尋問と消えた記憶
ルナは目の前の男を見る
――それどころじゃなくて全然気が付かなかったけど…
半分くらいしか顔見えてないのに…コイツ…すごい綺麗な顔してる…
目の前の白銀の髪の男に目を奪われるルナ
白い白髪は銀色に輝き、柔らかそうな髪は緩くウェーブがかっていた
長い前髪は斜めに分けられていてちょうど左目を隠していた
眠そうに見える幅が広い瞼は目尻が少しタレていて、長い白いまつ毛に覆われていた
そして、透き通る明るいブルーの瞳は白銀の髪と良く合っていて、綺麗な輪郭に筋の通った鼻、薄い唇
完璧なパーツに驚いて固まるルナ
――顔が隠れているのに…こ、この美しさ…
こ、こやつ…何者…ファンタジーの世界ではこのレベルの美形がいっぱいいるの…!?
20代くらいかな…年齢不詳ね…
白いローブをだらしなく着てる… 服装的には魔導士ぽいな… 剣も腰に差してないし…
けど、普通ローブって前閉めて着るもんじゃないの?
前全開で中のシャツも第二ボタンくらいまで空いてはだけてるし…
下は黒いパンツにブーツを履いていた
「おい、聞いてんのかよ。まず名乗れ」
不機嫌そうに眉間にシワを寄せる白銀の髪の男
――せっかくこんなに綺麗な顔をしていて、綺麗な声なのに…喋り方が輩なんですけど…複雑だわ…
「ルナ、ルナ・サスティフォール…」
おずおずと答えるルナ
――名乗ったりして大丈夫なのかな…いや、けどアタシそんな心配してる場合じゃない!
返答次第では足の筋を切られるかもしれないし、
見た感じコイツ…魔力をすごく上手く隠してる…多分相当な魔法の使い手…
アタシの出次第では本当に殺されるかもしれない
それに光属性の魔法使うって…王族か高族ってことじゃん!!
前の記憶を思い出すルナ
この国には魔法に属性があり格付けがされている
属性は5つに分けられていて、
属性と魔力の量によって生活水準に大きく左右した
まず1番下の属性が
無属性
この属性は魔力を込める事しかできない属性で平民に1番多いと言われている
魔力量も少なく、生活する分には困らないが戦いに不向きな属性
その次が
火属性、水属性、風属性
この3つの属性は魔力量もそこそあり、平民にも稀にいるが
高族の下の階級に多くいる
魔力の量によって火力、水力、風力が変わってくる
そして、1番頂点に位置付けされている
光属性
この属性は王族、高族の上の階級など高い身分にしか与えられないという特別な属性
魔力量もかなりある為、高度な魔法が使える
他の属性よりも遥かに強い属性
そして、この世界では魔法の部類として扱ってもらえない
闇属性
人を襲う魔物が使う属性
そして、魔王が使う強い魔法
属性は親の遺伝子から受け継がれる
光属性が平民にいないのはそのせいだと言われている…
「へぇ、ルナ。お前何者だ、なんであんな湖に沈んでた」
足を組んで腕を組む
「湖に…沈んでた!?」
――え、どういう事!?アタシなんでそんな事になってるの!?
魔王から逃げて山の奥にある小さな家に居たはずじゃないの?
「やっぱ覚えてねぇか…お前強く頭を打ってたから、記憶が飛んでもおかしくない状況だった。とりあえずわかる事を答えろ」
男がスッと手を軽くあげると近くにあったテーブルの上に置いてあった黒い大きな棘のようなものが浮かび上がる
そのまま男の目の前に移動した
「ふ、浮遊魔法…!?」
ルナが驚いて目を見開く
――浮遊魔法はアタシでも使えないかなり高度な魔法…
ルナが魔王に捕まっていた時に散々やらされてたけど、最後まで出来なかった
なのにこの男はノールックで簡単に使いこなしてた…ほんと何者なの!?
「んな事どーでもいいんだよ。これ何かわかるか?」
目の前に浮かぶ黒い大きなトゲを掴み男がルナに聞く
「何それ…」
ルナは全く分からずジッと棘を見つめる
「魔物が攻撃で使ってた棘だ、この棘が何本もお前の体に刺さってた。魔物が使う毒だ、かなりの猛毒で普通ならあんだけ刺されば一瞬で死ぬ、刺さったとこは壊死して治る事はない。けどお前は一切毒の影響を受けてない。なんでか答えろ」
まじまじとルナを見る男
「そ、それはアタシが闇属性で…毒にかなりの耐性があるから…そんなの効かない…」
もぞもぞ答えるルナ
――アタシに毒なんて効かない。散々毒を飲まされて耐性つけられてるし…魔物に攻撃されたところでアタシにショボい闇魔法なんて効かない
「闇属性…まさか本当に魔女がいるなんてな」
ふっと鼻で笑う男
――【魔女】
遥か昔に魔王の力で闇魔法を使えるようにされた人間の事
昔から悪の化身として言い伝えられていて
女の姿をしていると言われていた
この世界では昔話とか作り話とか都市伝説的に言われてるみたいだけど、実際に存在してしまいました…どうも私です…
「それで、なんで魔物に攻撃されてるわけ?味方じゃねぇのか?」
「確かに…なんでアタシ攻撃されてるんだろ…」
本気で考え込むルナ
――その辺の記憶が全くない…何も思い出せない…
「その辺の記憶も飛んでんのかよ…使えねぇな」
はぁーとため息を吐く
その態度を見て、ブチっとルナの中で何かキレた
「アンタまぢ失礼ね!!アタシはどっからどう見ても病み上がりだろうが!ちょっとは労りなさいよ!アタシは魔王に散々体をいじくられてそれが辛くて逃げ出して来たの!そっからは山奥の家で静かに暮らしててなんの悪い事もしてないのに何でこんな目に合わないわけ!?とっととこの拘束魔法解きやがれ!じゃないと大暴れしてこの建物吹き飛ばぞ!!」
ぶちギレて一息で話したルナはゼーハーと呼吸を整える
「魔王から逃げて来たって、お前魔王居場所がわかるのか!」
驚いてルナに聞き返す
「そ、それは…必死に逃げて来たから場所までは覚えてない…」
――前のルナの記憶でも、闇魔法の実験を散々やらされて記憶はあるけど場所までは思い出せない…
「んだよ。やっぱ使えねえな」
はぁーとため息をまたつく
「うっさい!いいからアタシを解放しろ!」
座っていたベットから降りて立ち上がり拘束魔法をされた腕を男の前に突き出す
――そーだよ!今考えたらアタシなんも悪い事してないし、捕まる理由もないじゃん!魔王から逃げてきてむしろ静かに山奥で暮らしてるって無害極まりないじゃん!
なのにこの扱いは何!?なんか腹立ってきた!!
「お前、なんか勘違いしてねぇか?」
ニヤリと笑って手に持っていた魔物の棘を一瞬で粉々にする
座っていた椅子からスッと立ち上がり、ルナの目の前に立つ男
「な、何…」
ルナが一歩下がる
「お前は闇魔法使える時点で魔物と同じ扱いなんだよ、化け物が。」
その言葉にビクッと体を震わせ、傷ついて固まるルナ
――そうか…アタシは人間を襲う魔物達と一緒…
闇魔法を使う人間なんて…恐怖の対象でしかない…
つまり…
殺される…
「お前への選択肢は2つだ」
男が楽しそうに二本指を立てる
「今ここで死ぬか、俺に命を預けるか」
男の綺麗なブルーの瞳がルナを真っ直ぐ捉える
「命を預ける…?」
――今ここで殺されるならアタシの使える力全部使って争うしかないと思ったけど…命を預けるってどういう事…?
「お前は殺すには勿体。体をバラして調べたい事も山ほどあるしな、それにあり得ない魔力の量。必ず使える良い駒になると思うんだよなぁ」
楽しそうに言う男
――体をバラしてって…どっちにしろ地獄じゃん!
「けど、まだお前を完全に信用したわけじゃねぇ。だから契約魔法でお前に縛りをつける」
「契約魔法…」
驚いてルナが呟く
――【契約魔法】
魔法をかける側とかけられる側、相互同意の元で行われる魔法
あまり詳しく覚えていないけど、ルナの記憶の中では
相手を従わせるのに打って付けの魔法で
言う事を聞かなかったら罰を与える事ができるなど契約の種類は様々、だけど命を奪うとなると一気に魔法のレベルが変わる…
元々かける側に相当な技術がないと使えない魔法だし、それに…
「禁術なはず…使うと牢獄行きだよアンタ…」
静かに驚き男に言うルナ
――【禁術】
その名の通り禁じられた魔法…
昔術者の負荷がかなり大きい為死者が出てしまう事から禁止されているとも言われているけど
魔法の種類によってはその人の人生を変えてしまったり、悪用して犯罪に繋がりやすい魔法が含まれていて、それを総称して禁術と呼んでいる
もし使っている事がバレれば、死ぬまで牢獄、また最悪速攻死刑になるって言われているかなりリスクのある魔法…
確かに、アタシを従わせるなら禁術を犯すくらいの事をしないと無理、簡単な魔法じゃアタシには効かないから…
だからって禁術を使おうとするなんて…コイツ何者…?
「そう、禁術だ。知ってるか?王から認められて特別に禁術を許されてる魔導士が1人だけこの国にいるんだよ」
ニヤリと不気味に笑う男
「ま、まさか…」
ルナは目を見開いて固まる
「悪い、悪い。自己紹介がまだだったな、俺は
賢者 ギルバート・ヴィンセント。
この国で唯一禁術が許されてる大魔導士様だ。よろしくな」
ニッコリと笑う張り付いた笑顔を見てルナの背筋が凍りついた