第39航行 皆で過ごす年越し
海洋学校には、年末年始休みと言うものがある。
他の学校にある冬休みや夏休みとは違い、12月30日から1月3日だけの短期の休みだ。
………短い理由。
それは2学期の後半を占める大会の影響による勉強不足を補う為、このような構成となっている。
家への帰省は無く、海洋学校の皆と新たな年を迎える事となる。
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12月31日、大晦日。
「家以外の年越しだなんて、初めてね。」
食堂でお昼を食べながら、シアラがそう言った。
「そうだね。」
ギンガは返す。
「新生徒会による、年越しイベントも楽しそうだな。」
マガイロが横から言う。
この日の夜から、元旦までは特別に学校内が解放される。
(普段、夜中は施錠している為)
毎年度、2年生の新生徒会役員による、年越しイベントとなる物がある。
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その頃、生徒会では。
「皆、衣装はバッチリだね。」
イチカがそう言うと、皆は頷いた。
今年の年越しイベントは、役員による舞台を計画していた。
内容は、新生徒会になってから国別対抗の大会が終わるまでの物語を簡潔にまとめた物である。
で、12月に入ってから脚本と衣装作りに別れて、放課後にそれぞれ居残りでやっていた。
半ばになって、ようやく脚本が出来て掛け合いの練習、そして今日になって衣装が全部出来上がった。
「大変だったよぉ。」
コヨラが呟いた。
衣装の指示、任せっきりだったっけ。
「でもさ。お陰で全員の衣装、ピッタリじゃん。流石だよ、コヨラちゃん。」
ローテットがそう言った。
周りも頷く。
「ご褒美は、ケーキ食べたい!」
そう言いながら、コヨラはイチカの方を見る。
「たく、もう。……しょうがないわ、春休みに奢るわよ。」
「春休みって、まだ先じゃん!酷いー!」
コヨラは頬を膨らませる。
「まあまあ、奢らないってよりはマシじゃないの。」
ローテットがそう言う。
「ロテちゃーん。そう言う事じゃないのぉー。」
「……なあ、イチカ。最後の通し練習をした方が良いだろ。」
横から、ニアンが言う。
「そうだよね。じゃあ、皆!最後の練習をしようか!」
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午後10時半。
生徒会役員以外の生徒は、体育館に集まった。
「舞台、楽しみね。」
シアラがそう言う。
「うん。」
全員が集まったところで、照明が落ちスポットライトが壇上を照らした。
会計委員長のシェッターが壇上へ上がる。
『………皆さん、こんばんはー!』
「「こんばんは!」」
『これより、年越しイベント……もとい年越し舞台の、始まりです!』
歓声があがった。
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カーテンが上がり、イチカとニアンが居る。
『このお話は、私が生徒会長になると決めた時からの出来事―――』
生徒会長選に挑む所から、話が始まった。
そこから、新しい生徒会の発足、国別対抗の大会と話が繋がっていく。
先生や他校の生徒までも役員で織り成す劇は、所々ユーモアもあって時々観客から笑い声が聞こえる。
試合の時の緊迫した場面では、如何にもその時のような感じがする。
そして、劇は終盤になっていく。
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最後の場面になった。
イチカは、一人壇上へ上がり……マイクを握り締める。
「私が、生徒会長になりたい。そう思ったのは……ミミナ先輩のようになりたい、そう思ったからです。」
脳裏に、ミミナ先輩の顔が浮かんだ。
目に涙が浮かぶのが分かる。
「……私が副官として挑んだ今年度の国別対抗の大会では、優勝することが出来ました。最後の試合後、バーモント先輩からこう言われました。『ミミナ先輩のように、人を見れる、信じる力がある。後輩は付いてくる』、と。」
イチカのコールが聞こえる。
「まだまだ、私は未熟者です。それでも……それでも、私は強い意志でこの学校を導いて行きたい。そう、思っています。」
歓声があがり、生徒会役員が壇上へ上がる。
「それでは、皆さん。そろそろ年越しのお時間です!カウントダウンをするので、年越しをした瞬間祝いましょう!3、2、1………!」
『『ハッピーニューイヤー!』』
こうして、新年が明けた。
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イベント後の舞台袖。
「皆、お疲れ様!」
イチカは役員にそう言った。
「イチカちゃん、やっぱり最後……格好良かったよ!」
ローテットがそう言うと、皆は頷いた。
「あの台詞、言わせてくれてありがとうね。……じゃあ、軽く片付けしようか。」
皆は頷くと、移動をし始める。
「イチカ。」
ニアンが呼び止めた。
「……どうしたの?」
「やっぱり、イチカと一緒に生徒会の役員になれて良かったよ。……これからも、イチカの側に居て、力になりたい。改めてよろしくな。」
イチカは、顔が少し紅く染まるのが分かった。
「……ありがと、ニアン君。」
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