第5小節「雨降る先に」
ファデルを乗せた車は雨の中を走っていた。後30分もすればファデルは檻の中にいるだろう。車の前をカイリ乗るバイクが先導し、後ろを似たような車が走ることで警備されている。この集団の様子を陰から伺っている者がいた。ファデルと別れた後、ロボット達の警備を掻い潜ったソラである。
ソラがこうしてここにいるのはファデルの作戦通りとなっている。本来ならファデルが城より脱出してソラと合流する予定だったがファデルが捕まった為にファデルを奪還するという手間が増えた。
(ファデル君は恐らく真ん中の車だろうな)
ソラはそこらにあったバイクを拝借し、車の後を追いかけだす。発煙筒をカイリの前まで投げ込み煙が吹き出す。
「こちらカイリ、緊急事態発生。応援をお願いします」
カイリは冷静に報告し、バイクを停めた。車が停まった事でファデルはソラが助けに来たことを察し、爪で指に傷口作り自身の手を拘束していた器具に血のついた指を伸ばす。拘束具に血がついて壊れる。
「よし」
素手にも関わらず車の天井をおもいっきり殴り突き破る。ソラはそれを確認して、マルチミサイルランチャーを取り出しファデルがいる車に狙いをつけミサイルを4発発射した。
「なっ!?」
驚いたのはカイリ、仲間が抜け出したとはいえまだファデルは車から離れていないのにミサイルを撃ち込んだのだ。だがそれを深く考える余裕等ないミサイルが直撃する前にバイクを加速させて逃れる。
「うおおりゃ!!」
爆発の中を抜け出したバイクが減速したのを狙ったようなタイミングでファデルが飛び出しカイリを殴り飛ばした。乗っていたバイクは転倒する前にファデルが支える。
「待て!一体どこに向かう気なんだ!?」
「それを答えると思うか?」
「君の相方が今やった事はリヴァイ殿に掛け合って無かったことにするだからこれ以上は!!」
「正直だねぇ、だがそうなるのを良しとしたら俺達はとっくに大人しく投降しているよ」
「何故だ!何故なんだ!?」
「言ったろ?リヴァイはこの国を蝕む害虫さ。いい加減それに気づかないと痛い目みるぜ」
そう吐き捨て、ファデルはバイクで走り出す、ソラもそれに続く。
ファデルとソラの逃走を飛行型ロボットが上空より捉え見失う事なく追跡してきていた
「全くしつこい連中だな」
「ソラさんここら辺で」
「ああ、分かってる。また捕まるなよ?」
「それは少し厳しいかな……」
ソラは右に曲がりファデルは真っ直ぐに進む。
建物がまばらになりやがて高速道路に入った。
「またか……」
後方を確認できるモニターより今日3度目のヘビ型が追走してきているのを確認する。ヘビ型は口を開き拡散するビームを放ってくる。
「よっ!」
ファデルは巧みにバイクを操作してビームをかわしていく。そしてヘビ型の追跡から逃げに逃げてファデルはパーチェ王国とロゼリア国を結ぶ国境の一つである橋にたどり着いた。
目の前にはロボットのバリケードが築かれ、中央にはカイリが待ち構えていた。
「なんだよ、俺より速くここに来てるじゃねえか」
「もう逃げ場はないぞ、ここから先のロゼリア国に行かせるわけにはいかない!」
「良いぜ、正々堂々来いよ。俺が勝ったらここを通してもらうからな。せいぜいそうならないように全力で来ることだな」
ファデルは捕まる前にカイリと戦うときに使った剣と全く同じ剣を取り出した。
「どこからそれを!?」
「ふん、予備ってのは取っておくもんだろ」
それ以上何も言う気がなかったのかファデルは剣を持ったままカイリに向かって走り出す。
カイリは剣に雷を纏わせて迎え撃つ。刃と刃がぶつかる。カイリが突き主体の連撃に対してファデルはカイリの攻撃の隙を狙ったカウンター戦法。やがてカイリはファデルに押され始めていた、ファデルはフェイントを交えて攻撃しカイリはそれに対応しきれない。しかしカイリもファデルの攻撃の隙を狙って突きを繰り出す。ファデルは剣先を踏み台に距離を取る。ロボットが使っていたのとほぼ同じビームガンを取り出しカイリに向けてビームを放った。
「はっ!?」
カイリは初めの一発を剣で防いで後の数発を避けながらファデルに近づいていく。
「これなら!」
カイリはある程度の距離で止まり突きの構えをとる。雷を纏った剣は今にもファデルを貫きそうな程だ。
「はあっ!!」
一瞬で距離は縮まりカイリの突きが放たれる。ファデルはその一撃を受け止めきれず、剣は彼の腹にそこが鞘かのように突き刺さった。
「……」
「はあ、はあ……」
「人を刺すのは初めてか?」
「っ!!」
「俺はあるな。もう後何回も味わわなきゃいけないこれを、真っ黒に腐らせていく誰かを、拭いきれないごちゃ混ぜの液体を」
カイリは動けない。
「抜けよ?抜いて斬ってみろよ。それも立派な騎士道だ」
「そんなはずは!……ない……」
「まあ良いさ」
バキッとファデルはカイリの剣を折り後退していく。
「あーあ、嫌なもんだよ」
意識が朦朧としているのか足取りがおぼつかない。どんどん後退していき橋の柵に寄りかかる。そこから先は川、この雨の中落ちてしまえば助かる可能性はかなり低い。
「まっ、待ってくれ。頼む。君は、君は!」
「またな」
ファデルは身を任せ、柵を越えて落ちていく。カイリは動けない。生まれて初めて誰かを殺す感覚、その恐怖に固まって動けないでいた。
実際のところファデルはなんの考えもなく川に落ちていったのではない。下にはボートに乗ったソラが待っておりファデルを川に落とさず回収した。
「気分はどうだ?」
「最悪ですよ、しばらく寝ていたいです」
「まあしばらくはな。君も無茶をするもんだ」
「これはまだ無茶苦茶って感じですよ、ましですらない」
「君は頑張ったよ、十分すぎるくらいには」
こうして今朝よりパーチェ王国を騒がせた不法入国事件は当の二人の逃走を許し、結果的に行方不明という形で処理された。
リヴァイは静かに怒りながらロボット達に二人の行方を捜索に向かわせる。
カイリは帰路でぐるぐる巡る思考に頭がいたくなる気持ちを抑える。
ファデルは腹の中に残った剣を消化しながらこれからの事を考える。
それぞれがそれぞれの思いを生み出す中今もまだ影に潜み嘲笑する者は次なる手を撃とうと画策を始める。