夏祭り
目を閉じて、あの街に行く。
提灯のぶら下がった、あの街へ行く。
優しい思い出を継ぎ接ぎして、
酩酊した空の色を飲み干したくなる、
縁側で君が待ってくれてる、あの街へ行く。
きっとまだ、やらなきゃいけないことや、
気持ちを押し潰さなきゃいけないことが、
僕には山ほどあって、
これからも待ち構えていて、
真正面から抱き着かなきゃいけないんだろう。
朝は別に、僕たちを苦しめている訳じゃなく、
誰かを楽にしているだけなのだけれど、
朝が来たことで、誰かの人生に
終わりを告げたのもまた事実なのだ。
目を閉じて、あの街に行く。
甚平を着た父親は、
あの時僕をどう思っていたのだろう。
たまに見せる笑みに、
僕はちゃんと向き合っていただろうか。
目を閉じて、あの街に行けば、
何かから逃げられる気がした。
逃げる僕を野次る声もなければ、
優しく抱きしめる愛も存在しない。
それが何故かこの上なく心地が良くて、
夏が恋しくなるのだ。