第17小節「迷宮にて交わされる」
ファデルは壁に身を潜めながら辺りの様子を窺う。
(さっきの銃撃、こちらの位置を正確に掴んでいた)
ゆっくりと、音を出さないように慎重に進んでいく。
(こう暗いと敵も銃撃をしてくるなら、こちらを確実に仕留めれる隙を狙ってくるはずだ。ならばそれを敢えて出せば……)
思考を巡らせている中、突如として頭に強い衝撃が連続して襲い掛かって来る。
「うぐっ!? な、ばかな!!」
ファデルは走り出して、頭上からの銃撃をかわしていく。
「くそっ!」
射線上と思わしき位置から、壁によって遮れる道に飛び込む。
(あ、危ない……。やはりフルアーマーできておいて正解だったな)
ファデルは機械兵の素材からアーマーやヘルメットを生成して、それを装備してきていた。
(だが今のでヘルメットは1個使い物にならなくなったな、それにしても……)
ファデルはゆっくりと壁から先程撃たれた先を見る。
だがやはり暗闇の中では何も見つけることが出来ない。
(今の銃撃、さっきの閃光は少なからずともこちらの位置を把握できないように投げた。なのにまたしてもこちらの位置を正確に把握して、なおかつ後頭部を狙ってきた!一体どうやって……)
そうして考えている間に、また銃撃がきた。
今度はファデルの左側からである。
今回は空気の微かな振動を、ヘルメットを脱いでいたため聞き取ることが出来たので、
ファデルはヘルメットを左に投げつつ、再び走り出す。
(まただ!何かしらの足運びか?)
ファデルはある程度走った後に、振り返って来た道を戻って行く。
(少しでも情報を得ねば……!!)
ファデルが引き返した先、撃ち抜かれて原型を留めていないヘルメット、
それを認識して直ぐにファデルが逃げた方向を見つめているラムがいた。
(見つけた!)
ファデルは銃を構えて、ラムに対してビームを発射していく、
光線によって照らされるラムの身体、他の2人同様に、ラムの肩には機械の花の様なものが咲いていた。
ラムは両手に持っていた銃で光線を防いでいく。
当然銃は爆ぜ、ラムに少なからずともダメージが及ぶ。
しかしラムは平然とした顔で次の銃を取り出してファデルに向けて撃つ。
「くそっ!」
ファデルは右側に避け、そのまま右側の通路を走っていく。
(今のは、今のは発信機と受信機!)
ファデルはラムの肩にあった機械の花を思い出しながらそう確信した。
(蝙蝠も、イルカも、超音波を発して障害物や周りの生物の位置を正確に知ることが出来る!あの機械の花から超音波を発して帰ってきた音波を受信する、暗闇でも暗視ゴーグルや光無しに正確にこちらの位置を聴くことが出来る!)
ファデルの前方より銃撃がきた、それを左手のアームからエネルギーシールドを生成して防いでいく。
(次の疑問はこれだ!さっきいた位置から回り込んできたにしては早すぎる!!)
銃撃を盾で防ぎながら、そのまま後ろに向かって跳躍していく。
盾の耐久値がどんどん削られているため、右手のアームからも盾を生成する。
(一体どうやって……、んなっ!?)
ファデルは後ろを向くと信じがたいものを見た。
なんとそこにはラムがいたのだ、ラムは銃をファデルに向けている。
(馬鹿な!! 今だって銃撃がきているんだぞ!? タレットでも作動させていたのか……!)
ファデルの横は両側とも壁によって阻まれている。
次の踏み込みで前に逃げるか、さらに後ろに逃げるか、
(答えはこれだ!!)
ファデルは地面を蹴って大きく上に跳躍する。
ラムは銃を撃ち続けながら、ファデルを追い照準を上に向けていく。
(このままでは追撃をくらってしまうが……!)
ファデルはブーツの装置を起動させる、靴底が物理的に展開されていきボードのようになる。
ボードによって銃撃を防ぎつつ、むしろそれはファデルの行く先の後押しにもなる。
ファデルはラムの視界から消えて、迷宮の中に入って行った。
(超音波による探知、本人のいる場所とは全く違う位置から飛んでくる銃撃、かなりの量の弾丸を消費してはいるが持久戦ではこちらの方が不利に思える……。どれか1つでも解決できればいいんだが……)
ファデルはボードを解除して走り出す。
同じ場所に居続けては銃撃をくらうだけでどうしようもないと考えたからだ。
ファデルの予想は当たり、時折ファデルを追うように銃撃が来るが、その都度ファデルは壁を破壊、上から乗り越える等のルート通りではない進行をした。
(敵は恐らく迷宮の構造を完全に理解している、その上でルートを無視して進めばこちらの位置の把握に超音波を使わないといけなくなる。だがこれだとまだ問題の解決には至らない)
一体どれ程の時間をかけたのか、ファデルはリモコンの様な装置を取り出した。
「ジャミング周波、出力開始」
リモコンにあるレバーを動かした。
ラムはパイプの中に銃口を突っ込んで引き金を引きっぱなしにしていた。
(さていつまでも逃げ続けても私からはどんどん離れて行っているわよ?)
超音波によってファデルの位置を得ていたラムだったが、突然ファデルの位置どころか迷宮の至る所に把握できない位置が現れた。
(ふふ、超音波を阻害する装置を設置したのね。リヴァイやフィンの対策として作っていたのか、あるいはこの場で作り上げたのか知らないけど、それを私が想定していないと思ったのかしら?)
ラムはその場から消え去る、そして次に消え去った場所からはかなり離れた場所に出現した。
肩の機械からは超音波ではなく、ライトをつけ周囲を見渡し、ファデルが破壊したと思わしき壁の中に装置の様なものが埋め込まれているのを確認する。
それを持っていた銃で破壊して、次の場所に瞬間移動する。
そこからラムは次々に超音波をかき消していた装置を発見して破壊して回っていった。
決してでたらめな動きをしているわけではない、迷宮の外周から渦を描くように移動していっているのだ。
(ふふ、予想通りね。これは私を揺動するための作戦、迷宮の中心で待ち伏せをして攻撃をしてくる。でも無駄な事よ)
そしてとうとうラムは迷宮の中心にたどり着く。
(ここは狙撃してもいいけど、絶望を味合わせるためにも出て行ってあげましょうか)
ラムは壁から飛び出して中心にいるファデルに向かって引き金を引く。
その最中、ファデルが反撃とばかりにビームが飛んできてラムはそれをまともにくらう。
だがなんとファデルの後ろよりラムが現れて、ショットガンでファデルを打ち抜いた。
ファデルは完全に動かなくなり、ラムは勝利を確信した。
「ふふふ、残念だったわね。一か八かの賭けに出たんでしょうけどそもそもいくら私を攻撃したって無駄よ。何故ならここはまさに……」
「……まさに私の体内そのものなんだからってところか?」