第8航行 練習試合:前編
1学期も、終盤に差し掛かった頃。
例の練習試合を行う日がやって来た。
大会の編成体制で行うらしい。
1年生にとっては、初めての実戦式で航行する。
今年度の練習試合の相手は、ミアガロス海洋学校とのこと。
ミアガロス・ウバロガ戦艦は、うちの学校の戦力とさほど変わらないとシアラが言っていた。
練習試合の場所は、重油タンクがある給油島 (※) のある海域で行うみたいだ。
うちらの学校が到着したときには、相手方の学校も来ていた。
▪▪▪
「今日はよろしくお願いします。」
生徒会長兼、総司令官のミミナ先輩が言った。
そう言えば、ミミナ先輩を見るのは入学式以来だっけ。
病気休暇で長いこと休んでいたな、先輩は……。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
相手方の総司令官の、レンガさんが言う。
「では、準備を行ってください。」
今回の審判長である、海軍のマドミ少尉が言う。
撃破の判断は、潜水艦と空からの判断らしい。
出航前の準備中に、相手方の生徒を見た。
小さいのは、A型戦艦だろうか。
神妙な面持ちをしている生徒達が居る。新入生なのかな。
(………アイツ、確か。)
一人の生徒に目が行った。
(アイツ、アイツ………まさか!?)
……名前は、マーシン・アミレイ。かつてイジメられてた同級生だ。
顔立ちは少し変わっていたが、間違いない。
どうしてアイツが………?
「おい、どうした。」
雰囲気を察して、マガイロが話しかける。
「な……んでも……ない。」
言葉が詰まる。
「大丈夫な訳無いだろ。……イチカ先輩、すいません。ちょっとこの場、離れても良いですか?」
マガイロは、イチカに言う。
「……あ、うん。直ぐに戻ってきてね。」
▪▪▪
人目を避けた場所に移動した。
「急に顔が真っ青になったから、心配になったぞ。……知り合いが居るのか?」
ギンガは、口を継ぐんで俯いた。
呆れたように、マガイロがため息をつく。
「まさか……相手方の生徒の人に、過去、いじめられてたとは言わないよな。」
身体がピクリ、とする。
「図星だな。メンデラスの時の反応からずっと、何かあっただろうと、心配していたんだ。前にも話したが、過去の事……俺に少し話してくれよ。気持ちが軽くなるかも知れん。」
ギンガは頷いて、過去の事を話した。
相手方の生徒の中に、同級生がいた事。
母子家庭の事を、同級生がからかい、いじめていた事。
それで、転校した事。シアラと仲良くなった事。
………当の彼女には、本当の事を伝えていない事。
「ギン、シアラに伝えていなかったのは、なんでだ?」
「………何かと心配するから。」
「あのな。言わない方が、よっぽど心配するぞ。この練習試合が終わったら、シアラにもきちんと話せ。俺以上に力になる筈だから。……それと。」
「それと?」
「今の仲間は、2組の皆だ。何も心配するな。」
▪▪▪
「ギンガくん。マガイロくんと二人で話していたみたいだけど、どうしたの?」
戻ると、シアラがそう言った。
「後で話すよ。」
少し心配そうに、シアラは頷いた。
「とにかく、今は練習試合に集中しよう。」
管理科と搭乗人数から外れた生徒以外は、3号に乗り込む。
機関室は、上の学年の管理科が担当するみたいだ。
今日は、A型戦艦3隻、F型戦艦6隻、C型戦艦1隻で出航する。
船の振り分けは、練習試合でも相手には知らせないし、相手方の振り分けもわからない。
それがルールみたいだ。
『今日のフォーメーションと戦術は、C型戦艦に対して護衛のF型戦艦が4隻。残りのF型は、一定の距離を保ちながら臨機応変に攻撃。A型戦艦の皆さんは、機動力を生かして、相手方を探して報告を。』
C型戦艦から、ミミナ先輩の指示が飛んだ。
「「了解!!」」
『では、皆!出航よ!』
「私達は、南西に移動みたいです。その方面から、徐々に相手方を見つけてください、とのこと。」
出航後、シアラはC型戦艦からの指示を伝えた。
「了解。南西に転換。」
ギンガはその方向へ舵をとる。
「甲板監視師の皆さんは、注意深く見てください。」
『了解!』
▪▪▪
15分程経っただろうか。
『戦艦の後方より、1隻近づいてきます!』
と、アミリーから報告があった。
ニアンがレーダー画面を確認する。
「相手のF型戦艦だな。」
そう言った瞬間、船の近くで砲弾が着弾した音が聞こえた。
『ぜ、前方より、何隻か見えます!』
もう一人の監視師が言う。
「C型戦艦とF型戦艦2隻……!」
その場が凍りつく。
まさか、挟み撃ちにされるのか!?
▪▪▪
(※) 給油島
石油を使う戦艦が、給油する専用の人工島。
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