第33航行 大会記録(国別対抗編):グレンドー国戦
開会式から、翌日。
今日は、グレンドー国との対戦だ。
バーモントやイチカを含め、各戦艦を任せる艦長がアフェルトに集まる。
「……さて、今回のグレンドー国との対戦は遭遇戦に備えた配置にしましょう。」
集まったところで、バーモントはそう伝える。
スルエントロ海洋大学校が主軸校の際の、国別対抗戦の隊列は『遭遇戦 (C型戦艦を全戦艦で囲むような配置をする事) 』にしている事が分かった。
多分、この配置にするのが伝統なのだろう。……ならば、こちらもそれに合わせてやればいいと考えた。
「では、具体的な配置はどうしましょ。」
ノーラが聞いた。
「A型戦艦は、ウェストローガの戦艦を2隻。F型はうちが2隻、イルアガラスの改造型F14が2隻、ミアガロスが3隻とします。」
イチカがそう言う。
ウェストローガのA7型戦艦は、機動力を生かして貰って探すのが目的。
アスマロスとイルアガラスの戦艦で、攻撃。
ミアガロスの戦艦はC型戦艦を守りつつ、バックサポートで攻撃を行ってもらう。
そう、追加の説明をした。
艦長達は、この作戦に異議は唱えなかった。
その時、試合開始10分前の声かけがあった。
「それでは、行きましょう。」
▪▪▪
「これより、ミハローガ王国選抜対、グレンドー国選抜の試合を行います。一同、礼!!」
「「お願いします!」」
生徒は戦艦に乗っていく。
「事前にお話した通り、遭遇戦を考慮した配置にしてある。場合によっては、ミアガロス以外のF型を分離して攻撃を行うとも考えている。皆、よろしく頼む。」
バーモントは今回出撃する皆に、そう伝えた。
『『了解』』
「それでは、出航!」
▪▪▪
試合開始から約1時間。
A7型戦艦2号が南南東方面を操行していた。
『………C型戦艦を目視。F型6隻で囲んで居る模様。』
甲板監視師からの報告があった。
「ウェアルントロのF14改造型、セルイントロのF13だな。攻守の強化版で固めているのか。」
情報管理師のシロトがレーダーを見ながら言う。
「コラン、C型に報告してくれ。」
艦長のトラガーが指示を出す。
「………何とかNWN6地点付近まで引き付けて下さい、と指示がありました。」
コランがそう伝えた。
距離的に、そこで鉢合わせにするんだな。
「トラガー、1号と連携してやった方が良いんじゃねぇか?落とされると厄介だぞ。」
シロトが横から言う。
「確かにそうだな。……リュン、聞こえるか。」
リュンは、A型1号の艦長だ。
『どうした、トラガー。』
「C型と囲いのF型を見つけた。NWN6地点に誘き出す為に、協力を頼む。」
『オーケー、オーケー!』
▪▪▪
その頃、相手のC型戦艦では――
『ウェストローガのA型だわ。遠目から見てるみたいね。』
甲板監視師として、搭乗しているベルアンテの声がした。
「様子を伺っているんでしょうか。」
リュウが聞く。
「それはまだ、判断付かないわね――」
ベルシアンがそう呟いた瞬間、A型が高速で向かっているのが見えた。
F型を縫って、隊列内に入っていく。
「あのA型を落としなさい!」
ベルシアンの怒号が響く。
その時、後方から着弾の音が聞こえる。
『もう1隻、A型が来る。』
他の監視師からの報告だ。
(どうして、A型だけなのかしら)
前方のF型が、相手のA型に釣られるように方向転換する。
……何処かに連れて行くような感じがしなくもない。
「まさか、誘き出すつもりじゃ――」
▪▪▪
A型が奮闘している間、C型と囲んでいるF型が合流地点まで向かっていた。
「……A型、攻撃されてなければいいな。」
リバーバが呟く。
(リバーバは、今回通信師としてC型戦艦に搭乗)
「まあ、そこは海洋大学校の方々。俺らよりも、技術力は高いはずだ。」
そう、バーモントは返す。
『船先前方、A型2号を目視とレーダー確認。奥に相手船も見えます。』
イチカが搭乗しているF型1号から、報告を得た。
「……あれ、一報の時は相手のF型6隻だったよね。」
情報管理師のアツミが言った。
「どうかしたのか?」
「相手、2隻減っているわ。」
レーダーを確認してみると、確かに囲む戦艦が少ない。
「A型2号、応答せよ。」
バーモントが言うと、『はい、A型2号。』とトラガーの声が聞こえた。
「相手船、2隻程少ないように思うが……」
『前哨攻撃中に、リーファンド (自分の戦艦に砲撃が当たること) をさせるよう、1号と協力してやりました。この方が、有利だと思いまして。』
誘き出し作戦中に、考え付いたらしい。……流石だ。
「……ありがとうございます。ここからは俺達が担います。A型は前線撤退。」
▪▪▪
相手のC型は、A型に翻弄されていた。
『リーファンドで操行不可ですー!』
前を操行していた、セルイントロのF型戦艦からだ。
「相手、やりますね。」
リュウがそう言う。
「感心してる場合じゃ無いわ!隊列を整えなさい!」
操行不可のF型を置いて、隊列を整える。
1隻2隻、少なくなったところで圧倒的な攻撃力には変わりはない。
『敵が来ているわ。』
ベルアンテが伝えた瞬間、大きな着弾音が聞こえた。
F型戦艦とC型戦艦が見える。
「相手も遭遇戦を配慮しているわね。……このまま、全戦艦、相手を蹴散らしなさい!」
▪▪▪
その時、前方の私たちを気にするあまりに、後方が開いたことを相手は気づいていなかっただろうか。
「コヨちゃん。相手のC型さ、後ろに上手いこと廻れない?」
操行師であった、コヨラにイチカは言う。
「ガラ空きを狙うのね?」
イチカは頷いた。
「主砲は、C型の真後ろに来た瞬間……砲撃をお願いします。」
『了解しました。』
それから、管理科のレンに頼んで速度を上げるように伝えた。
「C型に報告しますか。」
通信師のアガラが横から言う。
「そうね。直接攻撃を行うと伝えて。」
「分かりました。」
自分の戦艦が速くなる。
相手を追い抜き、C型の真後ろに上手いこと廻り込む。
「主砲、撃て!」
大きな砲撃の音がした。
相手のC型は、黒い煙を上げながら止まった。
「………やった、かしら。」
▪▪▪
「…………っ!?」
強い衝撃が、戦艦を襲った。エラー音が鳴り響く。
一瞬の事で、ベルシアンは頭が真っ白になった。
「1隻、速い速度で廻り込んだみたい、ですね。」
リュウが静かに言った。
「………まさか、後方を狙われるだなんて。」
『[エラーコード09]が出ているぞ。……もう、操行不可だ。』
機関室からだ。
(………流石、だわ)
そう悟ったベルシアンは、白旗を出した。
『グレンドー国選抜、C型戦艦操行不可。よって、ミハローガ王国選抜の勝利!』
▪▪▪
「………はあ、やったわ………」
試合後、イチカは大きなため息をした。
「なかなかいい感じに攻撃出来たな、イチカさん。」
バーモントが言ってくれた。
「あ、ありがとうこざいます。」
ベルシアンとベルアンテが、こちらの陣地にやって来た。
四人は、握手をした。
「試合、お疲れ様ですわ。」
ベルシアンが言った。
「なかなか、いい統制してたわね。……私達、まだまだなのかも知れないわ。」
ベルアンテがそう呟く。
「まあ、とりあえず。勝利おめでとうだわ。」
二人は陣地を後にした。
「あのお二人、仲違いって聞いてたけど……案外そんなの噂話だったのかも知れませんね。」
「そうだな。」
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翌日の2日目は、グレンドー国とルゥイベットロ王国の試合が執り行われる。
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