8-2.瞬速剣ウィーザルソード
バトル挿入歌『聖剣変形! ウィーザルソード』
https://youtu.be/nRqwwPUePvY
心がまっすぐ前を向いたら、胸の奥で心が宝石のように光り輝きました。
私の祈りは、戦場を駆ける風となり、心のままに刃を振るうこと。
私の願いは、迫りくるゾンビ――腐敗する未来を断ち切ること。
「今こそ目覚めよ、聖なる剣よ」
胸から溢れる想いが言葉になり、戦場に響き渡ります。
さあ、私が自らの手で輝く明日を掴むため、
今こそ目覚めよ、伝説の聖なる剣よ!
「進むべき道を切り拓け」
聖剣変形「運命の剣」
気づけば、私は頭の中に流れてきた言葉を詠唱えていました。
瞬間、聖剣が応えるように震えました。
腐敗を裂き払う、一条の光。
それはまさに瞬速の剣の顕現。
カシャカッシャン! ジャッキーン!
「ええええぇ。変形したのですが」
盛大な金属音を立てて、聖剣が鮮烈に姿を変えました。
鳥の羽のように軽い片刃の剣。
刃は極限まで薄く透き通っています。
私の「もっと速く、もっと振り抜きたい」という願いを形にしたかのようです。
ソウが魔力を込めたような感じはしませんでした。
そのかわり、私の中から湧き出るなにかを剣が吸い取っているようです。
剣が私に重さを預けるのではなく、私の心を吸い上げて形を結んでいる。
外から与えられた力ではない――これは、私自身から溢れる《魔力》。
「これが……私の力?」
あまりの出来事に呆然としている私に、ソウが短く声をかけました。
「聖剣変形使えるようになったのか。最適化はできるようになったようだな」
最適化――つまり、私のための剣ということです。
腐臭をまき散らすゾンビ達を改めてみます。
無敵の剣を手にした私に、怖いものなどありはしません。
「いきます!」
私は一歩を踏み出します。
剣だけでなく足も軽くなったように、音もたてずに大地を踏みしめます。
まるで体が風になったようです。
シュッ! スパーン。
一瞬で、ゾンビに迫ると、ゾンビの首を跳ね飛ばします。
今まで何度も繰り返した剣筋が見えます。
ザシュッ! スパーン。
自分が振っているとは思えないほど、剣の軌跡は空中に美しい軌道を描きます。
シュパッ! スパーン。
疲れはきません。剣を振るうたびに集中力は増していき、剣の速度はあがっていくようです。
ギュッ! シュパッ! シュッ!
スパーン。スパーン。スパーン。
ゾンビはなすすべもなく、首を飛ばしていきます。
戦いに役に立たないと思われていた社交のための舞踏すら、剣を優雅に振るうための力になります。
シュッ! シュッ! シューン! ザシューン!
スパーン。スパーン。スパーン。 スパーン。
私はあっという間にゾンビを倒してしまいました。
ソウは、私が首をはねたゾンビの手足を切り落としています。
もうゾンビは動く気配もありません。
「やりました!」
私の完全勝利です。
やりきりました。
わたしだって、やればできるのです。
「大丈夫ですか?」
振り返って冒険者たちにそう言った瞬間。
体の奥底から湧き上がっていた何かが、ぷつりと切れました。
カシャ、カシャ……。
聖剣が小さく震え、音を立てながら、静かに元の形に戻っていきます。
魔力が――切れたのです。
「……未熟、です」
勝利の余韻の中で、自分の情けなさが胸に刺さります。
この程度の戦いで、魔力が尽きるとは……。
足に力が入らず、その場にへたり込みました。
「まあ、もうゾンビは倒し切っていますから……」
自分に言い聞かせるように呟いた、その刹那。
ガサッ。
頭上から、何かが覆いかぶさりました。
重たい布の感触、鼻をつく麻の匂い。
「……へっ?」
状況が飲み込めず、私の口から間抜けな声が漏れました。
「おい! ちょっと待て」
ソウの声が、袋の向こう側から聞こえてきます。
ですが、その声も遠ざかっていきます。
荷台の上で、私はまるで大きな根菜類のように転がされました。
体を動かそうにも、袋が全身を拘束している上に、戦いの疲れから力が入りません。
私は誘拐されてしまったのでした。




