第35航行 大会記録(国別対抗戦):ルゥイベットロ王国戦
大会は、4日目になった。
(前の日は、雨が降って中止になった。)
艦長達がアフェルトに集まる。
「さて今回のルゥイベットロ王国戦ですが、なるべくC型戦艦に向けて攻撃が出来るよう、前線に出るF型を多くします。」
イチカがそう言う。
ルゥイベットロ王国は、C型を囲むF型戦艦は基本的に4隻で構成されている。
(配置は学校毎に違い、カウラベットは前後2隻で囲っている。)
相手は、どの戦艦も装甲が厚い。出来るだけ、攻撃側を増やす方向にしたのだ。
「では、配置についてだ。C型を囲うF型はイルアガロスのF14、ウェストローガのF14の2隻。攻撃側は、うちらのF型が2隻、ウェストローガのF12を2隻、ミアガロスのF14が1隻。A型は、うちらが1隻、イルアガラスのA10が1隻で構成する。」
バーモントが付け加える。
今回は、多種多様の戦艦を出して交戦するように構成をした。
もちろん、異論を唱える人は居なかった。
開始10分前の、声かけがあった。
「それでは、行きましょうか。」
バーモントが、そう言う。
「……あっ、あの!」
その時、イチカが声をあげた。
「絶対……絶対に、勝ちましょう……!」
その言葉を聞いた皆は、頷いた。
▪▪▪
「これより、ルゥイベットロ王国選抜対、ミハローガ王国選抜の試合を行います。一同、礼!!」
「「お願いします!」」
戦艦に乗り込む。
「事前にお話した通り、今回はC型の攻撃をメインに前線に出るF型を多くしている。……皆、頑張ってくれ。」
バーモントが指示を出す。
『『了解!』』
「皆、これで勝てば優勝だ。……それでは、出航!」
▪▪▪
試合開始から、約1時間半。
終了まで残り30分と迫っていた。
F型同士の攻撃が相まって、航行中のF型が両方共に少なくなり始めた。
(……どうしよう、このままだと試合が終わっちゃうわ)
そう、イチカは思っていた。
イチカが乗っているF型は、まだ交戦下に置かれていなかった。
攻撃が出来る戦艦は自分のと、ウェストローガのF12が1隻の2隻になった。
それ以外の戦艦は、一時操行不可の状態で止まっていると報告があった。
『アスマロスのF14型1号、応答せよ。』
イルアガラスのA型戦艦から、無線が来た。
「F14型1号、どうぞ。」
通信師のアガラが返す。
『ようやく、SW5地点よりC型と囲いを見つけました。距離的にそちらが近いと思います。……向かうことは可能でしょうか。』
「SW5地点にて、C型と囲いのF型を発見したと報告がありました。距離的に、自分たちの戦艦が近いとも言っていました。」
アガラは、そうイチカに言った。
「何分で着きそう?」
イチカはニアンにそう聞く。
「最大出力で、5分弱だな。……迷っている時間は無いと思うぞ。」
ニアンはそう返す。
「……分かった。向かうことにしましょう。アガラ君は、A型になるべくその場で相手を止めるようにと伝えて。」
アガラは頷いた。
「じゃあ、SW5地点の方向に舵を取ります。」
コヨラがそう言い、舵を切った。
戦艦の向きが変わる。
「機関室、エンジン出力を最大で頼む。」
ニアンがそう、機関室に無線を入れる。
『了解。』
戦艦の速度が、上がる。
(……行くって言ったけど、攻撃はどうしよう。うちらの砲台で装甲が抜けられるかな)
イチカは、その時攻撃方法を必死に考えていた。
……だが、なかなかまとまらない。
その最中、甲板監視師からC型を目視したと報告があった。
(どうしよう、どうしよう……)
『……イチカ先輩。』
ギンガの声が無線から聞こえた。
『カウラベットのC型は、船先の装甲が若干薄かったはずです。魚雷と主砲を使えば、何とかなるかも知れません!』
(………っ!)
かつての練習試合の時を彷彿とさせる、そんなような発言だ。
ここは、信じてやってみるしかない。
「……ナイスだわ、ギンガ君。その方法を取ってみる!」
▪▪▪
その頃、相手側のC型戦艦では。
『遠目に、A10型が居ますね。』
前方を操行している、サーベロットのF型からの報告だ。
『……水柱撹乱 (弾を水面に放って、相手を撹乱する技術) で食い止めている。どうする?』
甲板監視師の一人が、ネシラにそう聞く。
「何とか、A型を射止めてください。」
ネシラは、前方を守るF型にそう伝える。
「ネシラくん、相手のF型が凄い勢いで来ているわ。」
ネミィが横から言う。
レーダーを見ると、進行方向の左前方からこちらに向かうF型が映し出されている。
「1隻か。それなら、落とせるはずだ。」
そのまま、前方を守るF型をすり抜けるようにC型戦艦に廻り込んだ。
どうやら、船先に攻撃を仕向けるみたいだ。
「まさか、このままうちらに攻撃を!?副主砲、発射用意を―――」
『相手F型、砲弾を撃ってくる!』
と、甲板監視師が伝えたその時、戦艦に衝撃が走った。
『ネシラ、こちら機関室。[エラーコード02] (転覆危険) により、エンジン停止。もう無理だ!』
「………遅かった、か。」
ネシラが、そう呟いた。
▫▫▫
イチカの目線には、相手のC型が黒煙をあげているのが見えた。
攻撃は、見事に当たった。
「これは、やったか?」
ニアンが、そう静かに言う。
黒煙の合間から、白旗が見えた。
「こちら、F14型1号。相手C型戦艦、白旗確認。撃破しました!」
『ルゥイベットロ王国選抜、C型戦艦操行不可。よって、ミハローガ王国選抜の勝利!』
「私達……私達の、優勝だ……!」
その瞬間、イチカは目が涙で滲むのが分かった。
安堵と、重荷が肩から降りた……そう、思った。
▪▪▪
試合後。
ネシラと、レソンが陣地へやって来た。
4人は握手を交わした。
「前方を狙う技術力、流石でした。」
ネシラが、そう言った。
「なかなか、勇敢な行動でしたね。……僕も見習いたいです。」
レソンもそう付け加えた。
「……いえ、それほどでもないです。」
イチカが、そう呟く。
「それでは、優勝……おめでとうございます。」
そう残し、二人は陣地を去った。
「……無事に、学校を任せられるな。イチカさんに。」
二人を見送った後、バーモントがイチカにそう言う。
「……えっ?」
「ミミナに似た感じだとずっと思っていた……それが、この試合で確信した。ミミナみたいに、人を見る目と信じる力がある。きっと、後輩も信頼して着いてきてくれると思うぞ。」
「先輩……!」
「……とりあえず、閉会式まで少し休むか。」
イチカは頷いた。
ブクマ、感想等いただけると励みになります。




