第44航行 2回目の学校見学
下級生同士の練習試合後。
2回目の学校見学の日がやって来た。
学校のしおりを200部まで増やし、見学時間や授業を観る人数を調整したり、前回の誤算みたいにならないよう工夫をした。
「前回とほぼ同じくらいね。」
正面玄関から外を見た、イチカがそう呟いた。
「……あ、イチカさん。見学者数を数えて来ました。」
見学準備委員会の副委員長のトトが、そう話しかけた。
「どれくらいだった?」
「173人でした。もう時間なので、これで確定ですね。」
そう、トトが返した。
「そう、数えてくれてありがとう。やっぱり、国別で優勝したから見学に来ようとしたのかしらね。」
イチカがそう言うと、トトは頷いた。
「それと、前回来た人も居ますね。もう少しじっくりと観たいのでしょうか。」
覚えているなんて凄い、と思ったが……もう一度来たって事は、試験を受けに来る可能性が高い。
その旨をトトに言うと、確かにと言わんばかりに頷いた。
「……これで、また学校が賑わえば良いですね。イチカさん。」
2回目の学校見学が始まった。
今回の見学では、前回の内容に加えて、午後は戦艦の中も案内する。
時間配分を調整したお陰で、スムーズに見学が進んでいった。
▪▪▪
午前中の見学が終わった頃、イチカはご飯を食べに食堂へ向かっていた。
(戦艦の案内の件、役員の皆に指示を出さなきゃな。お昼の休み時間、ゆっくり出来ないわね……)
食堂に向かいながら、イチカがそう考え事をしていると……誰かにぶつかった。
「きゃっ……すいません。大丈夫ですか?」
イチカはそう言って相手を見ると、地元の中等学校の制服を着ている。
学校のしおりを持っているし、見学者バッチを付けている。
……のだが、顔に見覚えがある。
「あ、大丈夫です……あれ?」
相手も気がついたようだ。
「もしかして、アオト君?」
「……やっぱり!イチカ先輩だ!」
アオトは、イチカの実家の隣に住んでいる子だ。
イチカが海洋学校に入学するまで、交流があった。
「アオト君って、もう中等学校を卒業するんだっけ。」
そうイチカが言うと、アオトが頷いた。
「イチカ先輩とは、2つ違いだからそうです。」
「……で、どうしてここへ見学を?私がここに進学したのは知っているとは思うけど。」
まさか、見かけるとは思いもしなかった。
今回は前回みたく、しおりを見学者に渡していないから……彼が来ている事は知らなかった。
「先輩の活躍を見て、僕も海洋学校に入ろうと思いまして。1回目は別の学校を観に行ったんですけど、やっぱり……アスマロスも観てみようって。」
「そっかあ。」
イチカがそう呟いた瞬間、自分のお腹が鳴るのが分かった。
……そうだ、お昼を食べに行くところだった。
「引き止めてしまったみたい、ですね。すいません。」
アオトがそう謝る。
「いや、ぶつかった私が悪かったわ。……じゃあ、また午後にでも。」
そう言って、二人はその場を別れた。
▪▪▪
午後の見学も、無事に終わった。
「………なんとか、2回目も終わったわね。」
反省会を終え役員が解散した後、イチカがそう呟いた。
「なあ、イチカ。」
ニアンが、話しかける。
「どうしたの?」
「親しげに話していた中等学校の子が居たろ。知り合いなのか?」
アオトの事だと悟った。
隠す事では無いと思ったイチカは、アオトとの関係を話した。
「……そうか。」
「なーに?嫉妬なの?」
ニアンの表情を見たイチカは、そうからかう。
「嫉妬じゃない。知り合いや後輩が観に来てくれたってのが、余程嬉しかっただろ。顔に出ていたぞ。」
(嬉しそうな顔をしていたのか、私……)
確かに、ニアンの言う通りなのかも知れない―――
その時、門閉じの鐘が鳴った。
「時間だな。……帰ろうか。」
ニアンがそう言う。
「……うん。」
二人は、荷物を持って生徒会室を出た。
▪▪▪
その頃、アオトの家では。
「アオト、海洋学校の件……どうする?」
母がそう聞いてきた。
1回目の見学はウェストローガ海洋大学校、2回目はアスマロスだ。
2校を見比べて、判断すると話していた。
「僕、イチカ先輩みたいになりたい。だから、アスマロス海洋学校に進学したい。」
「決まりだな。」
父がそう言うと、アオトは頷いた。
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