第9航行 練習試合:後編
「イチカ先輩!どうしましょう!」
シアラが慌てる。
「とりあえず、報告をしましょう。話はそれから……」
そう言っている最中にも、着弾の音が聞こえる。
「……こちらA型戦艦3号、SW85地点より相手のC型戦艦を見つけました。F型戦艦1隻来れますでしょうか。」
『F型戦艦第5号、了解。そちらに向かう。』
と、応答があった。
『A型3号、その場を離れられるかしら。狙い撃ちされると不味いわ。』
ミミナ先輩からの指示だ。
「シアラ、確か戦艦の後ろ側……死角位置があるよな。」
「あるけど、もしかして?」
「………ああ、こちらから見て右側のF型戦艦とC型戦艦の間、何発か弾を撃つ。そこから、戦艦を廻り込みをした方が良いかもな。下手に逃げるよりは、な。」
「………二人とも、ナイスだわ!」
イチカが言う。
「えっ?」
「その方法を取るわ。………主砲、第一副主砲、C型戦艦とこちらから見て右側のF型戦艦の間を撃ってください。」
『了解です。』
「イチカ先輩、それだと指示に背くんじゃ……?」
シアラが心配そうに言う。
「確かにそうだけど、時と場合がある。私が責任取るから!」
『装填完了しました!』
「撃て!」
C型戦艦と、F型戦艦の間が少し空いた。
「機関室、最大出力でお願いします!」
『了解だよ!』
戦艦のスピードが上がる。
このまま一気に廻り込め………!
▪▪▪
その頃、アスマロス側のC型戦艦では。
「………おや?A型3号が相手の戦艦に廻り込むぞ?」
情報管理師であり、ミミナの右腕的存在のバーモントがレーダー情報を見ながら言う。
「おかしいわね。退却、と伝えたはずなんだけど。」
C型戦艦と、F型戦艦の間を沿うように操行している。
「バーモント君、もしかしてA型戦艦が居るの『死角位置』かしら。」
ふと、ミミナが言う。
「死角位置………確か、砲撃を受けない位置だよな。それに、相手のF型とC型の間だから、撃てづらい筈だな。」
「うん。……でも、イチカちゃんがそんな判断する訳ないよね。誰の判断だろう。」
▪▪▪
「レンガ隊長、相手のA型戦艦が後方に居るみたいです。」
情報管理師が、レンガに言う。
「副主砲、後方撃てるか。」
『死角位置に廻り込まれて、砲撃困難です!』
砲手がそう返事した。
「F型2号は!」
『こちらも困難です。』
『隊長!敵船が!』
甲板監視師がそう伝えた瞬間。
船に衝撃が走る。
「A型戦艦に気を取られて、後ろから!?そんな馬鹿な。」
『戦艦後方、損傷有り!』
「………こりゃあ、うちの負けですな。」
『ミアガロス海洋学校、C型戦艦撃破。よってアスマロス海洋学校の勝利。』
▪▪▪
練習試合後。
「お疲れ様でした。まさか、A型戦艦が死角位置に廻り込むとは思いませんでした。………良い練習になりました。」
レンガが言った。
「こちらこそ、お疲れ様でした。」
ミミナがそう応える。
ミアガロス海洋学校の生徒が去っていく。
「後で、イチカちゃんを呼び出さないとね。」
ミミナは呟いた。
その頃。
「ねぇ、ギンガくん。さっきの話の事なんだけど。」
ふと、シアラがギンガに話しかける。
「あぁ…そうだったな。」
マガイロに話した事を、そのままシアラに話した。
「………そう、だったんだ。」
「ごめんな。今まで話せなくて。」
シアラは、首を横に振った。
「ううん、気にしてないよ。むしろ、話してくれて嬉しかった。………過去にあったことは無くせないけど、私はギンガくんの味方だよ。」
「皆、学校に戻るぞ。」
先生の声が聞こえる。
「行こっか。」
シアラがそう言うと、ギンガは頷いた。
▪▪▪
ちなみにだが、相手は僕の事は全然覚えていなかったみたいだ。
覚えていたら……なんて事を考えていたが、何も言われなくて安心した。
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