第12航行 三人三色の夏休み ギンガ編
数ヶ月ぶりに家に帰った。
部屋は入学式のまま、綺麗にしてあった。
久しぶりにベッドに横たわる……こんな感じだったっけ。学校の寮のベッドの方が寝心地が良い気がする。
これから、夏休みが始まるのか……。
▪▪▪
それから3日後。
『例の物、用意出来たよ。』
とシアラから連絡があった。
待ち合わせのウェイラー港へ向かう。
ウェイラー港は、リハマ市の重要港 (※1) だ。
海軍の停泊港 (※2) にも指定されており、小学校の頃からよく二人で行ってたっけ。
自転車を走らせて10分。
「あ、ギンガくん!」
「おまたせ。」
「早速だけど、はい。これ。」
書類とDVD1枚を渡した。
「戦艦ノートの写しと、大会記録よ。」
終業式の日に頼んでいた物だ。
「一応、勉強の合間に大会記録のDVDを見直してね。幾つか戦艦を見落としていたのがあったから、追加してあるわ。」
「見落とし……なんてあったのか?」
それを見つけるのも凄い事なんだけどな。
「ええ。基本的な戦艦以外にも、相手によって戦艦自体を変えているんだけどね……どうやら、最近の大会記録を観ていないせいか、新しく改造された戦艦が幾つもあったのよ。調べるの、大変だったけどね。」
「………本当、ありがとう。」
「何のこれしき、よ。………あと、ここに来るの久しぶりね。」
確かに、何時から来なくなっただろう。
「……よお、坊主。」
その時、後ろから声が聞こえた。
振り返ると、帽子を被った老人が居た。
………顔に、見覚えが……
「バロじぃ……!」
「おぉ、覚えておったかぁ!久しぶりじゃあのお!」
二人は手を取り合う。
「バロじぃ……?もしかして、その方が『たたき上げの海士』の……バロ・ファンノーさん?」
シアラが聞く。
「そうじゃよ。」
バロが返事をする。
「……で、坊主。その子は?」
「同級生のシアラです。」
「は、初めまして……!お目にかかれるなんて!」
バロは頷く。
「あの、バロじぃ。……どうして、僕に会いに?転校してから会って無かったのに…。」
「それはじゃなあ、坊主がアスマロスに入学したと……ちぃと話を聞いてな。」
「あ、いけない!私、これから用事があるの。」
シアラが時計をみて言う。
「ああ、済まないのお。」
「すいません、失礼します。……またね、ギンガくん。」
シアラはそう言うと、自転車に乗って行ってしまった。
▪▪▪
「父親と、同じ道を歩むのか…。」
二人きりになったとき、バロはそう呟く。
「えっ?」
「坊主の父親は、わしの教え子じゃった。」
思いがけない言葉に、ギンガは呆然とする。
……徐々に思い出す。確か、父さんは海軍の軍服を着ていたっけ。
「そっか、それで戦艦を見るのが好きだったのか。どうして、今……それを?」
「母親から、話すなと言われておってな。」
「そうですか。それで、父さんは?」
そう言うと、バロは悲しそうな顔をした。
「海難事故の救助中、ヘリの命綱ロープが切れて海に投げ出されてしまってな。今の今まで、行方不明のままなんじゃ。」
それを聞いて、手が震えるのが分かった。
何て言ったらいいのか、分からない。
「だからな、坊主が海洋学校に入った話を聞いてだな、話そうと思ったんじゃ。………あとな。もしかしたら、どっかで生きてるかも知れん。そう落ち込むことはない。」
「…………はい。」
本当は、知りたくなかった事だ。
それは、母さんもバロじぃも……。
………でも、前を向いて生きるしか無いのかな。
「バロじぃ、僕………父さんみたいになれるかな。」
「海士に限らず、軍人は生死紙一重じゃ。それでもお国、人民の為に戦えるか、救えるか……。その心得があるのなら、十二分にはやれるぞ。」
「……バロじぃ、もう一度……教えを講じたいです。」
「おう。」
▪▪▪
その日から、勉強の合間にバロと戦術の教えを講じた。
この感じ、久しぶりだな。
「……坊主、学校に行きはじめてから、なかなか良いスジを持っとる。やはり、父親に似とったんだろうな。」
「いいえ。バロじぃの教えがあってこそ、です。」
「でもまあ、あのシアラって子は勤勉者じゃのお。戦艦の資料を一人で書き記すとはなぁ。」
手元のノートの写しを見て言う。
「一から、自分で調べて書いたそうです。無かった戦艦も、追加してもらってあって。」
「………信頼しとるんじゃな、彼女の事。」
「はい。大切な友達の一人です。」
こんな感じで、時は流れるのであった。
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(※1) 重要港
物流や漁業に於いて、一番の大きさを誇る港。
(※2) 停泊港
海軍基地以外で、戦艦を停泊させる為の港。
重要港と停泊港を兼ねているのは、ウェイラー港のみ。
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