第43航行 下級生同士の練習試合:後編
「これより、練習試合を行います。決着は大会規約と同じですが、制限時間は1時間半で行います。」
今回の練習試合の審判員である、マツミ中佐が言った。
「それでは、一同礼!」
「「よろしくお願いします!」」
皆、戦艦に乗り込む。
(私も、ついに司令官として……か。ミミナ先輩とバーモント先輩みたいに、皆を引き連れて行ける人になってみせる)
C型戦艦の司令塔に入ったイチカは、そう思った。
「イチカ、指示を。」
ニアンがそう言う。
「今回の練習試合では遭遇戦を考えています。C型戦艦の前に、F型戦艦を置く配置にしてあります。1年が搭乗するA型戦艦は、機動力を生かしつつ連絡を取り合い、誘導をお願いします。」
イチカはそう、無線を入れる。
『『了解!』』
「……じゃあ、皆!出航しましょう!」
▫▫▫
「イチカ先輩、やる気満々だな。」
出航後、トリネキアはそうギンガに囁いた。
「そうだな。……僕達、絶対に先輩の力になろう。」
そう返すと、トリネキアは頷いた。
「……私達は南南西に向かってください、との事です。」
シアラが横から言う。
「南南西に舵を取ります。」
操行師のバイルが、舵を取った。
「皆、頑張ろうな……!」
▪▪▪
試合開始から、約50分。
『A型戦艦第2号、応答せよ。』
A型1号からの無線だ。
「こちら、2号。どうぞ。」
シアラがそう返す。
『WSW8地点より、相手のC型戦艦とF型の囲みを見つけました。こちらのC型に報告済み。ENE5地点に相手を誘導する為、手助けを頼みたい。』
「A型戦艦第1号より、相手の戦艦を見つけたみたいです。こちらのC型には報告済み。ENE5地点に誘導をする為、手助けをと伝えてきました。」
シアラが言う。
「……レーダーの距離にして、約780リェン。エンジンの最大出力で2分強で着く計算だ。1号が落とされる前に向かおう。」
ギンガはそう横から言う。
「分かった、向かおう。……機関室、最大出力で頼む。」
トリネキアが指示を出す。
『機関室、了解。』
戦艦の速度が上がると共に、相手の戦艦が見えてきた。
相手もC型戦艦の周りを、F型4隻で囲む配置にしてあるみたいだ。
「死角位置になるように、なるべく相手に近付いて。」
ギンガはバイルそう言った。
バイルは頷くと、相手のF型を縫うように入る。
「そのまま、鉢合わせしましょう。」
▪▪▪
その時のイガラベットのC型戦艦では。
「……相手のA型が、周りを彷徨いているね。」
情報管理師のヤコが言った。
「F型3号、相手のA型戦艦を攻撃出来るか?」
ミルシーが無線を入れる。
『死角位置に回り込まれて、砲撃困難です!』
「仕方がない、こちらでも攻撃をするか……」
ミルシーがそう呟いた瞬間、近くで大きな着弾音が聞こえた。
『相手船を目視。かなりの速度で、こちらに向かってくる!』
甲板監視師からの報告だ。
「相手のC型とF型ね……なんとか、耐えよう。」
レーダーを見ながら、ヤコが言う。
その瞬間、相手のA型が前へ出てきてたと思うと目の前に水柱が昇った。
(もしかして、回り込まれる……!)
ミルシーがそう思った瞬間、乗っていた戦艦に強い衝撃が走った。
エラーの音が鳴っている。
「……終わった、か。」
▪▪▪
相手のC型戦艦は、後方の方から黒煙を上げながら停止した。
「……上手くいったかしら。」
イチカが、そうF型1号の艦長であるチャコラに言った。
『相手船の左後方、排気煙突に当たり停止。』
そう、チャコラが返した。
黒煙の合間から、白旗が見えた。
『イガラベット海洋学校。C型戦艦操行不可。よって、アスマロス海洋学校の勝利!』
▪▪▪
「「ありがとうございました!」」
こうして、下級生同士による練習試合が終わった。
「イチカさん。」
ミルシーが話しかけた。
「あ、はい。」
「僕、まだまだ努力不足ですね。イチカさんみたいに、統括出来る力があればだなんて。………やっぱり、優秀選手に選ばれるだけの実力はありますよね。」
そう、ミルシーは言った。
他校の生徒から、そんな事を言われたのは初めてかも。
……というか、そんな事を言われるとは思わなかった。
「……あ、すいません。余計な事を言いましたね。」
ミルシーは慌ててそう言ったが、イチカは首を横に降った。
「謝らないでください。お互いに、頑張りましょう。」
そう言うと、ミルシーは頷いた。
「そうですね。……では今回の練習試合、お疲れ様でした。」
「お疲れ様です。」
▪▪▪
イチカにとって、初めての指示は上手くいった。
それでも、まだまだ努力は怠らないようにしたい。
出来れば、他校との練習試合をもっとしたい。
そう、イチカは思った。
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