表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

平和

作者: ゆきどけ

 寒空の下、私の吐く溜め息はとても白く、空もそれに呼応するように雪を降らしている。

 大学からの帰り道、交差点で若者達が叫んでいた。

「宇宙人に核をぶちこめ! 地球が支配される前に!」

 あの人達が騒いでいる理由は、月にあった。月面上に異星人の宇宙船が停まって、それから半年、だんまりを決め込んでいる。

 私は思う。異星人が強大な力を持っているなら、地球を統治してほしい。世界には、人間には、争い事が多すぎる。誰かが押さえつけるべきなんだ、と。

 幼少期、強盗に殺された両親を思い出す。

 父と母は悪い事なんて一つもしていないような人物だった。

 なぜ、と今でも考える。悪い事をしようとしているやつなんて消えて無くなればいい。それが私の結論だった。

「面白い考えだね」

 突然、後ろから声がした。振り向くと、中学生くらいの少年が立っている。周囲にいた人は誰もいなくなっていた。

「急に何なの? あなた誰?」

「ああ、そうか。この体は親のいない子供のものを借りている。私は月から観察にきたものだ」

「そんなの信じるわけないでしょ。いい加減にして」

 無視して、歩き出そうとすると。

「君の両親は何も悪いことはしていない。問題はナイフを止めるものがいなかったこと」

 止まって、再び少年の方を向く。

「思っていることが読めるの?」

「良い思考の巡らせ方だ。我々がこれから起こりうる全てのナイフをへし折る。星の変革だ」

「本当に変えられるの?」

「私と地球を変えよう。君は選ばれた」

 異星人が手を差し伸べてきた。

 私は少しためらった後、その手を掴んだ。


 大学の裏手には小さな山がある。その木々の中に小型の宇宙船は隠してあった。

「私は何をすればいいの?」

 ついていきながら疑問をぶつける。

「我々の考えは君と一緒だよ。地球を平和にしたい。君には人類と我々のメッセンジャーをやってもらいたい」

「それで、あなた達には地球を平和にして何のメリットがあるの?」

「これは極秘事項なのだが、君にだけ話す。どうやら地球人の希望や安心感が我々のエネルギーとなることが判明したのだ」

「私達の幸福を餌にするってわけね」

「その通り。だが、お互いに利益がある。さあ、乗ってくれ」

 船に乗り込んだ私は驚きを隠せなかった。

「私の部屋だ」

「そう。君の家をスキャンして、全て同一にしてある。協力してもらうのだから歓迎しなければ」

「嬉しい気もするけど、やっぱり気持ち悪い」

「人間の多彩な感情は面白い。いち早く出発しよう」

 そうして、船は飛ぶ。平和を望む私を乗せて。


 宇宙を漂っている。船の機能なのか、無重力ではない。

 なぜか、とてもすっきりとした気分だ。

「星の重力って色んなものを縛っているのね」

「君は詩人に向いているのではないか?」

「あなた達にも詩って概念があるんだ」

「我々は言葉を大事にしている。言葉は生命の感情を揺さぶる。過去と未来を作る素晴らしいものだ」

「そう? 言葉なんてあっても人は、過去から学ばないし、未来にも生かせない」

「そんなことはない。君の言葉を聞きつけて我々は来たのだから」

 異星人がヘルメットのようなものを差し出してきた。

「これは?」

「人間の思考解析がまだ完全ではないのだ。よかったら、君で調整させてほしい」

「地球とあなた達のためね」

「君も含まれる」

「わかった。どのくらいつけていればいいの?」

「解析は地球時間の24時間で終了。同時に地球も収められている」

 私はほんの少しだけ頷いて、目を瞑った。


 目を覚ますと、既に地球に戻ってきたようだった。

「到着した。さあ、降りよう」

 異星人の声が少し変だ。何かを我慢しているみたい。

 船のハッチが開く。そこにはもう地面以外何も無かった。見渡す限り、荒野と化している。私は瞬時に理解してしまった。

 悪夢を覚まそうと、異星人に殴りかかった。だが、拳が届く前に、見えない力に吹き飛ばされ、痛みを感じる。これは夢ではない。

「その通りだ。夢ではない。地球上の生命体は君以外、もういない」

 言葉が出ない。

「言葉にしなくてもいい。君の考えが読める。動揺、絶望、悲しみ、怒り、逃避。まさにデザートにふさわしい」

 デザート?

「君に一つ嘘をついていた。我々が食すのは人間の絶望だ。これだけの想いを集めれば、しばらく食事には困らない」

 どうして?

「ああ、君の体も少し改造させてもらったよ。老いず死なない」

「これのどこが平和なの!」

「やっと出た、激怒の声だ。争いは二つ以上で起こる。だから、生き物を一つにし、それを観察者とする」

「私も殺せばいい!」

「それはできない。君には詩を考えてもらわねば。この平和な星に聴くものは誰もいないがね」

 笑っている。異星人が口を下弦の月のように曲げて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ