第37.5航行 ニアンの想い
「急に呼び出し、だなんてどうしたの。ニアン君。」
ある日の昼休み。
ニアンはイチカを、屋上へ呼び出した。
「とりあえず……大会の副官、お疲れ様だったな。大変だったろ。」
そう言うと、イチカは首を横に振った。
「大変だったけどさ。私がこんな大役を担えたのは、みんなのお陰。」
「……俺、力になれたかな。」
「え?」
「バーモント先輩みたいに皆をまとめていた訳じゃ無いし、ギンガ君のようなアドバイスも出来なかった。……そんな俺が、力になれたのかなって思って。」
イチカは、キョトンとした顔をした。
……そして、少し考えてから「ふふふ」と笑った。
「何かおかしい事を言ったか。」
「いやね。ニアン君が副生徒会長になるって言わなかったら、私はこんな立場に居なかったのよ。それが一番の後押しだったから。」
自分が副生徒会長にならなかったら、か。
「私がここまで来れたのは、ニアン君が支えてくれたからさ。もうちょっと前を向きなよ。そうじゃなきゃ、不安だらけ。」
そう言うと、微笑んだ顔を見せた。
深く考えすぎていたのだろうか。
だったら、今……あの事を言った方がいいのかな。
「俺、もっとイチカの事を――」
そう言いかけた瞬間、屋上用の出入り口付近から大きな物音がした。
「ちょっと、先輩……押さないでくださいよ!気付かれちゃったらどうするんですか!」
「だって、だって!いい所だったからさぁ!」
「お、重い……早く退いてくれませんか……」
何人かの声が聞こえた。
二人が見に行くと、扉からギンガ達三人組とコヨラが押し倒したようなカタチで倒れていた。
▪▪▪
「………ちょっと、何で四人が見ていたのよ。」
イチカが、そう四人に聞いた。
「実は、イチカ先輩に自分の想いをどう伝えたら良いか……ってニアン先輩に相談されて。」
シアラが言う。
「素直に言ったら良い、と俺らなりに助言したんです。で、今日話すと聞いたのでつい追って話す姿を見よう、と思って。」
マガイロがそう、付け加えた。
「そうだったのね。……で、コヨちゃんが居るワケは?」
イチカがコヨラを睨む。
「そ、そんな目をしないでよぉ、チーカ。……私も二人の事は色々心配してたからさぁ。」
「……とりあえず、僕達は撤収した方が良いと思いますよ。本当に邪魔になってしまいましたし。」
ギンガが言うと、他三人は頷いた。
四人は、その場を去っていった。
▪▪▪
「もう、人騒がせなんだからぁ。」
二人きりになった時、イチカがそう呆れたように言った。
「色々とすまなかったな。」
「ニアン君が謝る事じゃ無いわよ。」
イチカはそう返す。
「で、何を伝えたかったの?」
「そうだったな。あのな、俺はイチカの力になれるようになりたい。それと。」
「それと?」
「俺は、イチカの事……好き、だったから。」
▪▪▪
その頃、教室へ戻っていたギンガ達は。
「ニアン先輩、今頃……素直にあの事、話せたのかな。」
シアラが、そう呟いた。
「大丈夫よ、きっと。ニアン君はああ見えても、しっかりと言える人だし。」
コヨラがそう言う。
「意外と、コヨラ先輩も心配性なんですね。」
マガイロが横からそう挟む。
「意外ってなによ。友達の心配はするものよー?」
(……友達や仲間って、やっぱり必要なんだな。僕も今の仲間を大切にしないと)
三人の会話を聞きながら、ギンガはそう思っていた。
▪▪▪
好きだ。
と、伝えたときのイチカの表情は、一生忘れない思い出だ。
……そうニアンは思った。
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