第10小節「協奏は狂騒となり」
眩しい光により視界が塞がれている間カイリとルルフはモニカと国王を抱えて窓から飛び降りる、会議室のある部屋は三階であり人を抱えたまま飛び降りるのはかなり危険な賭けだったが二人はなんとか着地をして車に乗り込んだ。
ファデルとソラも窓から飛び降りてファデルはもう一台の車、そしてソラはそのまま走って城から離れていく。
視力が戻りリヴァイは状況の確認を素早く行う。
「ふん、どれだけ逃げようがこの国はもはや我々が牛耳っているも同然。必ず捕らえて殺してやる!ラム、すぐにS型とB型の準備をしろ、全機械兵も出動させるんだ!!」
『いいけどリーダーの許可は取らないで行くわけ?』
「どうせリーダーはもう動いているさ、ならば演奏者は最高の指揮を引き出せるように土台を整えるのが務め。ムドラ!いい加減動け!!」
ソラはまたもや手頃なバイクを拝借し適当に道を走らせていた。
「妙だな、てっきりロボットの軍勢に追われると思っていたが……」
城からは大分離れているがそれまでの間ロボットとは一体も遭遇していない。
それはファデルやカイリ達も同じだった。
「10分経過、そろそろか?」
ファデルが車の速度を少し緩めた、
ガラガラ、ガラガラ、ガラガラガラガラガラガラ
チリン
「来たか」
車を止めて降りる。
振り返れば道を大量のロボットと蛇型が走りこちらに向かっている。そしてリヴァイが空を羽ばたいている、背中から生えている翼はどうも本物のようでリヴァイはもはや人の姿には見えない。
(魔族、いやあれも獣人族だな。蝙蝠か)
「ファデルぅぅぅ!貴様だけは許さん!!」
「そうか、だがまずはその物騒な連中を片付けさせてもらうぜ?」
ファデルは剣を取り出し、ロボット兵のど真ん中目掛けて爆弾を投げた。
カイリ一行の車はロボット達に道を阻まれどこかに誘われているようだった。しかしそれ以上の動きはなくただいつ罠が来るのかという緊張感に車内は包まれた。
少しして空から飛行機のような音が近づいてきた。
「航空機、空から来たか」
「いや、あれは!」
航空機は航空機でもそれは鳥型の機械兵、その上に居座るはフィン・ムドラ。
「迎撃」
そう短く言ってボタンを押すと鳥型の腹より銃が現れて車を狙う。
「歯をくいしばってください!!」
ブレーキを踏んで鳥型の銃撃を回避する。鳥型の撃った後は地面が抉れまともにくらえば死んでいただろう事が容易に想像できる。
「しかしあのような大型の機械兵を相手にしては……」
「国王様、モニカ首相、ここは我々二人が」
「頼みましたよ」
二人が車から降りると同時にフィンも鳥型より飛び降りた。
「オ前達、倒シテ、車ノ二人、殺ス」
「そうはさせるものか!」
「必ずや貴方に勝ちます!」
二人はそれぞれ剣を構え戦闘が始まる。
ソラは時々ロボットに当たるだけで順調と言えた。しかしファデルやカイリが襲撃を受けたのと時を同じくしてロボットに囲まれた。
正面にはどの動物も模していない機械の巨大な乗り物がいる。
「楽しくツーリングって訳にはいかなそうだな」
ソラはバイクを全速力で走らせロボットの包囲網を抜けた。
「全く、リヴァイもバカね。こんな雑魚相手にリーダーの計画を台無しにして、まあいいわあいつ捕まえて早く研究に戻らないと」
機械の乗り物の操縦者、ラム・ぺビットがソラを追い始めた。
何を間違った?何を見逃した?
そう考えながらシータ・クトンはパーチェ城の玉座に座っていた。
「面倒ね、これじゃ計画が台無しよ。初めはこの国の瓦解だけが目的だったのに、どんどん事が大きくなって。でもこれでまとめて事を片付けられるわ、国王と首相を一緒の車に乗せたら大チャンスになるに決まってるじゃない。そう思うでしょ特能さん?」
金髪のローブを身に纏った双子の女が謁見の間に入ってくる。
「ねえラミア姉様あの女は今まで私達に話していたの?」
「そうねレヒア姉様でもあの女は思い上がっているわ、だって」
「「この惑星の事はこの惑星の人間だけでどうとでもなるんだから」」
「気持ち悪い、虫酸が走るわ。魔女風情が!」
シータは短剣を抜き双子に向かい歩き出す。
爆発は巨大だがファデル達は決戦場所を人気のない場所にし、事前にカイリの指示で避難勧告が発せられたため人害は出ない筈だ。
しかし辺りの建物は爆発によって吹き飛ばされ、跡にはロボットの残骸と蛇型が鎮座するだけである。
「無駄だ、S型の装甲はそのレベルの爆発にすら耐える強度だ」
「そうだな、追いかけられている時もそうだったからな」
ファデルは茶色い柄のながい棒に黒い刃のついた槍を取り出した。
「その刃……また強石鉄か、一体どこからそんなものを……」
「貰った、……というのは間違いだな」
「それでS型を倒そうと言うのか?ふん愚かな」
「まあこれはちょっと特別でな、試してみなきゃわからない」
「やれ!」
蛇型が体より銃を出現させて攻撃を始める。ファデルはこの初撃をかわし、蛇型の背に回る。
「愚かで誰もが思いつく戦い方だ。S型には当然その動きを狩れる!」
蛇型は自身の背に向けてその口からビームを放った。ファデルは走りながら蛇型の装甲の隙間に槍を突き刺してその勢いで跳躍する。
「無駄だ!」
リヴァイはその好機を逃さない、剣でファデルの跳躍しているところを攻撃してくる。
「くっ!!」
なんとか槍で攻撃を防ぎ地面に着地する。そこを蛇型とぐろを巻いて囲んだ。
「諦めろ、自身の持つ武器で自滅する兵器など何の役にも立たない。貴様の行動全てがこのS型を倒すきっかけすら産まない」
「それほど丈夫だって事が分かっただけでも意味があるさ」
「モノは言いようだが。それは貴様には見合っていない」
蛇の口が開いてビームを放つ。ファデルは飛ぶこともかなわずにまともにくらった。そう確信して蛇のとぐろの中を見ると地面にはどう考えてもビームだけで破壊したとは思えない穴が空いていた。
「実に合理的だ。だが言った筈だその動きは何も為さず狩ることができる」
蛇型が穴の中に顔を突っ込みビームを放った。穴がさらに広がり地面を揺らす。
しかし別の場所から穴を開けファデルが飛び出す。それを見越していたかのように尻尾を伸ばしてファデルを薙ぎ払う。
「うわっ!!」
さすがに避けることも受けきることもできずに吹っ飛ばされた。