二人だけの逃避行
ピンポーンと甲高い音で部屋にチャイムが鳴り響く。
「おい!うるせいぞ!」
部屋にいる親父が僕に空っぽのビール缶を投げつけてくる。
「おい、皐お前が出てこい。俺は部屋で寝ているからな。誰か来ても俺のことはいないと言えわかったか!」そう怒鳴りながら親父は部屋へ行きうるさいいびきが聞こえる。
こうなると親父はいくら呼んでも起きることはないだろう。
ずっと眠ってくれてたらいいのに。
心中で愚痴をこぼしもう一度なるチャイムに苛立ちを覚えながら僕は玄関へと向かった。
借金取りだろうか、それとも家賃の取り立てかな?
親父が仕事をしないせいでこの部屋にはそういう人がひっきりなしに訪れるさて、どうやって追い返すかと思いながら僕は玄関のドアを開けた。
そこにいたのは、僕の友達の彼方だった。
なんでこんな夜中にと訝しげながら彼方を見ると彼方は震えている。外はザーザーと強い雨が降っている、雨に濡れたのだろう。
でもなんで傘も刺さずにこんな時間僕の家に来たのだろうと彼方を見ると彼方の服には真っ赤でどす黒い血が大量に付いている。
特に彼方のキレイな優しい亜麻色の髪がどす黒い血に犯させている。
「おい!どうしたんだ!」泣きながら震える彼方にそう言葉をかける。
すると彼方は僕に信じられない言葉を返すのだった。
「人を…殺した。」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が僕を襲う。
彼方は何を言ってるのだろう。
親を殺した?その言葉が僕の中で反響する。
僕は震える彼方部屋に入れ話を詳しく話を聞くことにするのだった。
「ほらよっタオル。」彼方の濡れた髪を拭くためにタオルを渡すが彼方は心ここにあらずといった様子で呆然としている。
「なぁ彼方詳しく話を聞かせてくれないか?」優しく彼方に声をかける。彼方は落ち着いてきたのか僕の言葉にコクリと返事をする。そして彼方は僕に何があったのかを説明するのだった。
男の怒号が響くその声を聴いているだけで私を恐怖に支配される。人のものとは思えない怒号を叫びながらその男は暴力を振るう。
「いやっ!こないで!」必死に投げかける言葉はその男を無視して私に物を投げつけながら私に近づいて来る。
私のすぐ隣でビンが割れる音が響いた。
そして私の目の前に男がいる。男は大きく腕を振りかぶり私を殴ろうとした瞬間割れたビンの欠片を手に取り男の腹に思いっきり刺した。
それから私の記憶がなく気づいたら男は腹から血を流しながら死んでいた。
その男は私の父だった。
彼方から全てを聞いた彼方は親から虐待を受けていて今この時彼方は親を殺してしまったのだ。
「彼方は悪くない。」僕の口からこぼれたのはそんな何の根拠もない言葉だった。あるいは僕の願望かもしれない。
「私はもうここにはいられない、どこか遠い所で死んでくるよ。」
肩を震わせながら彼方はそう言葉をを漏らす。
「彼方一緒に逃げよう。」彼方の言葉に僕はそう言葉を返す。
彼方はハッとした顔で、
「皐君は来ないでほしい。私がここに来たのはもうどうしようもなくてどうすればいいのかと悩んでいたら皐君のことをここへ来てしまったの。お願いほっといて死なせてほしい。」
彼方はそう願望を漏らすその言葉に僕は怒りが湧いてきて、
「ふざけるな!彼方が僕に生きろと言ったのに彼方は勝手に独りで死ぬのか!僕は絶対にそれを許さないからな。」
「とにかく僕と二人で逃げよう。今なら終電も残っているはずだ。駅へ行きどこか遠くに行こう。」そう言うと僕は彼方の手を取り脱衣場へ連れて行く。
「彼方シャワーを浴びて血を流そう。服はバスルームの外へ置いておくから。彼方のシャワーが終わったら逃げ出そう。」
彼方はその言葉に頷きバスルームへ入る。
僕は彼方と逃げ出す準備をした。
「なんでこんなことになったのだろう。」と僕は昔の出来事を
思い出すのだった。
僕はその日屋上にいた。フェンスに手を掛け身体を前に倒そうとする。すると後ろから声が響く。
「待ちなさい!」僕のすぐ後ろで甲高い声が響き僕の手が握られる。
そこにいたのは知らない女だった。
「まて、落ちようとしたわけじゃない。」慌てて弁明をする。
「嘘つきなさい。」
「貴方ほぼ毎日この屋上にいてフェンスに手をかけるじゃない。」
「それって死にたいけど勇気が出ないんじゃないの?」
「うるさい。」図星をつかれ投げやりに言葉を返す。
「自殺しようとする理由を聞かせてくれない?」
「お前に話してどうなるんだ?」怒気を孕んだ声で女に問いかける。
「私に話して心が軽くなるかもしれないじゃない。」
「そんなことしたって意味はない。」
「やってもないのにそんなこと言わないの。いいから話してみて。」女にそう言われ僕は自殺しようとする理由を話した。
僕の親父はいわゆるアル中というやつだった。
物心ついたときからあいつはずっと酒を飲んでいて僕の母さんはそれに耐えきれなくなり僕を置いて家を出ていった。
それから親父は僕に暴力を振るう様になった。
母さんが出ていったショックで僕にあたってくる。
顔とかは殴らず服の上からは見えない傷が増えていった。
「だからその生活が耐えきれなくなって死のうとしたんだ。」
女は僕の理由を聞きそして僕は女に抱きしめられていた。
「は?」そんな素っ頓狂な声が響く。
女は僕の頭を撫でながら
「辛かったの?」
「苦しかったの?」
「悲しかったの?」
「寂しかったの?」
僕は彼女の体温を感じながら涙をこらえ「うん…」「うん…」と涙声で返事をする。
「もう泣いてもいいんだよ。」
その瞬間僕の目から涙が零れ落ちるポロポロと僕の頬を流れる涙
が溢れて止まらない。
親父は僕が泣いているのを見て殴るか蹴るかしかしなかった。
僕はこのとき初めて人の前で泣いてもいいことを知った。
10分、1時間何分たったかわからない。
その間僕はずっと彼女に抱きしめられていた。
「落ち着いた?」優しく言葉を掛けてくる。
「うん。もう大丈夫。」そっと彼女の胸から離れる。
彼女はふっと微笑み「これからは辛いことあったら私に相談しなさい。聴いてあげるから。」
「えっと…そのごめん。」
「なんでそこで謝るのよ。」
「そういうときはありがとうそう言ってくれたほうが嬉しいから。」
「えっと…ありがとう。」
「どういたしまして。」そう言って僕は彼女は笑いあった。
「えっと…君の名前は?」
「私の名前は彼方、一ノ瀬彼方。」
「僕の名前は神奈木皐よろしく一ノ瀬さん。」
「彼方でいいよ皐君。」
そう言って僕らは屋上を後にした。
次の日から僕たちは毎日の様に出合い笑い合いそして…
バスルームのドアが空いた音が聞こえる。
リュックに携帯、財布を入れバスルームへ向かう。
玄関のドアを開ける僕たちは声もかけずに走り出す。
手を繋ぎ二人で二人だけの逃避行が始まったのだった。
終電に間に合い急いで列車に乗る。
何処へつくのかも知らずに急いで乗ったからだ。
繋いでいた手はもう離れていて僕ら二人を乗せた列車はあてのない旅を続けるのだった。
終点へたどり着いた列車を降りどこか泊まれるホテルを探すのだった。
ホテルの部屋を手に入れ部屋ベットに腰を掛けると
「ねぇ皐君。」とベットが静かに沈み隣から声が聞こえる。
「何だ?」
「私と逃げて本当に良かったの?」
「良いんだ僕に後悔なんてないしそれに僕が生きる理由は彼方がいてくれているからだからな。」
「そんな恥ずかしいことさらっと言わないでよ」と笑いながら
彼方は僕の目を見る。
「ごめん皐君。」
「は?」
「私が君に迷惑をかけてしまって許してくれるとは思わないけど、ごめんなさい皐君。」
「彼方お前前僕に行ってくれたよな。」
「こういうときはありがとうそう言ってくれたほうが嬉しいと。」
「僕もそっちのほうが嬉しい。」
「でも…それとこれとは状況が違うし…」
「いいから。」
「えっと…ありがとう皐君。」
「どういたしまして。」まるであの日みたいだ。
「ふふ」彼方は笑みをこぼす。
「あの日みたいね。」
「そうだな。」と相槌を返す。
そして…僕は彼方を抱きしめた。
彼方は驚いて「何をするの皐君!?」声とは裏腹にこの腕を彼女は振りほどこうとしない。
「辛かったのか?」優しく声をかけながら頭を撫でる。
「違う。」涙声になりながら彼女は否定の言葉を口にする。
「苦しかったのか?」
「悲しかったのか?」
「寂しかったのか?」
「うん…うん…」泣きながら相槌を返す彼方。
僕は優しく頭を撫でる。
「大丈夫だ。ずっと二人で二人だけで逃げよう。」
私は皐君の心臓の鼓動を感じながら瞼を閉じていきそして…
「眠ったのか?」返事は無い。
僕は彼方をベットへ倒し僕はもう一つのベットで寝ることにするのだった。
次の日僕は彼方を起こしこれからの目的を告げた。
「なるべく田舎の方へ逃げよう。テレビを見ても僕たちらしいことは何も報道されてない。でも警察には全て知られているのかもしれない。だから警察か少ない田舎の方へ逃げよう。」
「分かった。」彼方はそう言い残しバスルームへ向かっていった。
ホテルを後にして僕たちは駅へ向かう。
「ねぇ聞きたいことがあるんだけど。」
「なんだ?」
「その…お金ってどうしてるの?」
「僕がバイトして稼いであった金だ。」彼方は驚いた顔をして
「貴方にとって大切なものでしょ!私何かの為に使わなくてもいいのに。」
「彼方より大切なものなんかない。」そう言い放つと彼方は、黙ってしまった。
「おい、顔が赤いぞ熱か?」昨日雨に打たれていたから熱があるんじゃないかと思い彼方に近づくと、
「うるさいばかっ!」何故か怒られた何なのだろうか?
この金は親から逃げるために稼いだ金だが彼方ためなら惜しくない。あと残りは40から50万てとこか何処まで僕たちは逃げれるのだろうかと考えいたら、隣からぐう〜と気の抜けた音がなる。
「腹減ったのか彼方。」彼方は顔を真っ赤にしながら
「お腹すいた…」そう言葉を漏らすのだった。
近くにあったスーパーでお弁当を買った後ホームセンターを眺めていた。
「何か欲しい物あるの?」彼方がそう尋ねてくる。
「いや、ちょっとな」と彼方をあしらいそして僕はお目当ての物を見つける。
「あったこれだ。」
「これは?」彼方が僕の後ろから僕のお目当ての物をみるそれは…
「これナイフ?」
「そうだサバイバルナイフだ。」
「どうしてナイフなんか?」
「これから田舎で暮らすかもしれないそのとき必要になるかもしれないからだな。」
「ふ〜ん、ねぇ2本買わない?」
「別にいいけどなんでだ?」
「私も持ってたら二人で同じ作業ができるじゃない。」
「確かに別に1本だけじゃないといけない理由はないしな。」
そして僕はナイフを2本買い彼方に手渡す。
「おお〜これがナイフ。」感嘆の声を漏らす彼方。
「危ないから振り回すなよ。」
「分かってる分かってる。」どうにも不安だがまぁいいか。
「とにかく食事にしよう。」スーパーで買った弁当を手にしベンチで二人で食べ駅へ向かうのだった。
列車ど彼方と会話をする。
「田舎ってどっちの方角?」
「南だな。」
「南かぁ〜私海が見たい。」
「見たことないのか?」
「うん、一回もないからね家でお出かけとかね。」彼方の表情が少し暗くなった。思い出してしまったのだろう。あのことを。
「僕も海を見たことはないな。テレビや映像では見たことがあるが生では一回も見たことがないな。」
「二人で見に行こうよ。」
「そうだな。見に行こうか。」そう僕は相槌を返すのだった。
列車が目的地につく。
「ここで降りるぞ。」
「うん。」彼方の返事を聞き列車を降りる。
列車を降りた瞬間嗅いだことのない匂い雰囲気が肌につく。
「ねぇこれって…」
「あぁこれは」
《潮の匂いだ。》
そして僕らはその匂いに導かれるように海へ向かった。
「広い…そしてキレイ…」彼方が感嘆の声を漏らす。
「そうだな。とてもキレイだ。」
海は見渡す限り水でそして太陽が反射してキラキラと水面が輝いているのだった。
「ねぇ泳ごうよ。」
「何いってんだお前。」呆れたような声を出す。
「だってせっかくの海なんだよ。」
「それは…そうだけどさ。」
「じゃあ足だけならどう?」
「それならいいかな。」
そして僕らは靴を脱ぎ裸足で海の水に足をつけるのだった。
「冷たくて気持ちいいね。」
「そうだな。」
海の水はひんやりとしていてこの暑い季節にピッタリなものだった。
「みんなが海へ行く理由がわかるね。」
「こんなに涼しいならそりゃあ行くよな。」と彼方と笑い合う。
「そりゃ!」パシャという音が響く。
「おい、なにすんだ!」僕の服はビショ濡れだ。
「良くもやったな、おりゃ!」仕返しとばかりに彼方に水を掛ける。
「ぺっぺっ、しょっぱい」彼方の顔はびしょ濡れだやり返したと思うと気分がいい。
「このやろー!」彼方はまた僕に水を掛ける。
「やったな!」僕は彼方に水を掛ける。
こうなったら誰も止めることはできない。
そうして僕たち結局全身が濡れてしまうのだった。
近くの銭湯で身体を洗い服を着替え彼方が出てくるのをまつ。
銭湯の待合室でテレビを見ているとそこに彼方がいた。
厳密には、彼方は親を殺した殺人犯であるとテレビで報道されていた。
「ごめんまった?」
彼方の声が聞こえる。その声が聞こえた瞬間僕は彼方の手を取り
外へ逃げるのだった。
「どうしたの?皐君?」
「彼方のことがテレビで報道されていた。」
「えっ?」信じられないといった様子で僕の顔を見ていた。
ついにバレてしまったか。銭湯をでて彼方とあるきながら必死に考えるもっと遠くに逃げたほうがいいんじゃないかと。
考え事をしていると彼方が話しかけてくる。
「ここまででいい。」
「何を言っているんだ彼方。」
「これ以上は本当に君に迷惑がかかってしまう。」
「今更だろそんなの。」
「でも私は君に…皐君が取り返しのつかないことになるかもしれないから。」
「いいんだ気にするな彼方。」
「でも…」
「いいから今日は疲れたホテルに泊まろう。」
「うん…」
そうして僕らはホテルを探し始めるのだった。
「ねぇ皐君。」
「なんだ?」
「抱きしめてくれないかな?」
「え?ハグってことか?」
「そうだけど、だめ…かな?。」
「いやっ…いいぞ。」
そうして僕は彼方を抱きしめる。
彼方の体温を感じる。
「なぁ彼方。」
「なに?」
「いなくならないでくれ僕の前から。」
「いなくなるわけ無いじゃない。」
そうして僕は段々落ちていく意識に身を任せそして…
「寝たのかな?」私はそうつぶやく。
「ごめんね皐君。私嘘をついちゃったよ。」
「最低て自分勝手な嘘。」
彼の右胸に手を当てる。彼が生きてるってそう感じる。
そして…私は…「さよなら皐君。」そう言い残し部屋から出た。
「はっ」ふと目が覚める。寝てしまっていたのか僕は。
周りを見る彼方は?どこへ行った?ここにはいないそう考えると身体が勝手に動き出した。
大声で叫びながら
「彼方!彼方!!どこだ!彼方!!!」
ほんのうっすら朝日が見える景色を見ながら僕は走る。
そうして…
そこに彼方はいた。
塩の匂いがする。肌で感じることができる。
そうだ…ここは…「海か…」そうポツリと言葉をつぶやいた。
「彼方。」
私は彼方に声をかける。
彼方は驚いた顔して僕の顔を見る。
「えっ?どうして?ここに?」
「気づいたらここにいたそしたら…彼方がいた。それだけだ。」
「私も気づいたらここにいてそして…」彼方は立ち上がり僕の目を見る。
そして…彼方は…
彼方はいきなりナイフを取り出し自分の首に当てた。
「なっ。」そんな間抜けな声が出た。
「動かないで来たら私はこのナイフを自分の首に刺す。」
「どうして…彼方。」無意識に足が一歩前へ出る。
「とまって。」彼方は冷たく言い放つ。
「死ぬのは私一人でいい。」
「君を巻き込みたくない。」
「どうして急にそんなことを言うんだ!」
「ずっと二人で逃げよう。何もかもから。二人で一緒に…」
彼方は僕の目を瞬きもせず少しもそらさず見てくる。
「それはシアワセな夢物語そんなこともう不可能なの。分かってるでしょう君も。」
彼方は泣きながら
「私だって君とずっとこの旅を続けたいずっと…永遠に…」
「でもこの旅は終わり二人だけの逃避行は終わりなんだよ皐君。」
「このナイフを私に刺せばこの旅は終わる。」
「一方的な別れでごめんね皐君。」
「じゃあ、さよなら」
そう言って彼方はナイフを自分の首に刺そうとした。
その手を僕は止めた。
「ねぇどうして皐君?」
「どうしてこの手を止めるの?」
「彼方お前はさっきこう言ったよな。」
「このナイフを刺せばこの旅は終わりってな。」
「このナイフは彼方君に僕が刺そう。」
そう言って僕は後ろポケットからナイフを取り出した。
「このナイフを僕に刺してくれ。」
「二人でこの旅を終わらそう。彼方。」
彼方は泣きながらそのナイフを手にする。
「分かったよ皐君。」
「きっと止めても君は聞かないんだろうね。」
その言葉に僕は無言で頷く。
「それにあっちで会えるさ彼方。」
「あっちあの世ってこと?」
「そうだ彼方あの世で会おう。」
「またな彼方。」
「さよなら皐君。」
そう言い合って僕は花を手向けるように、
彼方は抱き留めるようにお互いにナイフを心臓に突き刺した。
ナイフはお互いの左胸を突き刺した。
そして僕たちは微笑みながら手を繋ぎ
そして…僕は…意識を失った。
「ぁ れ?」意識が 目覚める
彼方は何処だ?
周りを見る。僕の耳に響くのは彼方の声ではなくピッ ピッと
周期的なリズムを奏でる機会の音だった。
次の日僕はあの後のことを知った。
彼方は死んでいたらしい。
そのことを知った瞬間涙が溢れてとまらなかった。
医師が詳しい話をしてくる。
何故僕が生きていたのかそれは…
僕の心臓は右胸にあったからだ。
そのことを聞いて思い出す。
彼方を抱きしめたときそして…ナイフが刺さっていた位置そして…
あの言葉…「さよなら皐君。」
あの言葉は僕とあの世で合う気が無かったから、そう言ったのか。
そう理解すると涙が溢れて溢れて溢れて溢れて溢れてとまらなかった。
僕は病院の屋上にいる。
「彼方君のいない世界に意味など無い。」
手すりに手を掛けながらそう言って前へ進む、その時だった。
爽やかな風が吹く。僕は足を止める。
心に空いたあなを透けていくかのように風は吹き続ける。
「彼方、何時までも泣いていちゃ行けないよな。」
そう言って僕は前へ進むことに決めた。
彼方がいるから。怖くは無い。
さあ前へ進もう。
僕の、僕たちの旅はこれからなのだから。