第7話 お持ち帰り、ご遠慮願います。
クルクルクルクル…。
クルクルクルクル…。
ホント、よくやるなって思う。
殿下、舞踏会が始まってから、ずっと踊りづめ。
お相手は、イリアーノさんだったり、他の知らない令嬢だったり。
もう、いったい何人目なのやら。
誘われたら断れない、王太子としての立場もわからないではないけど。
(それにしても踊りすぎ)
イリアーノさんだって、時折休憩してるってのにさ。(そして、殿下以外の男性とも踊りに行く)
(バルトルトさんと代わってあげられたらいいのに)
このいかつい隻眼男は、ずっと壁の熊になっている。それも、メッチャ不愛想に、ムスッとした顔で。まあ、場違いなことは否めないけど。もう少し笑ったほうがいいんじゃないのかな。「俺に近づくなオーラ」が、バシバシ出てる。
「楽しんでるか、バルトルト」
不意に、声をかけられた。
バルトルトさんのオーラに気づかない、鈍感な人もいたもんだと、少し感心する。
「はっ」
ピクッと、バルトルトさんの背が伸びる。けど…、誰⁉
近づいてきたのは、殿下と同じぐらい豪華な衣装の男性。
背丈も殿下に近いかな。栗色の髪、紫色の目の若い男の人。
見たことないけど…。
「全然踊ってないみたいだが、ちょっとぐらいどうだ⁉」
男性が、中央を指さす。
「いえ、私はここでじゅうぶんです」
うわ。バルトルトさんが、自分のことを「私」って言ったよ。いつもは「俺」なのに。
(珍しいものを聞いたわ)
このバルトルトさんが、背筋をのばすぐらいだもん、身分ある人なのかも、この人。
「そう!? それならいいけど」
と、イキナリ男性の目線がこっちに向けられた。
「で⁉ これが新しい従者かい!?」
上から下まで、ジロジロジロジロ。
かなり失礼な視線。
「お前、名は!?」
「え!? あ、レオです」
「ふ~ん」
なんか顎に手を当てて思案される。
何!? なんなの!?
もしかして、女ってバレてる⁉
意味の分からない視線は、無駄に緊張する。冷や汗、タラタラ。
(殿下といい、この人といい。結構ぶしつけに人を見てくるな~)
身分ある人って、全部こうなのかな。どこ見てたらいいのかわかんないから、目が泳いじゃう。
「ランベルトッ」
殿下の声に、ようやく視線から解放された。
…ってか、ランベルトって。殿下の弟王子⁉
「やあ、兄上」
にこやかに、男性がふりむく。「兄上」と呼んでるあたり、間違いはないみたい。
(これが、ランベルト王子…)
髪の色も瞳の色も違うし、顔だちも、正直、あんまり似ていない。殿下のが繊細な顔立ちをしてる。ランベルト王子のほうは、悪くはないけど、殿下に劣ってる気がする。
(母親似と、父親似なのかな)
それなら似てなくても仕方ない。
「兄上が新しい従者を雇ったと聞きましてね。ちょっとばかり、拝見させていただいてたんですよ」
そんなウワサが。
私、もしかして王宮中の注目の的なの⁉
正直な話、あんまりうれしくないなあ。
爽やかな笑顔のまま、殿下が近づいてくる。
そして。
グイッ―――。
腕を引っ張られて、抱き寄せられた―――っ!!
(%台&#@$5*¥――――‼)
思考、限界。パニック、パニック‼
踊ってた人たち、踊ろうとしてた人たち、みんな固まったっ!!
「かわいいだろ⁉」
ギュウギュウと抱きしめられ、頭の上にポンッと顎を乗せられた。
「これは、オレのお気に入りだからな。やらないぞ!?」
なんか、挑戦的な目で、ランベルト王子を見てる⁉ ってか、「お気に入り」ってなにさーっ!!
「優秀な従者なら、譲っていただきたいところですが。『お気に入り』なら、仕方ありませんね」
ランベルト殿下が笑って返す。
だけど。
ランベルト殿下も、そこ、納得しないっ!! 「お気に入り」強調しないでっ!!
「ん⁉ どうした!? 疲れたのか⁉」
殿下が甘い声を出して、私の顎をグイッと持ち上げた。
間近に迫る、青い瞳っ!!
ときめくよりも、パニックが先っ!!
あわわわわわ…。
「そうか、そうか。早く寝所に戻りたいのか」
んなこと言ってなーいっ!! 勝手に話作んないでぇっ!!
殿下が、用意しておいたゴブレットに手を伸ばす。
それを、片手でクイッと飲み干すと…。
(…………………っ!!)
口移しで飲まされたっ!!
ゴクリと、私の喉を葡萄酒が流れ落ちていく。
あ、もうダメ。
お酒、弱いのに…。皆、見てるのに…。
広間、メッチャざわついてる。ランベルト王子も、顔ひきつったまま、固まってる。
バルトルトさんが舌打ちしてるし…。イリアーノさんは…、ダメだ。確認不能…。
クニャンとなった私の身体を、殿下が横抱きに持ち上げる。
「ではな、ランベルト。オレはこのあたりで、失礼するよ」
舞踏会のみんなのざわつき、半端ない。
そりゃ、殿下が従者(男)をお持ち帰りすればねえ。
ウワサ通りだなとか、なんとか。そういう話になっちゃうよねえ。
(あ、でも、このままお持ち帰りされても、私、困るっ!!)
まだ、殿下をメロメロにしてない。
この状態で、ことに及ばれても、女ってバレるだけで、マズいじゃんっ!!
(に、逃げなきゃ…)
適当な理由をつけて、寝所につくまでに…。
とは、思うんだけど。
(もー、ダメだ…)
ユサユサと揺られて、お酒もまわって…。
思考、トロントロン…。
…………ウニャ…ァ。