ヤンキーとパシリ
「賢者…」
呟いてルナが目の前の男を見る
ニイと綺麗な顔が不気味に笑った
――賢者って…この国で最も優秀と認められた魔導士の称号…
強い光属性の持ち主で魔力の量が多いいのはもちろん、高度な魔法かなり使えるって言われてるって聞いたことある…
魔法を極めた天才と称賛される魔導士
そして、精霊王に聖石を授けられた唯一の人間…
魔王を倒す条件に必要とされる3人の中の1人!!
……………
うーんと考えてじーっとギルバートを見つめるルナ
そして、ピシと拘束された手でルナがギルバートを指差し
「嘘ね!!」
凛とした声で言い切った
笑っていた笑顔が消えて固まるギルバート
「アンタみたいな野蛮で口の悪い奴が賢者なわけないでしょうが!!まず、魔導士って言うよりもガラの悪い輩じゃん!!もっとこう頭の先から爪先まで洗練された人がなるんだよ!!いくらアタシが何も知らないからってそのくらいわかるわ!!」
真面目な顔でピシピシと指差して言うルナ
そのルナを見て、ギルバートの額にピキっと怒りの筋が入った
「お前…やっぱり今ここで殺してやる!!」
低い声でキレたギルバートがルナを後ろにあるベッドに押し倒してガッと首を掴む
「キャー!何ベッド押し倒してんのよ変態!!」
いやー!と拘束された両手をジタバタするルナ
「お前、さっきから俺をおちょくるのもいい加減にしろよ!誰がガラの悪い輩だ!だれが変態だ!こちとら女には困ってねえんだよ!なんでお前みたいなゲテモノわざわざ選ばなきゃなんねんだ!!」
立ったままルナに覆い被さり首を掴んで怒るギルバート
「げ、ゲテモノですって!?誰がゲテモノだ!!このチンピラ魔導師!!アタシの事ちゃんと見えてるわけ!?どっからどう見ても儚い系の黒髪美女だろうが!!目が悪いなら眼科行け!」
ルナが怒って言い返す
――アタシは転生して初めて自分の姿を見た時、美し過ぎて鏡を見てゾッとしたわ!!それくらいルナはめちゃくちゃ美人なわけ!!それをコイツ!ゲテモノって!!
「誰がチンピラだこのクソ女…お前頭を強く打ち過ぎて記憶どころかだいぶ頭も悪くなってんじゃねぇの?その悪い頭使って言葉はちゃんと理解してから使えアホが!儚いの意味辞書で調べろ!正反対の意味だドアホが!」
「今2回もアホって言った!なんで2回も言うのよ!1回で通じるわボケ!それにアタシがアホならアンタはバカよ!バーカバーカ」
ギャーギャー言い合いをし合う2人のところに…
《コンコンッ》
軽くドアをノックする音が聞こえた
「失礼します」
《ガララー》
こんな騒動が起きてるとは知らずにドアをゆっくり開けて中に入る
色素の薄い茶色の髪を後ろでお団子に結び、額の真ん中で前髪を分け、丸眼鏡をかけた真面目そうな男が入ってきた
その男が2人の取っ組み合いを見て驚いて固まる
「ま、魔女が目覚めているではないですか!!早、早く聖騎士団を呼ばなくてわ!!」
ずっと眠っていたルナが目覚めている事に驚き気が動転して慌てる眼鏡の男
「た!助けてください!!この人やばいんです!!…んぐっ!」
ルナが必死に入って来た男に助けを求めたが
首に回っていたギルバートの手がガッとルナの口を覆うように両頬を掴んだ
「今取り込み中だ…アホがうつるから出てけシナギ」
イライラしているギルバートが振り返り眼鏡の男に言う
「んっー!!」
言い返したいのに声が出せない為代わりに暴れるルナ
「ぎ、ギルバート様…絵面がとてもひどいです…」
手を拘束された美女をベットに押し倒し顔面を押さえつける賢者
それの姿を見て魔女に少し同情した
「あ"?」
シナギをギロッと睨むギルバート
「な、なんでもありません!頼まれていたお食事の用意ができました!!」
ギルバートの迫力に怯えて早口で話すシナギ
「追加でもう一人分増やせ」
ギルバートが静かに言う
「か、かしこまりました…すぐご用意致します。」
シナギはなぜ増やすのか不思議に思いながらもすぐに部屋を出て手配をしに向かった
「おい、魔女。今から拘束魔法解いてやる。その代わり暴れたり逃げたりしたらこの場で殺す。わかったか?」
ギルバートがルナを見下ろして言う
コクコクと静かに頷くルナ
大人しくなったルナを見て掴んでいた手を離し立ち上がるギルバート
「ぷはっ…窒息するかと思った…」
ルナが呟いてベットから起き上がる
目の前に立つギルバートが人差し指を立ててスッと上から下に振り下ろす動作をすると
ルナの手首を拘束していた光る紐が勝手に切れた
「お前は今日から俺のパシリな」
ベットに座るルナを見下ろしてニイと笑うギルバート
「えっ……」
――や、やややヤンキー!?ファンタジーの世界でこ、こんな奴いるの!?
唖然としてギルバートを見上げるルナ
「お前は1週間近く目が覚めなかった、まだ体力は回復しきれてない。今日はもう休め。かと言っていつまでも魔女を野放ししてたら他の奴に何言われるかわかんねえ。明日だ」
静かに話し出すギルバートの話を聞くルナ
「明日…?」
「明日お前に契約魔法をかける」
「本当に使えるの…?命が縛りの契約魔法なんて…」
「俺を誰だと思ってんだ。」
ギルバートがローブのポケットに両手を突っ込みルナを見る
――やっぱりコイツ…本当に賢者なの…?
「とりあえず話はまた後でだ。飯が冷める」
ルナに背を向けて部屋を出て行こうとするギルバート
その背中を見てボーッとベッドに座っていると
「早く来い」
入り口のドアに手をかけたギルバートが振り返る
「え!アタシの分もあるの!?ご飯!?」
ルナがぴょんっとベッドから飛び降りて嬉しそうにギルバートに駆け寄る
「明日の契約魔法の為にいっぱい食って体力つけろよ」
フッと笑ってルナを見る
「な、何それ…複雑なんですけど…」
嫌そうにギルバートを見た