第21小節「泥と太陽」
熱イ……、
俺ハ一体……。
おぼろげな視界、フィンはいつの間にか壁際にもたれ掛かるように気絶していたのだ。
ソウダ、アイツノ砂時計。
ソレガドウシタト言ッテ、ソレカラ……。
記憶をたどっていく。
砂時計が割れた瞬間、そこから大量の砂が溢れ……。
熱イ……、
コレハ、泥……?
視界が安定していき、フィンは部屋が一変したことをようやく理解する。
床に張られていた水は砂に吸われ泥になっている。
部屋のあちらこちらにある、水が出てくる場所は泥によって防がれている、排水溝も同じだ。
「これで熱が、貯まる。力は変化していくんだ」
「調子ニ、乗ルナ」
フィンは立ち上がりながら、肩にある大砲から砲撃を開始しようとする。
しかし、大砲からは泥によって勢いの失われた砲弾が床に落ちるだけだった。
「あいにくだが、あらかじめ塞がせてもらったぜ」
「ソレダケナラ!」
フィンは跳躍する。
(流石に水分が多くて粘りけがないか……!!)
フィンはなんと尻尾で壁を蹴って空を突っ切る。
(だがこの中を走りたくはないようだな)
ソラは大剣でフィンを待ち構える。
するとフィンの腕が肥大化して、肩にある大砲のようになる。
「くうぅっ、おりゃあ!」
大剣と変化した腕がぶつかる。
ソラは攻撃を砲弾と同じように、反らしながら受け流していく。
通りすぎたフィンに向かって、熱した泥水を大剣で弾き掛ける。
「コノ程度!!」
振り返りソラに向かって殴りかかろうとするが、ソラは距離を取っている。
足元は泥が集積して、まともに動けそうもない。
フィンは腰元に刺していた棒を取り出す、棒はみるみる伸びていき、先端が大きく膨れ上がる。
「折り畳み式のメイスか、いいねぇ、そう来なくっちゃなぁ!」
フィンまでの距離を一気に詰める、大剣を振る、下から振り上げたメイスと衝突し、競り合う。
「力比ベナラ負ケヌ!」
フィンが押し勝ち、ソラは宙を舞う。
「うぐっ、なるほどな。俺と同じく待ちの持久戦をするわけか、残念だがこっちは少しばかり急いでるんでね」
大剣を突き立て、
「畳みかけさせてもらうぜ!」
部屋が大きく揺れる、傾きフィンはその場にとどまっていられない。
「マタカ!? ダガ……」
ソラは大きく身体をひねってフィンを待ち構えている。
「何故オマエハ、立ッテイラレル!!」
「簡単な話、」
ソラは手招きをしながら言う。
「お前しか足元をすくわれていない」
フィンの足元に集積していた泥は気づかぬうちにフィンを動かしていた。
部屋は傾いておらず、フィンの足場だけが歪んでいる。
「マダダ!!」
フィンは足が安定しなくなる前に尻尾で床を蹴る。
肥大化した腕を突き出す。
「無駄だぜ」
筒の先が開いて砲弾を射出する。
距離、タイミング、間合い、ソラの姿勢、
ソラは大剣を思い切り振り、砲撃を弾いた。
「ダガ!!」
二撃目、渾身の攻撃を防御に使ったソラにその攻撃をかわせない事を確信させる。
「無駄だ、と言ったはずだ」
ソラは何と攻撃後、そのまま前に転がり込むようにフィンの二撃目をかわした。
フィンはそのまま泥の壁に突っ込んで捕らわれる。
「コレハ……!!」
「あくまでも俺達の目的は捕獲だからな」
フィンの後ろから大量の熱された泥が飛んでくる、フィンはそのまま気絶した。
「ふう、よいっしょっと!」
ソラはフィンを担ぎ上げて部屋を出る。
「これは少し、開発局の連中に相談してみないとな」
笑みを浮かべながら歩みを進める。
「間違いない、船が変化している……」
戦艦は前進しながらその様相を変えていく。
砲台、船体から生物の足の様なものが伸びて地面を蹴っていく。
新たな砲台はでたらめな方向に砲撃を放ちながら戦艦は歩みを進める。
「……こちらファデル、お二方、応答をお願いします」
『あらラミア、あの方からの通信よ』
『ええレヒア姉様、アイツからの通信ですわね』
「戦艦が変化しています、こちらはまだ少し時間がかかりそうなので、すみませんがあとちょっとだけ足止めをお願いできませんか」
『どうします、ラミア姉様?』
『ここは頼みを聞いてあげましょう、レヒア』
次の瞬間、空を覆っていた黒い雲が一斉に何かに吸い込まれるかのように一つに収束していく。
「これはいい、この天気、嫌いだからな」
音を奪った空間を作り出す、その空気すらも斬撃に変える。
カイリとルルフはそんなリヴァイの攻撃に手も足も出ないでいた。
攻撃をしようとするもリヴァイの溜めの段階における異常音がその邪魔をする。
しかしとていつまでも音のない斬撃をかわし続けるのは困難である。
(このままではフィンの時と同じだ、リヴァイの場合はフィンのようにはいかない!)
カイリは斬撃をかわしながらリヴァイに近づこうとする。
「無駄なあがきを」
近づくカイリに斬撃が四方八方より襲い掛かる。
「うぐっ!」
斬撃を受けながらそれでも何とかリヴァイの元にたどり着き、
カキン!
その攻撃はリヴァイの右腕のバックラーによって弾かれる。
「これで理解できただろう?私を、この船を止めることなどできぬ!」
カイリを押しやり、刺突を繰り出す、
「まだだ!まだ、諦めるわけにはいかない!!」
刺突を剣で弾いて後ろに引く。
「ふん、そんなくだらない意地、捨ててしまえばいいものを……」
何度目か、リヴァイは剣を掲げる。
誰もがその耳を塞ぎたくなるほどの音を鳴らしながら空気を取り込む。
しかしカイリはその音に耐え、構えを取る。
「ほう、だがこれで終わらせてやる!」
周囲の音が消え去る。
始めに飛び出したのはルルフだった。
身体を回転させながらリヴァイに迫っていく。
リヴァイはそのルルフに向けて斬撃を飛ばしていく。
ルルフは回転の方に集中しているのか斬撃の幾つかがかする。
そしてとうとう1つの斬撃がルルフの足元に直撃した。
ルルフは体勢を崩しながらも、これまでの回転の勢いで剣を投げる。
(2度もくらうバカなどいないぞ!)
リヴァイは斬撃で剣を弾き飛ばす。
「リヴァイー!!!!!」
無音の中、リヴァイは聞こえるはずのないカイリの声が、確かにそう言ったように聞こえた。
カイリは驚くほどの猛スピードでリヴァイに近づいてくる。
(なんだ!? 足運びですらないそんなただの移動、真っ向から叩き斬るまでだぞ!)
リヴァイは剣を振ろうとした、
しかしその前にカイリはリヴァイの懐にいた。
(なっ!? 速い!いや、これは……!!)
カイリは何と剣を振らない、否、振れない程にリヴァイに近づいていた。
足運びは通常、次の攻撃の動作に素早く移れるように相手と距離を取る技法。
だがカイリのそれはそんな目算などない、ただの体当たりである。
「!!」
肘がリヴァイの腹に当たる。
リヴァイは思わず翼を広げて上空に逃げた。
「ぷはぁ!! ここなら、はっ、いない!?」
雷の軌跡、リヴァイよりもはるかな高みに、
今日は曇りだったはずなのに、いつの間にか雲は消え、青空と眩い光を放つ太陽、
「『太陽落雷』!!」
その快晴に1つの落雷が轟いた。




