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中短編集:衝動的に(書いて)やった。反省はしていないがちょびっと後悔はしているかもしんない。

むげゅじ

作者: 輪形月

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 え~、結婚の話が進んでまいりますってぇと、どうしても名字というものが気になるもんでございます。

 結婚されても、もともとの姓をずーっとお名乗りになる、いわゆる原則別姓のお国はいいんです、ええ。生まれてこの方ずーっと付き合ってきたご自分のお名前ですもの。好きで変えるんならともかくですよ、変えたくないなら一生付き合えるほうがようござんすね。


 ですがそうはいかない国というのもございます。結婚するとどっちかの姓にまとめなさいって言われちゃうんですよ。

 それも法律で決められちゃってるんなんら、まあしょうがないわね、なんて夫婦で一つの姓にまとまろうとしますってえと、また違う問題が出て参ります。


 どっちの姓を名乗らなきゃいけないのか。

 なんだかそれで女性の方が折れるのが当然、みたいになってるのも、個人的にはどうかと思いますがね。だってどっちも同じくらいの重みがあるんですから。これまでその方が、そのお名前で歩んでこられた人生の重みってやつが。

 それともう一つ。

 すったもんだのすえまとめた姓を、誰が継いでくれるんだろうってのが。


 昔は標準世帯ってぇのがあったらしいですね。一馬力と専業主婦の夫婦に子どもが二人、これこそ社会的な家庭のスタンダードってことで、家計とか、税金の試算とか、社会動態を示す統計のものさしに使われたらしいです。

 だけどどのお宅にも大人の男女が一人ずつ、子どもがぴったり二人いる、なんてことはそうそうございません。

 まず、少子化ってやつがどんどん進みますってえと、子どもの数はどんどん減ってまいります。

 そうなると、せっかく決まった姓を名乗ってくれる人がうっかり絶えてしまうってわけで。


 それでも二人以上子どもがいたうちはいいんです。ええ、誰かが家を継いでくれるんなら、誰が嫁入りしようが婿入りしようが、もとの家というのはちゃーんと残りますから。

 それに昔っから分家という制度もございます。年号を三つ四つ遡りますってぇと、同じ名字の兄弟やらがいろいろ分家していったあげく、その自治体にお住まいの同じ名字の方、みんな血のつながりのある親戚でいらっしゃるなんてぇこともあったそうですね。


 ですが、現在のように少子化が進みますってぇと、さあ困った。一人っ子同士の結婚というのもおめでたくはありますが、そうなりますと、必ずどっちかの家名がなくなってしまいます。

 いや、家制度なんてもんもとっくになくなってるんですがね。それでも家名というのは何らかの心の支えになるようでして。

 ご本人が絶えてもいいと言ったって、親御さんとしちゃあよくないに決まってます。先祖代々引き継いできた家名のありがたみとか価値ってのは、これ、年とるとじわーっとわかってきたりするもんなんです。

 その土地でご先祖の誰がどんな仕事をしてきたか。家系の歴史ですねこれは。


 いい話の後でなんですが、事務的な話をするなら、誰がその家のお墓の面倒を見てくれるのか、なんて問題もございます。

 困った挙げ句に墓じまいとか永代供養なんて終活を、無理の利かなくなったお体で一生懸命になさっているお年寄りの姿を拝見すると、いや、大変なものでございます。


 家名の価値がわかってればいいかというと、そうでもございませんで。

 どっちにまとめるにしても、片方がいやという。挙げ句の果てに喧嘩別れするカップルのせいで、婚姻率が右肩下がりまくりで。さらに少子化が進行するなんてこともあるとかないとか。なんという悪循環。


 じゃあ、全部ありにしちまえーって声を上げた人がいたらしく。

 あれよあれよと法律が変わって、結婚しようがしまいが自分の姓を好きに名乗ることができたんでございます。

 なんせ婚姻は、両()の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならないんですから、ってぇことだそうで。

 お後がよろしいようで。


 ……いやいやいやいや!拍手はまだ早いですから!

 話は終わっちゃいませんからね?


 さて、法律改正後、それぞれ自分の姓を名乗るようになった親御さん、今度はお子さんが結婚するときに悩むようになりました。

 一人っ子が結婚するとなると、自分たちの姓のどっちを選んで名乗ってくれるにしても、どっちかの姓が消えちゃうのには変わんないじゃないかと。

 あっちで根回しこっちで交渉とあれこれございまして、また法律がちょっと変わりました。

 結婚したら、夫婦の姓を足し合わせるのもありにしようというやつでございます。

 外国では昔っから行われてるところもあるらしいですね。結合姓とかいうそうですが。

 これならやれ安心、といいたいところですが、今度はどっちの姓を先にするかで、揉めたり揉めなかったりしたそうで……。


 さて数世代がたちますと、そんな姓の扱いも慣習というやつがじんわり固まってまいります。

 結合姓というのがその人のルーツもわかりやすくてよろしい、というので増えてまいりましたが、そうなると、離婚して結婚前の姓に戻った親に引き取られても、子どもの姓は元に戻さないようにすべきだ、なんて主張が幅をきかせたり。

 そのせいで、逆に実の親子なのかそうでないのかわかりにくくなる、なんてこともあったそうですが……。


 もっと大変なのは、やはり結婚でしょうね。なにせするだけで姓の長さが単純計算で二倍になるんですから。

 そんなわけで仲人の挨拶を任された上司の方も、なかなか大変なようでして……。


「えーっと、花婿の名字が――中野田中山下鳥?なんだよ、ずいぶん中途半端だな?だいたいナトリナトリって通称で呼んでたからわかんなかったよ」

「いえ、一応理由がありまして」

「へえ?……なるほど、中野と、野田と、田中と、中山と、山下と、下鳥。ご先祖様の名字がくっついてるんで、重複した漢字はまとめちゃいました?」

「わかるから大丈夫かなと」

「いや自分の名字だからそりゃわかるだろうが、他の人がわからなかったら困るだろうに。まあいいや。花嫁さんの方が――知多マッカラン白州山崎バランタイン余市竹鶴響……こちらは長いねおい」

「それにもこちらに理由がありまして」

「なになに?……『死別や離別が多かったので増えました?カタカナは外国籍のお父さんからもらいました』……離婚しちまえば昔の姓に戻るだろうに。――『どのお父さんも、わたしのお父さんなので、DNAで残せるのはたった一人の遺伝子、それも半分だけなので、せめて名字だけでもと思い、残すことにしました』?……おいおい。泣けるね。いい子じゃないか。幸せにしてやれよ?」

「いえ、幸せにするとかしないとかじゃなくって、いっしょに幸せになります」

「のろけてくれるじゃないか、ええ?この幸せもんが。うらやましいくらいだねえ。――え、部長のところはどうなんですか?……一言多いねおまえは。まあいいや、原稿が完成したら見てもらうからな」


 てんで、部長はがんばったんですよ。そりゃもううるさいからって携帯も何もかもサイレントモードにして。


「三林会長も通称で紹介するわけにいかんから、きちんと正しい名字でお呼びしないとだなあ。林小林大林……えーと、次がなんて読むんだ。一八十木木?……『いちはちじゅうのもくもく』じゃなくて、『ひとやそ きぼく』?そんくらい負けとけってわけには……いかないよなあ。人の名前だし。ああもうめんどくせえ!」


 などと途中でぶち切れたりしておりましたもので、ようやく書き終わったのは結婚式前日のこと。

 いや、えらい時間がかかったもんです。

ですが苦労したとなると、認めてもらいたくなるのが人というもの。


「おう、ナトリ。間違いがないか確認してくれ」ってんで、部長さん、本日の主役の花婿さんをとっ捕まえると、何やら言いかけるのも押さえ込んで、朗々と読み上げたもんです。


「『以上、中野田中山下鳥知多マッカラン白州山崎バランタイン余市竹鶴響家ご両人の前途を祝して乾杯!』……これでどうだ?」

「あのう、部長」

「なんだ」

「メールやショートメッセージでもお伝えしたんですけど。あんまり名字が長いんで、昨日国民番号に切り替えました」

「じゃあ国民番号でやれってか?どれ見せてみろ。えーと1 2599210498 9487316476 7210607278 2283505702 5146470150……って、これ無限小数じゃねーかっ!」




エイプリルフールということで。

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