第9小節「歪さをより歪ませれば」
ファデルとソラはフィンを相手に苦戦していた。彼の巨体とその厚い皮膚により攻撃が通らない。不意打ちは超音波によって察知され意味を持たない。
「この野郎!!」
ソラの大剣の大振りを真正面から受け止めあまつさえ反撃をする。その強靭さに焦りを覚えるのは時間が限られているからだ。
(落ち着け、焦れば焦るほど時間は失われていく……)
会談自体はそう早く終わりはしないがその場に同席するリヴァイが何もしないとは思えない。更にフィンはまだ増援を呼んでないがいずれはこの国に来た時と同じ状況になるはずだ。
(そもそもこいつをここで倒す必要はない。あの扉の先に行くのが目的だ。ならば!)
ファデルは捨て身でフィンに突撃していく。
「ファデル君何を!?」
「来イ、全テヲ、受ケテヤル」
ファデルは剣も持たずに自らの拳でフィンのわき腹を殴った。しかしフィンは動じずにファデルを殴り返そうとする。
その拳をまともにくらえばひとたまりもない。その攻撃を受け流し、受け流しつつも少しだけ力添えをしてあげた。
フィンの拳は止まらない、ファデルは身を低くして攻撃していた為その拳の狙いも下に向けたものである。
フィンの拳は止まらずそのまま拳は地面にめり込んで、まだ止まらなかった。
そのあまりの勢いを利用してファデルはフィンの身体に手を当てそしてフィンの身体を持ち上げて投げ飛ばした。
フィンは仰向けに倒れ、そのまま少しの間が空く。自身が投げられた事を理解していないのだ。
その間は少しだが確実な隙となった、ソラはフィンの倒れた周りに何かを設置してフィンを縛り付けた。
「コンナ、モノ」
フィンは拘束をほどこうと力を込めたが彼を縛り付けた縄はソラの設置した杭に結びつけられてほどけない。
「何故?」
「その杭はちょっと特別でなちょっとやそっとじゃ外れんぜ?俺みたいに熱っぽい体質じゃなきゃな」
そう言い残しソラはファデルに続いて扉の中に入っていった。
扉の先は通路が続いている。
「熱っぽい体質だなんてよく言いますよ」
「ははっ、聞かれたか。それより急ごう」
二人は走り出す。
会議室ではリヴァイの『声』によって4人は意識が薄れていた。
『この警報は明らかにロゼリア国の裏切りによって引き起こされたものです』
「そ、そんな……ことは……」
モニカはリヴァイに対して反論使用としたが言葉がうまく出てこない。
『いいえ、モニカ首相。貴方は元からこうする気だったのです。この城の内部に工作員を送り込んで侵略しようとした。それが真実なのです』
モニカとルルフは次第にリヴァイの言っている事が本当かもしれないと信じそうになってしまう。
「わ、私達は……話し合いを……」
『いいえ、それは建前だ。貴方はパーチェを崩壊させる為にこんなことをしたんだ。それが貴方の本当の狙いだったんだ』
「そ、れは……」
言葉が詰まる、いよいよ抗う力がなくなってきた。
『ご覧ください国王様。モニカ首相は何も言えない、それが真実だからなんです。ロゼリアはパーチェを憎んだ。それで良いんだ』
「そ、そんな事は……」
『ないとは言いきれないでしょう。私の言葉を信じてください。この国の未来のためにも』
リヴァイは剣を取り出してゆっくりとモニカに近づいていく。
『私が今からモニカ首相を処刑してあげましょう。これでこの国に永遠なる平和が訪れるのです』
「平和、それが本当に……」
「ええ、それが真実なのですから、ね!!」
リヴァイが剣を振り下ろす、そして次の瞬間モニカ首相の首はその刃によって斬り落とされ、会議室を血が染めていく。
そんな幻影すら見える程にリヴァイは勝利を確信していた。
その陶酔を打ち砕いたのは刃と刃がぶつかる甲高い音、カイリの剣がリヴァイの剣の向かう先を止めたのだ。
「なっ!?カイリ・コーダ!一体どうやって!?」
「さっ、せて、なる、ものか!!」
ふとリヴァイがそのまま押しきろうとするとカイリが右手だけでしか剣を持っていないことに気づいた。
もう片方の左手は拳が握りしめられている。
直感的にカイリを踏みとどませている何かがあると確信したリヴァイはカイリの左手首を掴んで手を開かせる。
手の中には黒い刃の片方がある、カイリはこれを握りしめ痛みによってリヴァイの言葉を耐えたのだ。
「強石鉄!?まだこんなものにすがりついているというのか!その程度の痛みなどではちっぽけな抵抗にしかならんというものを!!」
リヴァイはカイリから強石鉄の片方を奪う。
「だがそのちっぽけにお前は足元を掬われるんだぜ」
「なにを!?」
しかしそれはカイリが発した言葉ではないことに気づいた。だがこの場においてはカイリ以外に誰ももう言葉を発することは出来ないはず、ならば他に一体何が?
そこまで考えていた思考は次の瞬間には全て吹き飛ばされた。
キーン
という金属と金属のぶつかり合う、否もっと優しく柔らかく包み込むように触れあった、そんな音が聞こえた。
音は惑わせれた者達を救った。
音が4人を包み込んで、はっと目を覚まさせた。
音は惑わすものを罰した。
音が耳を反響しあって凄まじき轟音となりリヴァイを襲った。
「うぐわあああ!!こ、この音はっ一体!?」
耳を塞ぎながら音の根源を探す、すると会議室の入り口に金髪の黒いローブに身を包んだ二人の女が居た。
「き、貴様らは金髪の!」
「やはりこの二人を捕らえていたのはお前達だったか」
ファデルとソラ、謁見の間の扉の先にある空間から片割れを救出して急いで会議室まで来たのだ
「どうしてここに?まさかフィンを討ち破ったのか!?」
「いや、縛りつけただけさ。まあそろそろ抜け出せるだろうがな」
「そしてお前達の企みは崩れた。俺達の探し者、特能のこの二人をどうしたかは知らんが倒して利用していた。お前の声に他人を惑わすことが出来てもここまで長く、指摘されなければ疑う機会すら与えれない程の強さはない」
「そうさ……その双子を使い私の声をより強くしていた。ゆくゆくはロゼリア国と正面衝突させる気だったが……」
「なるほど、だからロゼリアにもう一人を置いたのか」
「双子とは不思議なものだ、互いが互いを求め引き合う」
「その力は結局国を跨いでも繋がっていたわけだ」
「恐ろしいものだ。だがもはや正体を隠す必要もなくなった今、私は容赦はしない。今人質を二人もとりかねないようなこの場で戦闘はできまい」
「それはどうかな?」
ファデルは地面に何かを投げつけた、次には会議室は閃光に包まれた。