第16小節「廻り回る」
ファデルは鳥型を射撃しながら追っていた。
鳥型は上手くかわしていっているがファデルの狙いは別にあった。
「ポイント通過、ビーム照射!」
市街地にある電柱の頂点より鉄の棒が伸び、そこからビームが照射される。
電柱は一本だけではない、等間隔に並ぶ電柱より鳥型を狙いビームが照射されるのだ。
このビームの嵐に鳥型は避けきれずにくらい、墜落した。
爆発の中バイクが飛び出す。
「今度はカーチェイスでもする気か?」
ファデルは宇宙船を自動操縦に切り替え、船内にある車に乗って着地した。
「いや、違うな。やはり僕を誘っている……」
ソラは戦艦の後方に着地した後、艦内に入って行った。
「なるほど、どうも向こうもこっちも足止めが主な目的のようだな」
しばらく歩いていると、艦内の広い場所に出た。
段差があり、床に足がつかるほどの水が張られている。
「……面倒な事だなこれは」
ソラは広間の中心にいるフィンを見つめながらぼやく。
「ココハ、トオサナイ」
この大男にも肩には大砲のような筒状の部位が生えている。
「へっ、この浅さじゃ潜ることもできないぜ?」
ソラはこの広間が自分にとっては相性の悪い空間である事を知りながらも、軽口をたたく。
戦艦は国を守る主力が戦闘を開始したのを知ったのか、城に向かう速度を上げ始める。
「こ、これは!?」
「ふふふ、どうした?早く私を倒さねば後ものの数分で城にたどり着くだろうな」
リヴァイはあざ笑いながら言う。
戦艦からは大量の小型ミサイルと砲撃が放たれる。
それらは全てファデルが機械兵を通じて張らせた、エネルギーの壁によって防がれた。
「ほお?流石に対策はしているというわけか。だがこれもいつまで持つかな?」
「くっ、リヴァイ!」
カイリはリヴァイとの距離を詰め、剣を振るう。
その剣先はリヴァイの左腕に当たり、その先を斬るかに思えた。
カーン!
金属が生物ではない、何かに当たる音が響き渡った。
「焦っているな、カイリ・コーダ?だがお前の剣をもってしても私の盾は穿てないようだな」
リヴァイの左前腕にが横に膨れ上がり、盾を装備しているようになっている。
「これは一体……!? はっ!」
リヴァイの左腕に気を取られていたカイリはギリギリで、その死角から放たれた剣の突きをかわす。
「はあ!」
リヴァイの横に回り込んでいたルルフが剣を振る、リヴァイは余裕そうにかわした。
「うぐっ!?」
ルルフはまるで縛り上げられたかのようになった、否、本当に縛り上げられているのだ。
「ルルフ殿!」
カイリが駆け寄り、彼女を縛り上げていたワイヤーを見つけ、剣で切った。
「何をしたというの……?」
リヴァイは笑みを浮かべながら肩の突起を叩く。
「まさか、あそこからワイヤーを?」
「カイリさん、これはかなり厄介な相手になってきましたね……」
ファデルは車でバイクを追っていると、本来そこにはあるはずのない巨大なドームの中に入っていた。
ドーム内は複雑に入り組んでおり、入口に入ったすぐ近くにバイクが乗り捨てられている。
「やはり罠か、だが乗るしかない……」
ドームの中は明かりはなく、かなり暗い。
ファデルはライトで最低限の視界を確保しつつも、慎重に歩みを進めていく。
「……、……はっ!?」
ファデルはそれに気付いて咄嗟に伏せる。
その直後、彼の上を銃弾がいくつも過ぎ去り、その先の壁を穿っていく。
(バレているのか!)
ファデルは閃光弾を投げて右手側に逃げていく。閃光が放たれるのを確認しながら走る。
城の屋上から戦艦の進撃を見つめる双子がいた。
「ラミア姉様、あいつが言っていたようにになさるの?」
「そうよレヒア、あの御方は私達に役割を与えてくださったのだもの」
双子は青と赤の円盤をそれぞれ取り出した。
「レヒアは赤が好きだったわね」
「ええ、ラミアは青が好きだったわ」
赤い円盤の上に青い円盤を重ねる。
「青き炎の環」
「赤き水の渦」
木と木がぶつかる音が鳴った。
「「♪【対貝網奏】♪」」
それは戦艦の先端がいよいよ市街地に差し掛かった所であった。
突如として戦艦の真ん中の船底より赤い水の渦が発生した。
渦はどんどんと広がって大きくなっていく。
それと時を同じくして同じように戦艦の上空に青い炎の環が出現した。
環は渦と同じように回転しながら広がり、大きくなる。
その現象を体感したのはカイリとルルフ、そして彼らと相対していたリヴァイであった。
「うぐ!?」
「か、身体が……どうなっている!?」
3人の身体は人形のようにピクリとも動けなくなってしまう。
「あ、あれは……!?」
なんとか顔を動かして状況を探っていたカイリが空にある、青い炎の環を発見する。
「ぬぅ……、アレが原因か!?」
リヴァイも同様に環を発見する。
戦艦の動きも3人同様に完全に止まってしまう。
「なんなんだこれは……、……んなっ、何!?」
炎の環の内より同じく青い炎が雨のように降って来た。
「うぐおおおお!! シータ!防護壁を張れぇー!! 早く!!」
リヴァイは持っていた無線機に向かって叫ぶ。
この動けない状況では敵も味方も関係なく、あの炎の雨に襲われる。
無線が幸いにも通じたのか戦艦の甲板全体が、分厚い防護壁によって覆われた。
「くはっ、動ける!」
照明が付いて、中が照らされる。
「さっきのは、圧力か?室内だと動けるあたりそのようだ」
リヴァイはゆっくりと飛び上がる。
「そしてこの空間は私にとっては実に有利だ。さあ、再開しようじゃないか」
戦艦は防護壁によって上からの炎の雨は防げたものの、相変わらず動けずにいた。
そんな様子を【銀騎士】は観察していた。
「第二世代、実験NO EAR、『双耳』の魔女。一度でも聴いた技をかなり近い形で再現する事の出来る魔女。弱点と言えばその使う技が二人で行う合体技に限定される、よって双子の内のどちらかを無力化できればもう片方を潰すのも造作はない……」
【銀騎士】は下の方に視線をやる、赤い渦はいまだに船を囲んで動いている。
「環は右回転、渦は左回転。相対する力の流れがあの戦艦を抑えつけた。……それを単なる偶然かは知らんがシータは双子に一度勝てた」
渦の動きが微妙に変化していく。
「あいつらはファデル達のような戦える者こそが最大の脅威としていたがそれは誤りだったな、腐っても特能、もうすでに危ういぞ?」
【銀騎士】は双眼鏡での戦艦の観察をやめた。