第5航行 練習開始
一週間後。
実際に戦艦を動かす日がやって来た。
『航行服』と呼ばれる、船に乗るとき用の服に着替えて外へ出た。
ミハローガ王国の海軍の制服に似ていて、胸には校章のバッジが付いている。
「これが、航行服……!本物……!」
シアラが嬉しそうにする。
「確か、各国の海軍の制服をアレンジした物だっけ。各校、色違いと校章のバッジで違ってくるのよね。」
「シアラ、制服にも詳しいのか?」
ギンガはそう聞く。
「いや、そこまでじゃ無いのよ。試合を見て覚えてただけ。……でも、実際に着れて嬉しい。本当にこの学校の学生になったんだなぁ。」
「A8型戦艦、第3号に乗り込め。」
シキハ先生が言う。
ぞろぞろと入る。
ちなみに、ギンガは操行師、シアラは通信師をする。
管理科のマガイロは、機関室へ入る。
甲板には、二人の先輩が居る。
「私は第3号の艦長を務めます、イチカ・シファランと言います。よろしくお願いします。」
「情報管理師を務める、ニアンと言う。よろしく。」
「「よろしくお願いします!!」」
「今日から実際に動かし、砲撃もやってみます。最初は緊張すると思うけど、聞いてみるより、やってみよう!……みたいな感じでやりましょう。」
イチカはそう言う。
「……では、各自、位置についてください。」
「うー、やっぱり緊張する。」
シアラがそう呟く。
そんな顔を見せるのは、意外と初めてだな……。
「えっと、シアラさんと言いましたよね。通信師は、なにかと大切な責務です。よろしくお願いしますね。……リラックスしましょ。」
イチカは、シアラの肩をさする。
「ありがとうございます。……頑張ってみます。」
▪▪▪
『こちら、司令艦。各A型戦艦に告ぐ。エンジンを始動し、出航してください。』
数分後、司令艦から指示がくる。
「……機関室、機関室。エンジンを始動してください。」
それに応じて、シアラは機関室に指示を入れる。
『了解です。』
「皆さん、これから出航します。……頑張りましょう。」
今日は一時間ほどの航行をする。
攻撃目標は、戦艦に見立てた簡易型浮舟らしい。
『こちら、司令艦。A8型戦艦第3号、これより北に進んでください。』
「ギンガくん、北に進めとの事。お願いします。」
「わかった。北に転換。」
ギンガは、戦艦を北に向けた。
「甲板監視師の皆さん、簡易型浮舟を見つけたら報告お願いします。」
イチカがそう言う。
『了解!』
「砲師と装填師の皆さん、攻撃目標に近づいたらこちらから指示をします。」
『主砲側、了解。』
『第一副主砲、了解です。』
『第二副主砲、了解しました。』
『第三副主砲、了解!』
今のところ、何事もなく出航した。
「………ニアン君、意外と上手くいきそう。」
イチカがそっとニアンに言う。
「そうだな。最初は慣れなくて慌てたりするが、そういうこともないな。」
▪▪▪
操行してから、20分を過ぎたところだ。
『浮舟、見つけましたー!船先から右の方向、距離にして約30リェン (※) 。』
甲板監視師のマノからの無線が入る。
「イチカ先輩、浮舟を見つけたそうです。方向は船先右側、距離は約30リェン先。」
シアラがそう伝える。
「分かりました。シアラさん、司令艦に目標を見つけた所を報告してください。」
「はい。……司令艦、司令艦。こちらA8型戦艦第3号、目標を見つけました。」
『了解。砲撃を行ってください。』
「…先輩、砲撃を行ってくださいとのこと。」
イチカは、頷いた。
「ギンガさん、船先を浮舟方向に。……射程圏に入ったら、指示を出します。」
「射程圏の距離……確か、主砲が15リェン、15mmの副主砲が10リェンだったような。」
シアラが呟く。
「今の船速だと、もうそろそろ装填指示を出すかもな。」
それに応じて、ギンガも言う。
(二人、初めてにしては戦艦の知識が豊富……?)
二人の会話を聞いたイチカは、そう思う。
「おい、イチカ。そろそろ指示を出さねえと。」
ニアンの言葉で我に帰る。
「ハッ……ごめん。……主砲、第二副主砲、それぞれ装填準備。」
『主砲、装填完了!』
『第二副主砲も、装填完了しました!』
「目標、浮舟に向け………撃て!」
浮舟に見事命中した。
船の崩れる音がする。
「攻撃目標、撃破確認!」
▪▪▪
最初の練習が終わった。
皆、船を降りた。
「皆さん、お疲れ様でした!……初めてにしては、なかなかの成果でしたよ。」
イチカが言う。
「弾、海上で装填するの……ちょっと慣れないな。」
主砲の装填師を務めた、ボランが呟いた。
「確かに、陸でやるのと海上でやるのとは違うからな。……そこは練習あるのみ、だな。」
ニアンが言う。
「では、これで本日の練習は終わりだ。明日から、午前中は勉強、午後は今日みたいな練習をするぞ。」
シキハ先生が言った。
これからが本番。……しっかりやらないとな。
▪▪▪
その日の練習後。
2年生の教室に、イチカとニアンは戻った。
「………。」
イチカが、さっきから何か気にしている。
「おい、イチカ?」
「………。」
声をかけても、反応が無い。
「おい!」
「………あ、ごめん。ニアン君、どうしたの?」
ようやく返事が返ってきた。
「さっきから、何を考え事しているんだ?」
「あの、シアラさんとギンガさんだっけ。あの二人、なかなかスジが通っていると思わない?」
「ああ、あん時の会話か。確かにな。」
「もしかしたら……将来、この学校のエースになるかもね。」
▪▪▪
(※) 「リェン」とは
この世界の独自の距離を指す。
▪▪▪
こぼれ話:レーダー情報と、甲板監視師
すべての戦艦には、レーダーが完備されいる。
情報管理師がそれを解析する事になっている。
……が、場所が分かったとしても戦艦がどの方向に向いているか、その判断の区別が付かないときは甲板監視師が目視で確認する。
今回の練習では、戦艦に見立てた浮舟だった為、甲板監視師が目視で確認をする事になった。
目視確認の他にも、天候や波の状況、航行危険物の確認も行っている。
「………って、この紙には書いてありましたけど、ニアン先輩が戦艦に搭乗した理由って何ですかね?」
シアラが疑問に思う。
「イチカが心配だから。」
「その言い方は酷いわよ!」
物陰からイチカが飛び出た。
「あながち冗談じゃあ無いんだがな。……さておき、万が一の事があった場合を考えてな、一個上の先輩が、艦長、情報管理師、機関室に管理科を乗り込む必要があるんだ。」
「へぇ。………って、『心配だから』ってのは本当なんですかっ!?」
「ニ~ア~ンくぅぅん?ちょっと良いかしらぁ?」
「イ、イチカ先輩!笑顔で迫るの、怖い、怖いですよ!」
このあと、どうなったのか………はご想像にお任せします。
「以上、こぼれ話と茶番劇でした!また次のお話で♪」
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