第14小節「押しを出すには」
ソラは軍の車両を借りてカイリと共にパーチェ王国にある山の方に向かっていた。
「それで、確かカイリ君の剣の師匠の元に向かっているはずだよな……?」
「はい」
「あー、まあ。あんまり悪く言うつもりはないんだがこんな山奥に住むなんて随分と偏屈な人なんだな」
「私が隊長になるのと同時に引退をしてしまいましたからね……、私自身しばらく会ってないのでどのような生活をしているのやら」
整備された道路が途切れ、獣道を走っていく。
やがて視界が開け、いかにもな丸太を組み立てて建てられた山小屋が見えた。
「ここか」
2人は車を降りて山小屋の扉をノックする。
扉が開いて中から小柄の初老の男が出てくる。
白髪の、少し幼っぽくも見える顔、そして年老いてもなお衰えを知らない鍛えられた身体。
(うちの局長といい、武を極めた人間てのはこうなるのか……?)
ソラは既視感を感じながらもカイリをつつく、
「師匠、お久しぶりです」
「うーむ、まあとりあえず中に入れ」
中もいかにもな山小屋の作りである。
「来客なぞ想定しとらんかったからの、そこの人が椅子に座っときなさい。私と小僧が床に座る」
「はあ、どうもお構いなく……」
床に座り向き合う老人とカイリ、カイリの第一声は土下座と共に発せられた。
「申し訳ございません師匠!私が不甲斐無いばかりに、また師匠に剣をご教授していただきたく!!」
「全く、お前さんは相変わらず正直じゃの。事情は知っとるが本当に情けない」
「知っていたって、この国に起きていた問題を知っていたんですか?」
ソラが思わず尋ねる。
「おう、ちょっと前にここら辺に機械兵が迷い込んどっての。それでいろいろと調べたんじゃ」
「しかし、剣を教えてくれとはの。私が引退したのはお前さんが立派にやれると思ったからじゃが、何があったんじゃ?」
カイリは今回国に起きた事件と、その戦いの中で勝つのに自身の実力不足を痛感した事を話した。
「なるほどの、『押し』のお。まあとりあえずは今のお前さんの実力を見せてもらおうか」
外に出た老人とカイリは木剣をもって対峙していた。
「それじゃあ、……はじめ!」
ソラが開始の合図をきる。
両者はほぼ同じタイミングで踏み込み、鍔迫り合いになる。
老人が上手く力を流し、カイリの後ろに回り込む。
カイリはそれに対応して老人の攻撃を防いでいく。
そうして何回かの攻防の後、老人の剣がカイリの首元で止まった。
「そこまで!」
「ふう」
「はぁはぁ……」
(カイリ君はそこまで動いていないはずなのに随分と疲労しているな……)
老人は木剣を見つめながら言う、
「お前さん、変わっとらんの。それこそこの前激戦を繰り広げたと言う割には、その経験がまるで活きとらん。私が想像した通りの成長を遂げておる」
「そ、そうは言われましても……」
「まあ今は分からんでもええが、ここでの修行でみっちりと教えてやるからの」
「まずは基礎の向上からじゃの、今から私を追って捕まえてみなさい。この山からは出ないからの、それで十分じゃろ」
老人は特に予告もなくいきなりその場から消えた。
「なっ、ええ!?」
カイリはあたふたしながらも走り出す。
「恐ろしいスピードだな、俺もある程度の方向しか分からんかったぞ……」
ソラはぼやきながらも小屋の中に入って行った。
カイリは山を手当たり次第に走っていきようやく老人の姿を見つけることが出来た、ようやくというよりかは偶然なのだが……。
「くっ、師匠が最も得意とする跳弾移動か……!」
老人は木々を足で蹴り跳ね、行く手を塞ぐ木を上手く力を流して身体の向きを変えているのだ。
縦横無尽に跳ね返りながら移動していく。
何処に行くのか、それは老人のみにしか分からない。
カイリは少なくともそう思っている。
(この動きの法則を見切り、捕らえれると言うのか!? ……だがやらねばいけないんだ!)
結局その日はカイリは老人を捕まえることが出来ずに2人は小屋に戻って来た
「うむ、やはりてんでダメじゃの」
翌日、カイリはひたすら木の的を木剣で叩く修行をさせられていた。
「カイリ君はいい弟子ですね、こういった事に一切文句を言わない」
「正直育て方を間違ったのかと思うくらいには昔から従順じゃったの、だからホイホイと騙されたのやもしれんがな」
「しかしその正直さもたまにはいいのやもしれません。俺も彼とは少しの間ですが、信頼はできると思っていますから」
「そうかの、ホントはそういうお前さん達みたいな者のいる所にいるのがいいんじゃろうがの」
「……そうですね」
2日後、兆しが訪れた。
打ち合いにおいてカイリが初めて老人を圧倒した。
その時のカイリも何かに気づいた様子だった。
「これは……、そうかこれが『押し』なのか……!!」
(なるほど、押してダメならなんとやらって感じだな)
ソラもカイリの答えに納得した。
「カイリよ、どうやらお前さんの答えを見つけれたようじゃな。じゃがこれを上手く戦闘に活かせるようにせなならん」
「そうだな、確かに『押し』を最大限に活かした技とか考えないとな」
「はい!」
森の中、【銀騎士】は空になったアタッシュケースの中を眺めていた。
「これこそ、お前に与えられた力という事だったんだなシータ」
「【銀騎士】様、我々は今度こそ2つの国を壊滅させてみせます」
「表明はどうでもいい、いつやるんだ?」
「今からです」
「……良いだろう」
【銀騎士】は立ち上がってその場を立ち去る。
「シータ、調整はもう完璧よ」
「これでパーチェ、ローズ、両国をつぶすことが出来るでしょうね」
「では公演を再開しましょう。破滅への序曲を」
シータは【銀騎士】が置いていった空のアタッシュケースを拾い上げる。
中にあるボタンを押して地面に置く。
王国内にてシータ達の襲撃に備えて防衛システムを組み終えたファデルは、貸してもらった部屋で眠っていた。
部屋の扉がノックされて目を覚ます。
扉を開けるとルルフが焦った様子でいた。
「何かあったんですね?」
「警報が鳴っていますおも!」
「思ったよりも早かったな……」
ファデルはルルフについていく。