第46航行 3年生を送る会、それから
3月もそろそろ終わる頃、卒業の時期になる。
……そして、卒業式の前日に次期生徒会による『3年生を送る会』が行われようとしていた。
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『3年生を送る会』の当日。
「皆、準備はいいね?」
『送る会』を行う直前、イチカがそう役員に言う。
「大丈夫だ。何も心配は要らないんじゃないか。」
ニアンがそう返す。
その言葉に、皆は頷いた。
今年度の出し物は、3年生の過去の写真や映像をまとめた動画と、在校生全員で作った3年生へ贈るアート作品の紹介をする事になっている。
「イチカちゃんによる、最後の言葉も添えてだね。」
ローテットが言った。
「……うう。そう言われると、緊張する。」
「緊張したって仕方がないじゃない。チーカらしく、頑張ってよ。」
コヨラが励ます。
「……そうね。じゃあ、皆!成功させましょうね!」
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その日の午後、全校生徒は体育館へ集められた。
『それでは、整列をお願いします。』
司会である、風紀副委員のツゴラが呼び掛ける。
「『送る会』、楽しみね。」
シアラは、ギンガにそう囁く。
「そうだねもしかしたら、来年度やるかもしれないから、参考になるかも。」
ギンガはそう返す。
「気が早いんじゃない?」
「……まあ、ね。」
▫▫▫
『それでは、これから……3年生を送る会をこれから行います。どうぞ。』
電気が消され、プロジェクターで白幕に映像が浮かび上がる。
《私たちを導いてくれた、三年生》
《その軌跡を、まとめてみました》
その言葉から始まり、3年生が入学した頃の映像が流れる。
「懐かしい~」
「みんな、初々しいかったねぇー」
と、声が聞こえる。
それから、初めての練習試合や、大会の記録が流れた。
時に、笑いも起きたりした。
「先輩たち、喜んでくれているみたいだな。」
舞台袖で、ニアンがイチカに囁く。
「ええ。……なんとか、まとめ上げて良かったわ。」
▫▫▫
そして、動画は終盤を迎える。
《これから、海軍に入隊する先輩方に》
《在校生から、ささやかな『贈り物』を》
この部分で動画は終わり、電気が付く。
イチカが壇上へ上がる。
『それでは、在校生の私達から……先輩に贈り物を!後ろをご覧ください!』
皆は後ろを振り向く。
そこには、張り絵で校舎と戦艦、そして『卒業する先輩に、ありがとうとこれからの応援を』と書かれていた。
『私達は、先輩方に大変お世話になりました。……海軍として、これからも頑張って欲しいと願って、この作品を作りました。』
と、イチカが最後にそう言った。
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『3年生を送る会』は、大盛況で終わった。
張り絵はその日のうちに、正面玄関に張り出され、3年生はそれぞれ写真を撮っていく。
「喜んで貰えて、良かったな。」
その玄関先で、ニアンはイチカにそう伝える。
「……ええ。良かったわ。」
「浮かない顔をしているな。どうしたんだ。」
ニアンはイチカの顔を覗き込む。
「……もう、私達が引っ張っていくんだなって。」
改めて、先輩方の卒業が間近だと感じたのだ。
「俺達は俺達なりに、引っ張っていくしかないぞ。それに、俺らは独りじゃない。良い後輩に恵まれて居るじゃあないか?」
『良い後輩』
それを聞いて、ふとギンガの事を思い浮かんだ。
「……ふふ、そうね。私がこうしていられるのも、その後輩のお陰ね。」
そう言うと、ニアンは頷いた。
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その日の夜、3年生は各自の寮部屋を片付けていた。
「………ふう。」
バーモントは、ルームメートのニジェンと共に片付けていた。
「なんとか、終わらせたな。」
ニジェンが言う。
「ああ。……まあ、そんなに散らかって無いし、ささっと片付けるだけで十分だしな。」
そう言うと、ニジェンは頷く。
「明日、俺達は卒業するんだよな。」
ニジェンは、ふとそう呟く。
「そうだな。」
そう言われると、謎の感覚に見舞われる。
卒業すれば、海軍の軍人になる。
……大人の世界に飛び込むって事だ。
「母校卒の名に恥じぬように、頑張らないとな。」
バーモントが言うと、ニジェンは頷いた。
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アスマロス海洋学校で良かった、とバーモントは思っている。
この学舎で学んだことは、きっとこの先の未来に役に立てるだろう。
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そして、次回。
最終回となります。




