終曲「銀の夢・その行く末」
何を間違った?何を見逃した?
そう考えながらシータ・クトンは群衆の中でファデル達を睨んでいた。
シータは奇跡的に生き残ったのではない。戦艦が変化をし始めた時点であらかじめ脱出をしていた。
戦艦はその後生き物のように動いていただけなのだ。
彼女の手には銃が握られている。
周りからは気づかれない、そうしてファデル達に近づいて行くのだ。
「やはり国の人達はあらかじめ避難させておいて正解でしたね」
「ああ、あの洞窟がそのままシェルター代わりに使えるとはな」
国民達は全員とまではいかなかったが多くの人数をあの洞窟に避難させることが出来た。
建物などの被害は出てしまったが鬼神会がある程度の補助はしてくれるだろうとファデルは見ている。
「あ、師匠!!」
カイリは彼の師匠である老人を見つけて手を挙げる。
「師匠、来ていたんですか」
「まあの、全部終わったようじゃな」
「はい、再びご指導してくださってありがとうございました!」
「礼はいらん、その様子じゃとお前さん自身が答えを導いたようじゃからの」
「ただの突進なんですけどね……」
「剣だけにこだわりすぎないのは重要じゃ、当然剣の腕も良くなければ上手くいくわけもない。それが上手くいったというだけの話じゃ」
「……師匠、この剣お返しいたします」
カイリは剣を老人に差し出す。
この剣はカイリが戦地に赴く前、老人が預けたものだ。
「そうは言ってもの、理由を聞こうか」
「私がこの剣を振るうのはまだまだ荷が重いのです」
「相変わらずお前さんは正直じゃの、だが私もその剣を握ることはもうない、ならば剣が一番生きれる者がそれを持つべきなんじゃ」
「しかし……」
「安心せい、知り合いが気まぐれで作ってくれたものじゃ、そんな上等なもんではない」
「そ、そうだったんですか……。ですが師匠から受け継いだ剣として大事に扱っていきます!」
「おいおいファデル君、俺は目利きじゃないがあの剣、かなりの業物じゃないか?」
ソラがファデルに小声で尋ねる。
「ええ、それにカイリさんがその内魂を込めれば化けますよ、まあそんなことに本人は気づいていないようですが……」
「まああれはあれで試練の一環てやつなんだろうな……」
そんな彼らの様子を見ながら、シータは例の双子の後ろにいた。
双子は互いの言葉を交わすのに夢中で、周りの存在など気にしていない。
それはシータにとって好都合である。
銃を悟られないように双子の片割れに向けて……、
「やめておいた方がいいぞ、上手くいくわけもない」
背中に同じく銃を突き付けられたシータは硬直した。
「【銀騎士】様……?」
ありえない、彼がここに来ているわけが……。
「お前は失敗したのだ。それも二度、もうチャンスはない」
しかしその声は間違いなく彼であることを証明している。
群衆の中に1人だけ銀色の甲冑を身に纏った者がいれば異彩を放つであろう、何より群衆が彼を怪しむはずだ。
そうでないということは彼は今素顔を晒している。
シータは自身が崖っぷちに立たされていながらもその事実に何かの希望を見出していた。
「少しだけ話をしてやろう、お前が何を間違ったのか。どうせ死ぬが最期の教養として魂にでも刻むといい」
【銀騎士】は話し始める。
「まず一番は、お前が偶然にも特能の双子を撃破できたにもかかわらず、その後の対応がただ監禁するだけだったこと。特能の恐ろしさを理解しておきながら殺すわけでもなく、利用するでもなく、捕らえるだけに終わったのは間違いなく失敗だろう」
「二つ目は時間をかけすぎた事だろうな、軍拡はともかく、戦闘局の連中が来るまで火種を回収しないのはマヌケもいいところだ。物事にはタイミングがあり、成功するか失敗するか、それを見極めなければならないというのに、お前が取った待ちの行動は崩壊しか呼ばない」
「最後に、戦闘局とその他の連中との戦い、そこで負けた後に何も考えなかったこと」
「……それは、」
「俺のお膳立てだけで何とかなると思ったか?一度負けてる相手にただ強くなっただけで勝てる道理はない、事実、お前達と連中の実力には人体改造では埋められない差があったのだからな」
「こんな所か、結局策を考えているようで何も考えてないのがあだとなったな」
「タイミングでしたね、」
「ん?」
「それなら、今ですよ!」
シータは振り返り、【銀騎士】の顔に向けて銃を突きつけた、
はずだった、
「なっ、あ、あなたは!?」
「いつだったか、もうこの体では戦うことはできないと言われたことがあった」
【銀騎士】はなんと車椅子に座っていた、彼を押しているのは機械兵である。
「この姿ならそうだろうな」
シータの向けた銃は機械兵に向けられている。
「俺の素顔なんて知った所で、どうしようもない。連中ならともかくな」
その言葉はシータに届いたのか否か、【銀騎士】は既に引き金を引いていた。
シータは倒れ、繭に包まれていく。
その様子をいぶかしむ者は誰もいない、彼に興味を示すものはいないのだから。
「ん?」
老人は自分達を通り過ぎて行った機械兵を見たが、気のせいだと思ったのか、
「どうかしましたか師匠?」
「いや、なんでもない」
そう答えた。
「カイリ君、少しいいかい」
そこにファデルとソラが来る、あらかたの報告を本部にし終えたところだ。
「なんでしょうか?」
「カイリさん、鬼神会に来る気はありませんか?」
「え、私がですか?」
「今回の事件の活躍、それを持ってすればカイリ君にぜひうちに来て欲しいと思ってね。俺達のやってる事は分かるだろ?今回みたいに色んな世界で悪さを企んでいる連中と戦う」
「……申し訳ありませんが、お断りいたします」
「それはどうして?」
「今回の件、私はファデル殿が来るまでリヴァイに良いように操られているだけでした。そして戦いにおいてもルルフ殿の協力がなければフィンにもリヴァイにも勝つことが出来なかった……」
カイリはファデルに真っすぐな視線を向ける。
「だから、今はまだ私にはそんな力などありません、この国を守れるくらい強くなりたいのです!」
「……そうですか、分かりました」
二人はそれ以上追及する事もなく引き下がる。
「カイリさんがそう望むのならそれが一番いいでしょう、またうちに来たいと思った時にはご連絡ください」
それから一週間程して、ファデル達はこの世界から出発していった。
「あーあ、振られちゃったなファデル君」
「別にカイリさんが残りたいと言ってるのだから仕方ありませんよ。それよりもお二方は本当に僕達と一緒に帰ってよかったんですか?特能側から迎えをよこしてくれるようでしたけど」
宇宙船の中、ファデルは双子に聞く、
「あらラミア、彼は命の恩人なのよね?」
「ええレヒア、しばらくは彼に恩返しをしないとね」
「そんな大それたことしてないんですけどね……」
「はっははは、ファデル君、面白いのに好かれたじゃないか」
「もう、からかわないでくださいよソラさん」
宇宙船は音のない空間を進んでいく。




