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第20小節「次なる段階へ」

 ソラ対フィンの戦いはフィンの優勢である。


 フィンは肩の大砲より、車輪のように回転する弾を放っていく。


 弾は水の上を走りながら、ソラを襲う。


 対するソラはこの攻撃をかわすばかりで、ほとんど攻撃できないでいた。


(くそっ、足元の水が常に入れ換わってて厄介だ!)


「ヤハリ、ラムノ、言ッタ通リ」

「何だと!?」


 ソラは弾を大剣で弾きながらフィンを攻撃する。

 しかし、フィンの脂肪が攻撃の威力を極限まで抑え、効果がない。


「オマエ、熱ノチカラ、使ウ。ソレヲ、封ジル、オマエ、役立タズ」

「言ってくれるじゃねえか!全部正解なのが余計にしゃくだぜ!」


 凪払い、やはり効果はない。


「攻撃スル、熱タマル、ナラバ……」


 フィンの腰の辺りから、肩のより少し小さいが、全く同じ砲台が突出する。


 砲台の穴から車輪が出てきて回転を始める。


(そういえばこいつイルカだったな……)


 フィンが飛び上がり、足元に張られている水に飛び込む様な姿を見て、ソラはそんなことを思った。




 状況は決して良いとは言えない、ファデルは戦艦の元に向かいながら次の手を考えていた。


(ソラさんも、カイリさんとルルフさんも、恐らくまだあそこで戦っている)


 戦艦の上空を回っていた炎の環は消えている、降っていた炎も防護壁によって完全に防がれた。


(渦の方はまだ健在だな、というよりあれは……)


 車が戦艦の近くまでやって来た、そして赤い渦の正体はファデルの予想通りであった。


「やっぱりだ、()()だ」


 赤潮、海に発生する大量のプランクトンが引き起こす現象である。


 ただし、ファデルが今見ているこの渦の流れにいるのはプランクトンではない。


 小さいながらも、目視できる程のサイズの赤い貝である。


(炎の環が消えた以上、相対する力の流れがなくなるのなら……)


 ファデルは車を発進させ、ゆっくりと走行する。


 戦艦は渦などまるで気にせずに、少しずつ動いていた。


(まだ進ませるわけにはいかない、止めなければ!!)


 ファデルは戦艦からある程度離れた位置で車を停める。


 車を降りて渦に近づいて、ある物を渦の中に投げ入れた。


「聴け!今から僕が君たちの隊長として指揮を取る!」


 渦の中に呼び掛ける、当然反応はないながらも、ファデルは槍を振り回し始めた。


 すると、渦の流れが変化していく。


 戦艦の四方より貝が渦の中心に集まり出す。


「溜めて溜めて……、解き放つ!」


 槍の穂先を天に向かって振り上げた。


 次の瞬間、中心に集まった貝達が一斉に飛び上がるように動いた。


 戦艦は船体の中心より少し前から打ち上がり、グラグラと不安定に揺れる。


「押し返せ!!」


 天から地へ、凪払う。

 貝達が戦艦をファデルの指揮通りに押し返していく。




 ソラはフィンの猛撃に防戦一方である。


 フィンは水を得た魚、否、水を得たイルカの様に足元の水の中を泳ぎ回る。


「くそっ!」


 肩の砲台は健在で、そこから放たれる砲撃、砲撃に合わせて接近して攻撃を繰り出す。


 ソラは大剣を振り回して牽制するか、砲撃を弾くだけで、近づいてくるフィンに反撃ができない。


「うわぁっ!な、なんだ!?」


 更にそこに追い討ちをかけるように部屋が傾き出した。


「くっ、何がどうなってるだ?」


 ソラは大剣を床に突き立てて、なんとか踏ん張る。


 フィンは傾いて水の貯まった場所にいる。


(全く、ああいうのは気楽で良いな……)


 しかし、ただそこにいるだけではない。

 フィンの腰にある車輪は回転を速めている。


(飛び出してくる気か!?)


 ソラの予想通り、フィンは水より勢いよく飛び出し、ソラに向かっていく。


(やるしかない!!)


 大剣を抜き、フィンの攻撃を受ける。


 ただ受けるだけではない、反らし、流し、擦るように。


 その次に後ろより砲撃が飛んでくる。


 この砲弾も同じように受け流していく。


 船の傾きが戻り、ソラは走る。


「ちょっと足りないがくらえ!」


 大剣を振るい、フィンは両腕で防ぐ。


「ウゴッ!! ア、熱イ!」


「摩擦熱さ!」


 ソラは押しきり、フィンは後ずさりする。


 フィンの腕はやけどの痕ができていた。

 それでもフィンのダメージはまだまだ少ない。


「ソレデ、次ハドウスル気ダ?」


「まあ色々と、試してみる価値はあるかもな」


 ソラは砂時計を取り出してニヤリと笑った。




 カイリとルルフは逃げたリヴァイを追い詰めていた。


「もう逃げられないぞリヴァイ!!」


「逃げるか、確かに私は状況把握から逃げていたのかもしれないな。この、私が勝てるという圧倒的優位の状況を」


「何を言っているの……?あなたがさっき受けたダメージは大きいわ」


「この傷は罰だ、痛みを力に変えるという意味ではないぞ?」


 リヴァイは翼を広げる。


「なんだ……?」


 カイリは怪訝な表情になる。


 リヴァイの翼は肩の突起のように、明らかにコウモリのそれから変化していた。


「この力は進化していく、しかと聴くがいい!」


 剣を天に向かって掲げる。


 ギュイイイイイイイイイイン!


 耳を引き裂くようなその音に、カイリとルルフは動けないでいる。


 ……


「◯◯◯、」


 ……、静寂ではない、全くの無音。

 その中でリヴァイは何か言葉を発する。


「◯◯◯◯◯◯◯◯」


 剣を振るう、振るい、振るい、振るう。


 カイリとルルフはわずかな空気の流れを感じた。


 鋭い、殺気にも似たその流れを二人はかわす。


 二人のいた場所の床は破壊されていく。


 その後に、空気を裂き、床を破壊する音が聞こえてくる。


(()()()()()のか!?)


 見えない上に音の無い斬撃、それこそがリヴァイの進化の力なのだ。


 リヴァイは次々と剣を振るっていく。

 その音の無い斬撃は二人に牙を向くのだ。




 貝達による船の押し戻しは、暫くして突如止まる。


「どうしたんだ……?」


 ファデルは手を止め、戦艦の全体を見つめる。


 少しの間観察を続けていると、その異変に気がついた。


「あれは……」


 船底に楕円形のラグビーボールのようなものが生成されている。


 船底だけではない、船全体に変化が起きている。


 その変化を貝達も感じたのか、その活動をより強くしていく。


「何かまずい……、ダメだ、戻るんだ!!」


 ファデルは槍を振るい、貝達を止めようとするも、何匹かは楕円形の物体にできた穴のようなものに飲み込まれ消えていく。


 貝達は次々に飲み込まれ、潰されていく。


 いつの間にか戦艦は再び前進を始めていたのだ。


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