「まずは名前から教えなさい」
「えーと、あたしはセイラだよ」
魔導士の女が言います。
全体として、ほんわかとした雰囲気をしています。
大事そうに杖形状の魔道具を大事に持っています。
他の剣士と比べて、服も綺麗ですし、破けたところもありません。
道具を大事にしているようです。
「私は、マリーよ」
すらりとした女剣士です。
髪は長く濃い黒色で、輝くように健康的で美しい光沢を放っています。
肌の色は健康的ですが、傷がところどころあります。
「僕はレザ」
少し背が高い男の剣士です。
やさしげで冷静な青い瞳が特徴的です。
「あなたはリクルでしたね」
私は一番元気がいい男の剣士に言いました。
「そうだ」
リクルは、レザと比べると随分背が小さく感じます。
リーダーは、否定されていましたが、ムード―メーカーは間違いなくリクルでしょう。
四人の特徴はこんなところでしょうか。
特徴と名前が分かったところで、次は関係性です。
「では、あなた方、ペアはどうなっているのですか?」
「ペアってなに?」
セイラが聞き返してきます。
意図が伝わらなかったようです。
「誰と誰が恋人かと聞いているんです」
私が言いなおすと、四人が皆、顔を真っ赤にしました。
「な、な、な、なにを言っているんだおまえは!」
「何言ってるの」
「そうよ。恋人なわけないじゃん」
「そうだよ」
四人の動揺が止まりません。
「ウブですか……」
男女混成パーティーで冒険をするのなら、ちゃんと固めてから出発してほしいものです。
連携できないと命にかかわるのですから。
パーティ解散の理由第一は色恋沙汰なのをしらないのでしょうか。
ただそれなりに、パーティー続けていられるところをみると、三角関係の一人あまりとかではないのでしょう。
私が言った瞬間に視線を交わした感じから、多分リクルとセイラ、レザとマリーがペアではないでしょうか。
普通に考えれば、ペアの人間がどうしても蘇らせたいと考えるでしょう。
この組み合わせは頭に入れておく価値があります。
私は、部屋の中を改めて、観察してみましたが、普通の生活用品しかありません。
「とりあえず、墓から探してみますか」
私は小声で言います。
私が外に出ようとすると、
カタカタカタ、なにやら外で音がしています。
「何の音でしょう?」
簡素な扉ののぞき窓からのぞくと外にスケルトンが徘徊していました。
「⁉」
私は声にならない叫びをあげます。
徘徊しているスケルトンの足元を見ると、ところどころヒビが割れている地面から白い不気味なものが飛び出しています。
ズズズズズと指、腕、肩、頭と骨が現れてきて、カタカタ音を立てながら、組みあがっていきます。
みるみるうちにスケルトンになっていきます。
どうみても、今発生しました。
手には石でできた剣を持っています。
スケルトンが私の視線に気づくと向かってきて、扉に剣を突き立ててきます。
私はとっさに扉から離れます。
ガンっと酷い音が響き渡ります。
「な、なに!?」
「スケルトンがわいています」
「前ここを使った時は、こんなことなかったのに……」
セイラが言います。
拠点をいくつか使いまわしているのでしょう。
つまり、蘇生術を使ったのは、この場所ではないということでしょう。
スケルトンが簡素な扉を破ろうとしてきます。
スケルトンは力がないので、すぐには入ってきませんが時間の問題でしょう。
目には見えませんが、瘴気が外に漏れるほど溢れているのでしょう。
木こりの親子のところでは、ソウは一晩中ゾンビを倒していたと言っていました。
死人を殺して、瘴気を早くとめないと取り返しがつかないことになります。
私は4人を見ます。
さすがにまだ死人が誰か予想もできていません。
四人とも皆殺しにするほど、私は非情にはなれません。
ゾンビは倒せるようになりましたが、スケルトンは自信がありません。
私が変形させることができる聖剣形状は一種類だけ。
ソウのように、破壊に特化した形状にはできません。
なんとしても、無限湧きだけは阻止しないと、負けてしまいます。
こうなったら戦いながら、死人が誰か見極めるしかないでしょう。
戦わして、襲われる人間は生者なのは確定です。
まずは……。
「あなたのその魔道具はなにができるのですか?」
私はセイラにききました。
「火が出せます」
「他は?」
「なにも……」
セイラは悲しそうに言います。
魔道具は、効果一つだけでもかなり値が張ります。
仕方ないでしょう。
敵がこの間のようにゾンビならば、火も絶大な効果を発揮しますが、スケルトン相手にはあまり役に立ちません。
でも使い方次第でしょうか。
「こんな狭いところで襲われたらかないません。私が扉を開けた瞬間、最大火力でスケルトンを吹き飛ばしてください。いきますよ」
私は取っ手に手をかけました。
「ちょっとまってください!魔力チャージに10秒はかかります」
「わかりました。ゆっくり数えます。そのあと、おねがいします。他のみんなも戦闘準備を」
そう言って、私は息を吸い込みました。
「いち、に、さん」
セイラの魔力が杖に注がれていくのを感じます。
「し、ご、ろく、しち、はち、きゅう」
杖から大きな熱を感じ始めました。
「じゅう!」
私は、数え終わった瞬間、扉を勢いよく開けます。
「フレアボム!」
セイラのかけ声で、大きな炎の塊が杖から飛び出します。
炎は、空気を切り裂くような轟音を立て、そして瞬く間に爆発的にはじけます。
入口近くにいたスケルトンを押しとばして、いきます。
スケルトンの脆い骨は吹き飛んでバラバラになりました。
威力は私の想像以上です。
私達は急いで、外に飛び出し、剣を構えます。
「あと何回さっきの魔法できますか?」
私はセイラに確認します。
「すみません。しばらく使えそうにありません……」
セイラは申し訳なさそうに答えます。
「リクルはセイラを守りながら右側を、レザとマリーは左側をお願いします」
私は勝手に指示を出しました。
四人は緊急事態で気が動転しているのでしょう。
素直に私の指示に従います。
とりあえず、二組に分断します。
これでどちらの組に生者がいるか判断できるはずです。
思った通りスケルトンは、片方だけ――剣士二人の方のみについてきました。
「なんで私たちばっかり」
「くそぉ。なんなんだよ」
レザとマリーが文句をこぼします。
レザとマリー二人の襲われ方に差はなさそうに見えます。
多分二人とも生者でしょう。
私は急いで、二人の加勢をしながら、話しかけました。
「知らないというのは、嘘ですよね」
「な、なんのことだよ」
レザが少し動揺しています。
ただそれでも、言いませんか。
仲間思いですね。
「あなた方二人にもう一度問います。あの二人リクルかセイラのどちらかが死人です。どちらですか? このままでは、じり貧です」
スケルトンは話している間にも、湧いてきています。
炎の魔法で吹き飛ばしたスケルトン達も回復してきました。
「いうわけないでしょう」
マリーが言います。
その言い方は、知っているということです。
「言っておきますが、誘拐された私にあなた方に優しくする理由はないのです。私に助ける義理もなく、本当は自業自得なのですよ」
あの二人のうちの一人ということならば、私は目星がついています。
ただ確証がほしい、ただそれだけなのです。
ボコボコと、地面から骨の手が出てきているのが見て取れます。
見えているだけでも、十体以上います。
猶予はありません。
「もう時間切れですね」
私は反転して、リクルとセイラの方に向かって走り出しました。
そして、
私は、セイラに向かって、剣を振るいました。




