9.盗賊団1
私は、麻袋から、首だけ出した間抜けな状態でした。
麻袋は、思ったより丈夫で破れそうにありません。
うっかり転んでしまうと、首が締まって死んでしまいそうです。
聖剣ごと、袋に入れられたのならば、抜け出せたでしょうが、捕まった時にビックリして手を放してしまいました。
今、聖剣は、誘拐犯の一人の男が物珍しそうに眺めています。
「この剣さっきと形違わないか?」
エンブレムなどを勝手に触ったりしてほしくありません。
ソウに怒られそうです。
本当の持ち主は勇者なのですが……。
「うーん。この剣、剣だけど、魔道具に近いかも」
黒の綺麗なローブを着た女魔導士が答えます。
「なんか数えきれないほど術式くみこまれているみたい」
魔道具とは、魔法を使うための道具のことです。
ウーツ様の形状も考えると、剣としても使える魔道具として考えた方がいいのかもしれません。
明らかに剣ではない形状もありますし。
英霊のお二人は、どんなことがあろうと剣として扱いそうですが……。
私は、盗賊団のアジトを観察します。
壁はごつごつとした岩肌。
どうやら、誘拐犯たちは、洞窟を隠れ家にしているようです。
明かりはランタンがおいてあったり、かまどは石で自作していたり、寝床がわらだったりとと結構原始的なものが多いですが、生活できる最低限の一式は揃っているようでした。
誘拐犯は四人。
男2女2の混合パーティーです。
男だらけで劣情をぶつけられるということはなさそうなので、ひとまず安心でした。
男二人と女一人は、剣士。
女一人は――先ほど聖剣を魔道具と言った女が魔導士のようでした。
年頃はみな私と同じぐらいです。
見たところ、実績が上がらなかった冒険者崩れといったところでしょうか。
剣士三人の装備は更新できていないのか、傷んだまま使用しています。
亡者を滅ぼし、魔女を倒さないといけないというのに、
こんな三流の冒険者などに捕まって、私はなにをしているのでしょうか。
とりあえず、口をふさがれているわけではないので、交渉するべきでしょう。
「あなたたちは、私を誘拐してどうするつもりですか?」
まずは誘拐した目的を確認を試みます。
「確かにどうするの。本当に誘拐して」
男の剣士が聖剣を持っている男を非難します。
「助けてもらったのに……」
魔導士の女も同様です。
「恩をあだで返すようなことをして大丈夫なの?」
剣士の女も心配してくれています。
……うーむ。
どうやら、私を誘拐したのは、聖剣を持っている男の独断だったようです。
聖剣を持っている男がリーダーのような感じなのですが、見た目通り無鉄砲なのでしょう。
「お前らよく見てなかったのか。こいつの服に王家の印がついていただろう」
よく見ていますね。
威勢だけではなく、観察眼はあるようでした。
そんなに大きな紋様ではありませんのに。
「こいつを人質に、王家に身代金を要求すれば、俺たちは億万長者だ!」
鎧はボロボロで、剣も刃こぼれが酷いようですからね。
更新しなければ、まともな依頼もこない。
依頼が来ないということは、お金が入らない。
お金がなければ鎧は更新できない。
普通にやるには詰みの状態です。
首が回らなくなって、盗賊に身を落とした人間が、貴族を人質にするのは、常套手段です。
平素ならば確かに私を解放するために、多額のお金が支払われたでしょう。
私はため息をつきました。
「身代金なんて出ませんよ」
ただし今は平素ではありません。
そもそも……、
「私が王家の最後の一人なのですから」
交渉する相手がいません。
作戦が最初から頓挫しています。
「そんなわけあるか。どうせ解放してほしくて、適当なことを言っているんだろう」
男は、身動きできない私に、食って掛かってきます。
そうであったのならどれほどよかったか……。
王都がどんな状態になっているのかわかりませんが、お父様もお母様もお兄様も死んでいるのです。
私がどうにか再興しなければ、王族は滅んでしまいます。
「どうやらあなた一人の独断でやったことのようですし、今すぐ、解放しなさい。今私は急いでいますので、なかったことにしてあげます。というか構っていられません。魔女が復活したのですから」
「魔女?」
「あのゾンビ達が発生するようになった原因の人物ですよ。そうですね……むしろ私は今、魔女を倒すための手駒が欲しいのです。私の手伝いをして、恩義を売っておけば、あとで褒美をあげますよ」
私は、盗賊に落ちた冒険者たちに、別の餌をぶら下げてみます。
あくまで、私が王位について、王族を復興できたらの話ですが、嘘ではありません。
絶体手に入らない身代金よりは、手に入れることができる確率は高いでしょう。
「そんな話信じられるか」
聖剣を持っている男は、想像通りのことを言いました。
ただ、聖剣を持っている男以外の三人はというと。
「そうしてもらおうよ」
「身代金より、王族にコネ作る方がいいね」
「犯罪者は嫌よ」
思った通り、私の案に乗ってきました。
「はぁ? お前らリーダーの言うことが聞けないのか?」
「別にあんたがリーダーってわけじゃないでしょう」
「そうだよ。リクルに誘われて冒険者にはなったけど」
剣士三人が言い争いを始めた隙に魔導士の女が、麻袋の拘束をといてくれました。
「ありがとう」
「あ、いえ、すみませんでした」
私がお礼を言うと、謝ります。
思った通り心根優しい子のようでした。
「おい!」
「さて、聖剣も返してもらえますか?」
「リクル返そう? ね?」
魔導士の女の子も言ってくれます。
剣士の二人も、視線で返すようにうながしてくれます。
聖剣を持っていた男――リクルも最終的に聖剣を返してくれました。
思った通り、極悪人というわけではありませんでしたね。
私は相手を安心させるために、納刀します。
「本当に役にたったら、褒美くれるんだろうな?」
「私は嘘はつきませんよ。私の従者になって、活躍すれば、褒美はあげます。但し、褒美をあげるのは、私が城に戻った時、そして」
私は一呼吸おいて言いました。
「生者だけです」




