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第18小節「穿ちぬき解き放たれ」

 ラムは声のした方を見る、確かにその方向は先程彼女がショットガンで撃ち抜いたはずの相手がいる方向だ。

 そこにはファデルと同じくらいの高さの機械があった。そしてその横にファデルがいたのだ。

「タレットにホログラムを被せた、予想通りだな」

「……いつから、いつからここが私の体内だと?」

 ラムは尋ねる。


 そう、ファデルのいるこの迷宮はまさにラムの体内だったのだ。

「確信したのは今だけど、まあ銃を破壊した時にダメージを気にせずにこちらを攻撃してきた所で。そこからパイプから出てくる銃弾を見て予想がつけれた」


「パイプを真空状態にして穴を空ける、パイプには空気が送りこめれるためその勢いを利用して銃弾を運ばせる。でもそれだけじゃ無尽蔵に銃弾を送り続ける事は無理だ、必ずどこかでパイプを真空状態に戻さないと勢いはなくなる」


「ダメージを考えないどころか致命傷をくらっても次の個体が現れる。これで完全に理解できた、どういう訳だか知らないが僕はお前を追ってドームに入ったらしいが、そのドームがお前の体内だった。つまり僕が追ったのはお前が体内から作り出したダミー、今僕が対峙しているお前も本体ではなくダミーだ。」


「迷宮の構造は体内だから自由自在に操ることが出来る、パイプの真空状態の維持も、ダミーも体内だからできる」


「突拍子もない物事ほど、脳では信じられないと拒絶するらしいけど。あなたはそうではないようね」

 ラムはショットガンの引き金を引いてファデルを狙う、ファデルはタレットを盾に銃弾を防ぐ。

「でもそれが分かった所でどうしようもないわよ?私の正体を知ったあなたはここから脱出すればどうにかなると考えているでしょう?」

「そしてお前はそんなことを許すはずがないと」

「よく分かっているじゃない?」


 周囲の壁が変形を始める、地面も揺れファデルはまともに立てないほどだ。

 だがラムは違う、足元が文字通り固定されているのか揺れの影響を受けない。

 壁が変形を終え、消失した。

 代わりにファデルの周囲を取り囲むように、ラムのダミーが数えきれないほどに増殖していた。


「「「「「私をどれだけ倒しても本体である私には何の影響もない、例えこのダミー全員が倒されたとしてもね」」」」」

 周囲にラムの声がこだまする。

 ファデルが視認できる限りでもラムは両手に銃を持っている。

 恐らくは全員が銃を持っているだろう。

(この言いようから同士討ちなんて気にしてないんだろうな)


 ファデルは爆弾と威力拡張機である円盤を取り出してセットする。

「ではお言葉に甘えて、たっぷり暴れさせてもらおうか」

 爆弾を起動した。


 次の瞬間、爆風がドーム全体にまで及ぶほどの大爆発が起きる。

 爆発によって周囲のダミーラム達は消し飛ばされていく。


 爆発が収まり、床に逆ドーム状に地面が抉られ、その中心にファデルはいた。

「S型とやらはこの爆発に耐えていたが、流石に自分がソレを間近で味わいたくはなかったもんだ……」

 幾ら体内とは言っても、その一部を抉られればラムにも相応のダメージがいくだろう。

 ファデルは上を見上げる。


「お前はこう予想していたはずだ、僕は入口に戻って出れば元の状態に戻れる、とね。だが僕もそう馬鹿じゃない、少なくとも出口の予想はついているさ」


 ファデルは強石鉄の槍を取り出して上空、正確にはドームの天井に向かって投げる。

 槍は上手く天井に刺さった。槍の柄にロープを結び付けていたファデルは槍が抜けない事を確認して、天井に向かっていく。


「に、にがすかぁ!!」

 ラムのダミーたちが地面より出現してくる、だがまだダメージから立ち直れていないのかダミーラム達の動きは遅い。


 ファデルは焦らず、されども素早くロープを手繰り寄せて天井に近づいて、対にたどり着いた。

 ラム達は銃を天井に向けている、スナイパーライフルだ。

(確実性を取ってきたな!だが……)

 ファデルはある物をあちらこちらに投げていく。

 そのある物は爆弾の様な殺傷力はないが、中にある金属同士が振動によってぶつかり、超音波を発しているのだ。


「これは……!! 位置が把握できない!」

 ダミーラム達はファデルの位置を把握できずに困惑するばかりだ。

 その隙にファデルは天井に潜水艦にあるような扉を発見する。


 扉を開けて中に飛び込むと、その先はパイプであり、ファデルはそのパイプの中を不思議な力で通過した。



 ラムの肩、ダミーとは少し違うが蓄音機のようにパイプが広がっており、左肩の入り口から小人サイズのファデルが吐き出された。

 ファデルは吐き出されると元のサイズに戻って地面に尻もちをつく。


 その次にファデルが効いたのは銃声音である。

 ファデルは腹部に痛みを感じて確認する。

 アーマーはいびつにへこんでおり、そこから血がじんわりと染み出してきた。


「こ、これは……」

 ファデルはすぐに腹部を手で押さえるが血は止まらない。

「ふふふ、あなたが戻って来るのを想定していないとでも思ったの?本当に馬鹿ね」

 本体であるラムは右手に拳銃を持っていた。

「これはS型の装甲を貫ける弾丸が込められている、S型の装甲に使った素材はある特定の金属と衝突させると、素材を構成している粒子がバラバラになって破壊される」

「はあ、はぁ……」

 ファデルのダメージは深刻なのか息が荒くなる。


 ファデルは拳銃を取り出しせめてもの反撃とばかりにラムの右手を撃ち抜く。

 ラムはファデルの行動を予期できなかったようでまともにくらって銃を落としてしまう。

「うぐっ!……悪あがきをっ!!」

 ラムは銃を左手で拾い上げてファデルを撃つ、ファデルはエネルギーシールドを展開してこれを防いだ。


「いい加減諦めて自分の敗因でも考えてなさい!」

 傷ついた右手を何とか使ってリロードを行う。

「はぁはぁ、……敗因か、そうだな、お前の敗因を考えるとしたら3つあるな」

「まだ私に勝つ自信なんてあるのね」

 リロードを終えてラムは再び引き金を引く。


「一つ目は、……僕を体内で倒せなかったことだ。ダミーを大量に利用して理解の出来ない内に殺してしまうのが一番だっただろうからな」

「でもあなたは体外に出てもそこで這いつくばって死を待つだけの存在よ!」

 シールドが次第に小さくなっていく。


「二つ目、僕をみすみす体外に排出してしまった事、さっき体内で仕留めきれないにしても脱出できないようにすることもできた。それをお前は優越感を感じるためかわざわざ本体の前に居させている」

「同じことじゃない!?」


「三つ目は、()()()()()をちゃんと排出しなかったことだ!」

 ファデルは手に巻き付けていたロープ、否、今はワイヤーのように細くなっているそれを力いっぱい引っ張る。


「何を!? うっ!? うぐぅわああぁあ!!!」

 糸の先はファデルが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がある。

 それを引き抜けば槍は元の大きさに戻り、ラムの左肩に突き刺さったのだ。


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