第11小節「剛によって熱を上げ」
ソラの走る道は普通の道路であり彼を追う機械装甲車は辺りの建物を破壊しながらすすんでいる。
「……、さすがにこれは逃げの一手だけじゃここら一帯が目も当てられん状況になるな……」
ソラの理想ではもう少し小さくなって追ってくるものだったのだが相手も手段を選んでいられないらしい。
「しゃあなしか」
ソラはスピードを緩めて装甲車の下を潜り抜ける。その際爆弾を貼り付けて安全な位置で爆発させる。
しかしさすがに爆弾一つで装甲車を破壊する事は出来ない。
「まあ後ろががら空きのところを叩かせてもらうぜ」
ソラは蛇型にも使ったマルチミサイルランチャーで装甲車を爆撃する。しかし装甲車はなんとパーツとして分かれて再び合体してソラに向いていた。
「なるほど、骨が折れそうだな」
装甲車はソラに向けて砲撃をしながら走り出す。ソラは再び装甲車の下を潜り抜けようと考えたが車体下にも砲口が見えたため大人しく逃げることにする。
(あのデカ物をどうにかするにはそれ相応の火力が必要だが……)
砲撃をかわし続けるのも楽ではない。だがそれでも走り続けながら手を打っていく。
(そろそろか?)
ソラは来ていた服の胸ポケットからカプセルを6個取り出す。すでにあたりは瓦礫の山が広がり街とは呼べない。そんな瓦礫の山をバイクで通りながらカプセルを一個づつ蒔いていく、ソラがカプセルを設置した場所を線でつなげば少し歪だが円となる。その中心に装甲車を来させた事でソラはバイクを飛び降りた。
「今だ!【フィールド:スチームサークル】!!」
次の瞬間ソラのばら蒔いたカプセルが砕けて円の中を蒸気が満たした。その影響か装甲車の下からも蒸気が吹き上げ装甲車をひっくり返した。
さすがに装甲車も飛ぶことを想定していなかったのか空中できりもみそのまま地面に衝突、装甲車は爆発と共に大破した。
次にソラは上空を見る、するとパラシュートで降下している獣人ラム・ぺビットを発見する。
「おいおいそんなのんきに降りれるとでも?」
ソラは跳躍する、すでにその手には大剣が握られており。空中において格好の餌食であるラムに向かう。
「おら!」
カキンという甲高い音とともにソラの攻撃は弾かれた。
「あん?」
もう一度攻撃を試みようとするが腹に蹴りをくらって落下する。
「うっ、くそ!」
何とか着地に成功するがその上からラムが明らかにパラシュートで降下していた時とは違うスピードで空を切り蹴り攻撃をして来た。
カン!カン!咄嗟に上に構えた大剣から響く甲高い二撃の音、
「!?、これは!!」
ソラはこの状況をまずいと感じて後ろに跳躍する。直後にラムの三撃目の蹴りが地面に当たり四撃目の蹴りによってラムが着地した。
「なるほど、タイマンでもそう簡単にやらせてくれそうにないか」
「当り前よ、かかってきなさい。科学者だからと言って甘く見ない事よ」
力強い踏み込みによってラムはソラとの距離を一瞬にして詰める。彼女の武器はその鍛え抜かれた肉体、対してソラは大剣持ち、距離を詰め攻撃できなくすればラムの方が有利である。
しかしそれはソラも理解している。ラムの拳を大剣で防ぎそのまま大剣でラムを押し流した。
「足運び【大蛇】!真剣流・剛 拾壱の型・改」
「なっ!!」
迫りくる強大な力、それは蒸気を身、否剣に纏いラムに向けて撃ちあがる。
「【上昇汽流重撃】!!」
「うぐわっ!」
重く重く、熱き一撃はラムを空高く飛ばす。
「これしき!」
しかしラムも全く対処できていないわけはない、衝撃を上手く緩和して空を蹴る。
ラムの考えではソラはこちらを追撃せずに待ちの姿勢になるはずだ。そのうちにラムは静かに地上に降りたってガラクタとなった装甲車のある地点であるものを探す。
「あったわ、やはりこれに入れておいて正解だったわね」
ソラはラムの思惑通りラムの次の手を待っていた。こちらから積極的に攻めても良かったがそれではラムが逃走する可能性がある。しっかりと捕らえるか殺すかしておかなければ後々面倒なことになるからだ。
そしてラムはソラの前に姿を現していた。ソラはある種の自己領域を周囲に展開していたためラムが地上で何かをしていたのは知っていたが何をしていたのかまでは知ることができない。ましてや今ソラの前にいるラムに特段の変化はない。
(さすがに無為な時間を過ごしたわけじゃないだろう)
熱が冷めるのを待っていたという可能性も考えたがそういう感じでもない。ソラは静かに警戒を強めて、一歩ラムに向けて足を出す。
「分からないなら答えはこうするしかないな」
ラムはそんなソラに特に反応も示さない。
「足運び【大蛇】」
身を低くして地を這う蛇のごとくラムに近づく。
「これで!」
「終わりね」
ソラの一撃は弾かれ、そして機械が空を囲んだ。
「これは!?」
「強力な拘束、そこへとつなぐ最初の一撃は効果的になる」
「何を……はっ!」
拘束の方に注意がそれていたためラムの変化を見逃していた。機械を着込む。そう表現するのが一番と思うくらい、しかしそんなことを考えていたソラに向けて容赦のない一撃が振り下ろされた。
拳は機械によって巨大化して無抵抗なソラを殴った。
「うぐっ!!」
勢いよく吹っ飛ぶかと思ったのもつかの間、ラムの拳がソラの体をつかんで今度は上空に放り投げる。ラムは跳躍しソラを追撃する。
叩き落とし、地面に落下、再びつかんで、その場で連撃。
ラムはソラを心の底から見下した。よくわからない力によって追い詰められたがこうも簡単に油断をして罠にかかるのだと、本気でそう思ってしまった。
「俺が冷めてたからな、こうしてもらえてありがたかったぜ」
ラムはその発言も聞けずに、視界が空転していることに気が付いた。
「え?」
どうして?彼女は一方的に蹂躙しているはずだった。しかしソラは待っていたのだ、自身の熱量を挙げてくれるのを。そうして拳の拘束を破壊してラムを蹴り飛ばした。
「悪いというか残念だがお前は生かしておかないといけないからな。最小限の手加減をするぜ」
そう言うソラは確かに体験を持っていなかった。しかしその配慮が本当に必要だったのかと思うほどに、
「己が肉体は刃、己が肉体は剣。真剣流・力 壱の型・改【剛力一閃・参重撃】」
体をひねり、手刀によって繰り出される三回の抜刀撃、当然それに耐えれるわけもなくラムは気絶した。