第4小節「謁見と内情」
不法入国者として捕まったファデルは取り敢えずの処置としてパーチェ城の牢屋に入れられた。服は囚人用のものとなり、武器は当然ながら回収されている。
パーチェ城謁見の間、玉座にこの国の王であるが座りその後ろには銀髪のソラにも並ぶほどの大男が控える。その謁見の間に入ってきたのはカイリ、機械で両手を縛られたファデル。ファデルがなんとかカイリを説き伏せ作った場だ。
「うむ、その者が此度不法入国をしたという」
「ファデル・フラミクスです。今回はこのような場を設けていただいた事大変感謝いたします。本来ならばこのような形での謁見は望んでいませんでしたが今は国王様と話せるだけでも十分です」
「思ってもいない事を……」
そうぼやくのはリヴァイである。
「それで私が気になるのはそなたが正当な手続きをしたにも関わらず不法入国者として扱われたと主張している事だ。それは真なのか?」
「はい。不法入国者となりロボット達に襲われることとなりこのような結果になりました」
そしてファデルはこの国に来てから森のロボットに会い何故不法入国者となったのか、カイリにも話したような事を国王に話した。
「なるほど。カイリの話と総合すれば確かにそなた達の視点からすれば嵌められたのだろう。それでその機械兵に読み込ませた端末というのは?」
「こちらに」
リヴァイが国王に端末を見せてそれを機械に読み込ませる。映像が現れ、膨大な量の文章が映された。
「確かにこれはこの国の法典の一部だな。ファデルよ、これは誰に渡されたのだ?」
「この国の者だとしか、送られてきたので直接会ったこともありません」
「これをどうやってそなたの元に届けられたのだ?」
「この国にはそういう機械があるのではないのですか?」
「あるにはあるがよほどの事がない限り使わない物だ。リヴァイよそれをここ最近使用したか?」
「私はあの部屋にはあまり近づかないので分かりかねます、確認に向かわせます」
しかしリヴァイは特に動かない。
「……、ファデルよ次に気になるのはそなたが宙から来たと言った事。これは一体何を意味しているのだ?」
「言葉の通りです。私は鬼神会という組織に所属している人間です。鬼神会は宇宙の遥か遠くに本部を起き星の平和を見守る組織、つまり宇宙から来たという事になります」
「星の平和を見守る……、つまりこの国に来たのは」
「大変申し上げにくいですが、この星の時間で1ヶ月前に我々より先にこの国を調査するために派遣された二名が消息不明となりました。その二名がこの国の調査をしようとした理由はこの国が半年間で防衛戦力が急激に上昇しているからです。私も実感しました、確かにこの星の文明から逸脱してはいない技術とは言え明らかに過剰だと判断されてしまいました。何故このような状況になっているのかご説明していただきたいです」
「うむ……」
「国王様お待ちください。この者の言葉を信用してはいけません。例え彼が宇宙より来た存在だとして、星を見守る等という組織が本当にあるとは思えません。彼がその組織に属しているという話も全てにおいて信用するのはあまりに早計だと思います」
「そうか……。だが現に今の態勢に疑念を持つ者も少なくないだろう。この国の抱える外交上の問題を話しても良いのではないか?」
「よろしいでしょう、国王様がそれほどまでに仰るのであればこの者にお話致します。それで満足なさいますか?」
「ああ」
国王は頷き、リヴァイがポケットより折り畳まれた世界地図を広げる。
「この国は山脈に囲われている、かろうじて山脈のない東側にはロゼリア国がある。山脈の向こう側にも国はあるが物理的な壁の存在は大きいものだ。どれだけ空に手を伸ばしてもこの国はどこかから施しを受けなければならない」
「なんとも卑屈な考えですね」
ファデルの言葉に反応し、リヴァイはファデルを蹴りつける。
「口を慎め。この話を聞けるのも国王様の寛大な心あってこそ」
「リヴァイ……」
「失礼しました。話を続けましょう、周辺国と関わりを持ってもやはり壁の存在は大きい。そして1年前唯一壁を隔てていないロゼリア国がこの国と戦争を行おうと準備を密かにしているという情報が入ってきた。壁に囲われたこの国が叩かれれば周辺国に助けを求めたとしても後手に回る。そうならないよう守るための力を持つのはそんなにおかしいことか?星を見守る者よ」
「そのロゼリア国がこの国を攻めようとしている情報が入る前、ロゼリアとはどのような関係で?」
「比較的友好であった」
国王が答え、ファデルは少し考える。
「友好的な関係を築いていたはずなのに疑うのですか?」
「それは……」
「信頼できる情報です」
「その情報が信頼できると、本当だと言える証拠はあるんですか?」
「おっと、ここから先はお話できません」
「なるほど、無いんですね。無いのに信用したんですね」
「貴様いい加減に!!」
「リヴァイ!それ以上やるならばそなたに対しても罰を与えるぞ」
リヴァイは殴りそうな腕をおろす。
「この話、一体誰が吹き込んだんです?」
国王、カイリの視線がある1人に向けられる。
「私?私を疑うというのですか?こんなどこから来たかも分からない男の話を国王様はあろうことか信用なさるのですか?」
「リヴァイよ落ち着け、お主を疑う訳ではない。しかしやはり……」
「分かりました。この者は一旦刑務所にて『保護』致します。はっきりとした事が分かるまで、それならあなたも文句ないでしょう?」
「文句ないでしょうだって?国王様、はっきりと言いましょうこの国を蝕む害虫がいます、それもあなたの目の前に」
「ふん、馬鹿馬鹿しい。なんなら死罪を言い渡すことだってできるんだぞ?」
「一国に使える高官が罪の重さをちらつかせて脅すなど論外!この者がその情報を広めている元凶です」
「何を根拠にそんなことを?第一これは私にとって得のない話、どれほどこの国の防衛を固くしてなんになるというんだ?」
「あなたはこの国とロゼリアが争うように仕向けている。この国かロゼリアか、どちらかがつぶれるかあるいは共倒れでもいい。それを狙いこの地域を自分の物とする気でしょう」
「それこそ証拠もない戯れ言に過ぎない。これ以上何か喋るなら本当に貴様に対する対応はかわるぞ?」
「私はそれでも構いませんよ。どうせ道の先は見えてますから」
「もうよい!カイリ、ファデルを刑務所まで連行しろ。調査は明日より早急に開始しろ」
「はっ!」
しかしファデルは大人しく刑務所に入る気はなかった。雨は未だ止まず。車に乗せられたファデルは静かにそれを待つ。